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iReal Proを使いこなそう─ダイナ・ミキが教えるボーカリストの役割と練習法【ジャムセッション講座/第30回】

ARBAN

ジャムセッション講座30

これから楽器をはじめる初心者から、ふたたび楽器を手にした再始動プレイヤー、さらには現役バンドマンまで、「もっと上手に、もっと楽しく」演奏したい皆さんに贈るジャムセッション講座シリーズ。

前回、ボーカルセッションに参加してコテンパンにやられた千駄木記者。その反省とリベンジを胸に勉強を重ねるなか、YouTubeで気になるコンテンツを発見。シンガー/ボイストレーナーとして活躍するダイナ・ミキさんのチャンネルだ。10年以上前からジャズボーカルに関する情報を発信し続け、登録者はすでに1万人以上。というわけで、直接ご本人に話を伺ってみた。

【本日のゲスト】

ダイナ・ミキ
シンガー/ボイストレーナー。東京を拠点にボーカリストとして活動後、沖縄に移住。国内外のステージに出演を続けながら、教育者としても活躍する。これまでに音楽専門学校や音楽事務所での講師も務め、現在はオンラインでのレッスンプログラムも人気を博している。

【担当記者】

千駄木雄大(せんだぎ ゆうだい)
ライター。31歳。大学時代に軽音楽サークルに所属。基本的なコードとパワーコードしか弾けない。セッションに参加して立派に演奏できるようになるまで、この連載を終えることができないという十字架を背負っている。アニメやゲームは詳しくないが、『ひなビタ♪』という音ゲーの楽曲をジャズアレンジした『BLUE MOON NIGHT-HINABITA♪ JAZZ CONCERT 2025-』は修浩一さんも出演するので気になっている。

コロナ禍でYouTubeに活路

──今回はジャズ・ボーカルについて学びたいと思います。ゲストはシンガーのダイナ・ミキさんです。ちなみにこのお名前は本名ですか?

もともと「ダイナマイト・ミキ」という、とんでもない名前で活動していました。当時は今よりも20キロくらい太っていて、ソウルやR&Bなどブラックミュージックをパワフルに歌っていたんです。

──現在とは雰囲気が違いますね。

パワフルな歌唱も得意ですけど、じつは当時から、優しくふんわりした雰囲気の曲も歌っていたので、「ダイナマイト」という言葉は強すぎるな…と感じていて。そして年齢を重ねるにつれ、「マイト抜きでもいいかな?」と思うようになり、今の名前になりました。

──ダイナさんはプロのシンガーとして活躍される一方で、ボイストレーナーとしても人気を博しています。現在、ご自身のYouTubeチャンネルでも情報を発信していて、チャンネルの開設は2008年。かなり早いですね。

最初は自分のステージの動画を公開していて、教則系の動画をアップし始めたのは7年くらい前ですね。

──解説動画の内容は、ボイストレーニングやボーカルレッスンですが、呼吸法や筋肉の使い方、トレーニング方法、言葉の発音、発声や共鳴のメカニズムなど、本当にためになる内容。さらに楽曲のタイプによる歌い方のポイントや、細かなテクニック、既存のジャズボーカル作品からどんなことを学べるのか、など多彩です

レッスン動画が本格化したのは、新型コロナウイルス感染症の流行がきっかけでしたね。あの当時「歌うな・しゃべるな・人と会うな」と言われ、私たちミュージシャンは何もできなくなってしまいました。ライブハウスにも出演できないしスタジオに入ることもできません。正直「これからどうしたらいいの?」という気持ちでした。

──当時はライブハウスが目の敵にされていましたね。

そこで、インターネットを活用しようと思ったんです。昔から「ジャズシンガーになりたい」「ジャズボーカルをやってみたい」という人が世の中にたくさんいることは分かっていました。しかし、実際に教えるとなると、身近な人に限られていました。

──当時は今ほどオンラインレッスンも普及していませんでしたしね。

コロナ禍以前から「YouTubeでレッスン動画をアップすれば需要はあるはず」と思い、動画は作っていましたが、なかなか時間が取れず……。そこで、講師のお仕事が落ち着いた「このタイミングで作らないと!」と思い、ひとりで一所懸命に動画を作っていったんです。その結果、視聴者は順調に増えていきます。

──そのような、視聴者に寄り添ったスタイルが支持され、現在のダイナさんのチャンネル登録者数は1万人を超えています。

みんなのお手本になるようなレッスンを提供しようと思い、今はYouTubeでリズムの取り方や、どういうスタイルで歌えば形になるのかを解説する動画を中心に投稿しています。

