“超主張シンクロナイズドコメディ”をテーマにしながらも、小さなひとりの心の話を描きだす~舞台『MY ROOM IS MINE!!』より、白鳥雄介(作・演出)、松本旭平、辻凌志朗、秦健豪(出演)インタビュー
2024年9月4日(水)より、東京・下北沢の小劇場B1にて開幕する、舞台『MY ROOM IS MINE!!』。制作会社・ミックスゾーンが主催し、作・演出には、演劇ユニット「ストスパ」の主宰・白鳥雄介を迎えた。
ミックスゾーンは、演劇公演のほかに、音楽公演・ラジオ番組など、多ジャンルのエンターテインメントに携わる。ストスパは、困難な状況と軽やかな笑いを1つの舞台に巧みに交える作風が特徴的。その2団体がタッグを組み今回上演するのは、「”メタバース”を取り入れた、”超主張シンクロナイズドコメディ”」。
非日常的な状況下で、複数の人間が言葉の通りシンクロ――同じ言葉を発しつづけるのだ。
シンクロする人間を演じるのは3人の俳優、松本旭平、辻凌志朗、秦健豪。また、シンクロする彼らに関わる重要人物として、阿久津京介・小槙まこ・武藤友祈子も出演する。
稽古初日となる現場では、簡単な顔合わせと本読みが行われた。本読みでは、それぞれの台詞がしっかりとしたキャッチボールを重ね、聞き心地の良いシンクロが生まれていた。また、それはコメディとして描かれるので、稽古場は度々、笑いに包まれていた。
思いがけないシンクロ現象がつづくなか、徐々にメタバースの要素が姿を現す。その場に、リアルに存在する人間がシンクロを起こしているのに、気がついたら作中の世界には、インターネット上につくられた3次元の仮想空間が顔を覗かせているのだ。自分(観客)の広げていた視野が大きく揺さぶられ、まるで井の中の蛙になっていたような感覚。それに気がつきハッとして、後のストーリーに、どんと引き込まれていった。
終了後、白鳥と、松本、辻、秦に、話を聞いた。
ーー初回の稽古、お疲れさまでした。本読みはいかがでしたか。
松本:良い気づきを得られた本読みでした! 実は、台本をいただいたときから、複数人で同じ台詞を話すシンクロに不安を感じていました。「え?」「あ、」みたいな、思わず発する声もシンクロの台詞として存在していて、これは稽古が大変だぞと思っていたんです。でも、本読みの段階で想像より合っていて、よかったです。心の空気感が似ているのかもしれません。相手のテンションへの合わせ方など、ひとりで読むだけではわからない部分にもふれることができました。
辻:「おもしれえ」と思ったのが正直な感想です。
白鳥:よかった、うれしい!
辻:シンクロシーンは本読みで空気感をつかめるかなと思い臨んだところ、本当にそうで。互いに気を遣いながらシンクロを目指す空気感が見えながらも、それぞれが本人の感情で台詞を発することも大切にしていて。非常にやりやすかったです。いい感じに調和して、いい収穫でした。
秦:同じような感想しかでてこないですが……
白鳥:そこはシンクロしなくて良いよ(笑)!
一同:(笑)。
秦:芝居をちゃんとしてくださいつつも、互いに気遣って呼吸を感じてくれたり、周りの音を聞いてくれている気がして、これは本当に初日なのかなあと(笑)。初日らしからぬ読み合わせができました。読みながら、ここまで笑えるのが楽しくてうれしくて。
白鳥:いい意味で遠慮しすぎていなかったですね。相手の台詞待ちをするようなこともなくて、それぞれがちゃんと芝居をしていると思いました。
松本:(立ち稽古ではないのに)本読みから疲れました(笑)。
ーーなぜこれをテーマにされたのですか。
白鳥:ミックスゾーンのプロデューサーと打ち合わせする過程で、自身のストックからいくつか作品案をお持ちしました。真剣なものから、おもしろいものまで。そうそう、この世の中、何にも考えずに笑える明るい話をしましょうと言っていたんですけど、気がついたら、シンクロしすぎて恐ろしい話になっているかも……。話が違うじゃないかといわれるかもしれません(笑)。
ーーたしかに、シンクロからメタバースの要素が顔を覗かせる瞬間はどきっとしました……!キャストはどのように決まったのですか。
白鳥:辻くんはミックスゾーンからのご縁で初めましてです。キャスティングをするときは、演技より喋りのおもしろさを重視しているのですが、辻くんは最初のオンラインミーティングからおもしろかった。カメラに食いかかるように、前のめりで話していて(笑)。僕は彼を見上げるように話していました。芯のあるかたで、今日の本読みにもその姿が表れていたように思います。気を遣いすぎず、自分を出しつづけているところが、この創作に合うと思いました。
辻:初めて聞きました(笑)。最初にリモートでお会いしたとき、たまたまPCが目線より下にあって、しっかり向き合うためにそんな姿勢になっていました。白鳥さんの話しやすいお人柄を感じ、出演を決めました。そう言ってくださり、うれしいです。
白鳥:健豪くん(秦)は、昨年演出した舞台にも出演していただきました。前回は暗い役だったのですが、明るい役も演じられると知っていたので、今回のコメディにも出演していただきたいと思い、声をかけました。
秦:前回の作品を終えたとき、また一緒にやろうねと言ってくださっていたのですが、まさかこんなにすぐ呼んでもらえるとは。うれしかったです。やりがいと楽しさがある現場なので、張り切って参加を決めました。
白鳥:松本さんは、以前脚本を提供した作品に出演されていました。芝居を観て、ぜひ一緒にやりたいと思ったので。ラブコールです。
松本:白鳥さんから直接候補として挙げてくださっているとは思っていなかったので、それを聞けてうれしいです!少人数の舞台に出演する機会があまりなかったので、楽しみにしています。
ーー本作には、メタバースが要素として登場しますが、メタバースや、あるいはAI(人工知能)など、情報社会が発展していることに、どのような関心がありますか。
辻:ちょうど移り変わりが激しい時代を見てきた世代ですよね。携帯にカメラがつき、その後も様々な機種が発売され、さらにスマートフォンも誕生しました。何か分からないことがあったら、すぐに答えを見つけられる時代。分からないことを考える時間も大切だと思うので、未来はどうなっていくんだろうかと不安を感じます。
松本:実は僕は、人型ロボットと会話する仕事をしたことがあるんです。強く話しかけたら強く言葉を返したり、泣いたふりをしたら泣かないでと声をかけてくれたり、人間より人間味を感じました。だから、辻さんのように、それが発展しつづけた未来へのこわさを感じる部分があります。一方で、声を出せない人が、AIの技術で言葉を伝えられるようになったという話を聞いたこともあり、不安なことばかりではないな、とも思っています。とはいえ俳優を仕事としているので、人間の生身を観られる舞台の楽しさを、自分がどう捉え、どう伝えていくのが正解なのか……この作品に向き合うと、それを考えたくなります。
秦:学生のとき、情報の授業で、AIに関するレポート課題がありました。自身が将来目指す仕事と、AIとの関連性を書いてください、というテーマで。その頃から役者を目指していたため、「人間でしか生ものはつくれませんので、AIとは全く無関係で、関連はないと思います」と書いたのですが……辻さんや松本さんの話を聞いていたら「仕事が奪われるかもしれない」とハッとしました。
白鳥:僕はそんな真面目なものを書いていたのか(笑)!劇の中身はただただシンクロしていくだけなんですけどね。それなのに、メタバースを交えたことで、帰る頃にはゾワゾワしていると思うから、こんなこと言っていいのかな……もしかしたら新しいジャンルの笑いなのかも(笑)。まだ笑い話で終われている絶妙なタイミングでこのお芝居をつくったつもりです。お客さまも一緒になって、このシンクロとメタバースの世界を楽しんでもらいたいです。
ーー作中ではリアルに言及するシーンもありますね。それを観たとき、なんだか安心しました。
白鳥:劇場でやる意味が出てきた気がします。劇場を出た後の下北沢は、生身の人間が目の前にいてホッとする。アトラクションから生還したような感覚に近いかもしれません(笑)。
ーーこれから稽古が本格化していきますね。意気込みをお聞かせください。
松本:本読みの空気感がとても良く、これからの稽古が楽しみになりました。早く稽古したいです。この座組でしか観られないものが生み出せるんじゃないかと思います。ふだん殺陣のシーンがある舞台作品では、振りを確認する”殺陣返し”という稽古があるのですが、今回は”シンクロ返し”がありそうですね(笑)。この夏が、いい夏だったと締めくくれるような舞台にしたいと思います。
白鳥:新ジャンルのアクロバットですね!
一同:ははは(笑)。
辻:俳優は目の前にいるのに、その俳優が演じるキャラクターには、何十年もの年輪と未来がある。小劇場で観劇するとき、その無限の可能性が見える瞬間にすごくハッとすることがあります。『MY ROOM IS MINE!!』は、未来の、さらにその未来を想像させてもらえる、とても幅がひろく密度の濃いお話です。それってすごい贅沢だなと。見応えがあって、観劇後の疲労感すら心地よく感じるのではないかと思います。ぜひ何度も観にきていただきたいです。
秦:シンクロがこんなに全面に出るお芝居は初めてです。課題はありつつも、稽古を楽しみにしています。また、会場となる小劇場B1は、客席が2面にあります。観る視点が変わることで物語の感じかたが、がわりと変わるんじゃないかと思います。客席を変えて複数回味わっていただけたらうれしいですし、その視覚的な部分も、これからの稽古で、座組の皆さんと考えていけたらいいなと考えています。
白鳥:目まぐるしい情報社会の発達によって、自分の家族がどうなっていくのか。便利だね、こわいねとまでは言われても、情報のスピードが速すぎて考える時間までは無いですよね。こんなに進化した世の中を生きるとこうなるかもしれない、そのときの感情を考えたくなるところまで踏み込みたい作品です。一方で、便利になった壮大な空間をテーマにしながらも、僕が書きたいのは、小さなひとりの心の話でもあります。そのギャップを、ぜひ繰り返し楽しんでいただけたらうれしいです。また、今回はミックスゾーンさんと相談を重ね、2つの関連企画も設けました。本公演とあわせて観ていただくことで、幅広い味わい方ができるのではないかと思います。ストスパ単体では決してできない取り組みです。無理なくそれぞれの楽しみ方を選んでご来場いただけたらと思います。
取材・文:臼田菜南 写真:松尾祥磨