──YouTubeを視聴する若い世代もジャズボーカルに興味があるんですね。

意外だったのは、若い人たちだけでなく年配の人たちもYouTubeを活用していたことです。私のチャンネルの視聴者層は50代以上が中心で、お問い合わせも年配の方たちが多いですね。

──そういえば、これまで取材してきたボーカルセッションの現場、特に平日の昼間は年配の女性が多かったです。

その世代の女性は、ようやく子育ても終わって「自分の歌の世界を楽しもう!」という思いの方も多いです。ただ、やりたくても何から始めればいいのか分からない。そんな方々の気持ちをくみ取ったチャンネルにしたところ、年配者の視聴者が増えて、反響も大きくなりました。今はオンラインレッスンの受講生もたくさんいて、もちろん、若い人も大歓迎です。

アドリブを重視するジャズの「お手本動画」

──そこから活動もオンラインベースになっていき、東京から沖縄へ移住。オンラインや動画で教える上で、特に気を使っている点はありますか?

ビギナーはYouTubeだけではなく、インターネットに載っている情報を鵜呑みにしてしまったり、こちらが意図しないまったく違う意味で捉えてしまうこともあります。そのため、「〇〇するべき!」といった限定的な言い方はしないようにしています。

──ロックなどのポピュラー音楽なら、耳で聞いたものをそのまま覚えて歌えば形になりますが、ジャズではそれが通用しません。

そうですね。もちろん、ボーカルに限らず、ジャズ全般がアドリブの音楽なので、基本のメロディをどうアレンジして「自分」を表現するかが大事です。

──アドリブはジャズの醍醐味であると同時に、ビギナーにとって非常にハードルが高い部分でもある。

だからこそ、お手本が大事なんです。私が実際に歌って「そのままマネすれば形になるよ!」というレッスンもやっています。特にリズムについては詳しく話すようにしています。というのも、ジャズボーカルでリズムを重視して教えている先生はまだまだ少ないですからね。でも、それこそ多くの人が知りたいことなんです。リズムについて分かりやすくまとめた動画は、最初から再生数が高く、ずっと多くの人に見てもらえています。

──弾いてみた踊ってみたは動画サイトのテッパンですが、歌ってみた動画をお手本にするのは、これまであまりなかったと思います。

教える側としては、そのニーズを探るのも重要です。たとえば、2021年にNHKの朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』が放送されました。その劇中で取り上げられたルイ・アームストロングの「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」をみんな歌いたいはずだと思い、動画を投稿したところ、一気に2万回近く再生されました。

発音の悩みは日本人に訊こう

──コロナ禍に入るまでダイナさんはボイストレーナー・ボーカル講師として、都内音楽事務所、尚美音楽専門学校、YAMAHA、山野ミュージックスクールなどでも教えられていました。対面とオンラインでは勝手が違いますよね。

対面で長年やってきたからこそ、視聴者のニーズがわかっているんです。みんなが何を知りたいのかということは、対面でもオンラインでも変わりません。

──確かに。すでにボーカリストの悩みは熟知していたのですね。

本当は呼吸法や発声法は対面で教えたほうがいいです。ただ、私が動画を投稿し始めた当時というのは、コロナで声を出すことすらままなりませんでした。それだけでも、年配の人たちは不健康になってしまいます。そこで、まずは「おうちでできるボイトレ」という動画を出していました。

──僕は30代ですが、1日誰とも話さないと確かに具合は悪くなる気がします。

それが、よかったというか、発声練習動画などがチャンネルのヒットにつながりました。ゴスペル、R&B、ロックよりは、ジャズのほうが相性が良かったということですね。

──でも、せっかくあったらダイナマイト・ミキ時代の発声方法もネットでは需要があるのではないでしょうか?

むしろ、YouTubeには私以外にもさまざまな専門家がボイストレーニングの動画を投稿しています。だから、探そうと思えば自分に合うチャンネルや動画はいくつもあります。私もいろんなジャンルの発声方法は勉強してきていますが、それを急に教え出したら。視聴者の方々は迷いますよね。そうならないように、私はジャズボーカルに特化させました。

──あえて幅を広げずに専門性を強化することにもなりますね。発音動画はどうですか?

英語話者の動画のほうが発音はキレイかもしれませんが、「Sの音が出ない」など日本人が苦手とするポイントがわからないわけですよ。だって、ネイティブの人はそれが苦手ではないですからね。そのような言語の違いを、リズムと絡めて詳しくレッスンするようにしています。

歌詞とリズムは覚えておこう

──ほかにも視聴者やレッスン生から寄せられる悩みなどはありますか?

ジャズをはじめとしたブラックミュージックは、リズムがとても重要です。しかし、私のYouTubeの主な視聴者層である世代は、このリズムを苦手としています。多くのボーカリストがセッションに行くと、楽器演奏者からリズムについてよく指摘されてしまいます。

──日本人は跳ねるリズムがどうしても盆踊りみたいになると、年上の世代はよく言いますよね。そういえば、前回は私もボーカルセッションに参加しましたが、自分を表現するどころか、スウィングすらできませんでした。

ちなみに、どんな曲を歌ったんですか?

──ルイ・アームストロングのこの素晴らしき世界とか……。

それ、ポップスでは?

──あとは、君の瞳に恋してるとか……。

ジャムセッションでは、いろんなジャンルに対応できるミュージシャンもいます。その一方で、「4ビートしかやりたくない」ジャズミュージシャンにとっては、形になりにくいことも…。

──そもそも、どんな曲を歌えばいいのかすら、分かっていませんでした。改めてカラオケ大会じゃないんだぞと実感しました。

歌う機会があればセッションに行ってみてください。たしかにカラオケと勘違いして「お上手ね」と褒めてもらえば、もうそれで満足してしまう人たちもいます。でもそれだけでは、もったいないです。やはり、生演奏は“音の会話”なので、どれだけ演奏中に “会話” ができるかが大切です。もし、演奏に合わせて自由に表現するのが難しければ、まずは“聞く”ことから始めましょう。相手がなにを演奏しているのか、しっかりと耳を傾けてみてください。

──しかし、この連載では繰り返しになりますが、相手の音を聞き取るには、自分もある程度の余裕が必要です。そして、私は一切の余裕がありませんでした……。

こればっかりは練習を重ねる必要があります。ビギナーは「歌詞を間違えないように!」ということに必死になって、それだけで終わってしまいます。セッションに行くなら、少なくとも「歌詞を間違えないレベル」を超えておくべきです。そうでないと、せっかくの機会がもったいない。逆に言えば、その段階の人は、まずは家でカラオケを使って練習するのが大事ですね。

──なるほど……(スマホで歌詞を見ながら歌ってたことは、もう言えないな)。

YouTubeやアプリを使いこなそう!

今は練習方法もいろいろありますよ。例えば「iReal Pro」というアプリはスマートフォンにインストールされていますか?

──初耳です。

これは有料アプリで数千曲のジャズの(カラ)オケが入っているんですよ。そのまま歌うこともできるし、キーもテンポも変えられます。それから、編集もできるのでイントロもアウトロもつけることができます。

こんな便利なアプリがあるなんて…知らなかった

──この楽譜のフォント! よく現場で見かけます。

自分に合うキーやテンポを探ることもできます。私の受講生たちもみんな入れています。まずはこれで練習して、実際にジャムセッションに参加するのがよいでしょう。もうひとつ加えるとしたら、ジャムセッションでほかの参加者たちの歌い方もチェックするべき。そうすることで、流れや参考にすべき点は把握できます。

──しかし、このようなアプリやダイナさんの動画があれば、スキルアップできる一方で、生の演奏への適応はますます難しくなっていきそうです。

そういう人たちに向けて、私のチャンネルは幅広くアドバイスできると思っています。特にバンドやライブですね。私はこれまでバンド活動もたくさんやってきたため、バンドの仕切り方や進行についても教えています。ボーカリストはそういった役割に慣れていない方々も多いですよね。

──楽器隊と比べると、ボーカルは置いてけぼりになりがちです。

カラオケでは上手に歌えるけど、バンドの生演奏になると、自分が何をすればいいのか分からないという人は多いでしょう。ただ、生演奏は当然ですが、カラオケよりも表現の幅を広げられます。ジャズは自由な音楽なので「環境に慣れていない」のはとてももったいないです。

──ボーカルの表現力が高いと、バンドメンバーの演奏の幅も広がりますよね。

そうですね。せっかくボーカルの素質があるなら、いろいろ挑戦すべきです。特にジャズはセッションできる場所が全国どこにでもあり、年齢を重ねても歌える場所はたくさんあります。そういう場所で歌うことをもっと楽しんでほしい……。それが、私の思いです。

取材・文/千駄木雄大

ライター千駄木が今回の取材で学んだこと

1  ピンチなときこそ勝機を見出せ
2 「お手本動画」をお手本に
3 リズム感は大事に!
4  セッションメンバーを困らせる選曲はしない
5 「iReal Pro」はほかの楽器でも使える

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