魚が水中でバランスをとる仕組みとは? 体を曲げることで姿勢を維持することが明らかに
陸上で生活している動物は筋肉の活動を調整することにより、直立姿勢を維持しています。
水中生活をする魚においても、同様に傾いた姿勢を立て直す機構を備えています。しかし、魚が泳いで姿勢を戻すことは知られていましたが、静止時はどのようにして姿勢を立て直しているのかは近年まで不明でした。
そうした中、永岡良太氏らから成る研究グループは2023年、ゼブラフィッシュ仔魚が体を大きく曲げることで姿勢を制御することを発見。一方、成魚でも同じ仕組みが働くかは謎に包まれていました。
そこで、同研究グループはゼブラフィッシュの成魚を特殊な傾斜刺激装置に入れて観察。魚は泳がなくても体を曲げるだけで姿勢を制御できる機構を持つことを明らかにしました。
この成果は『iScience』に掲載されています(論文タイトル:Biomechanics of static roll posture control by body flexion in adult zebrafish)。
魚の姿勢維持
我々ヒトを含めた陸上で生活する動物たちは、筋肉の活動を調節することにより姿勢を保っています。
この姿勢を制御する能力は水中で生活する魚にも備わっており、魚が泳ぐことで姿勢を立て直すことが知られていました。
また、2023年には体長4ミリ程度のゼブラフィッシュを用いた研究において、仔魚が体を大きく曲げることで、静止時に姿勢を制御していることが発見されています。
一方、体のサイズや泳ぎ方が仔魚とは異なる成魚でも、同じ仕組みが働くのかは謎に包まれていました。
浮き袋の相対的位置を変える
今回の研究ではゼブラフィッシュの成魚を特殊な傾斜刺激装置へ入れて実験。魚へ左右方向の傾斜刺激を与え、姿勢回復行動の観察が行われました。
実験の結果では、ゼブラフィッシュの成魚は仔魚と同様、体が左右に傾くと上側になる体側へ体を曲げることにより、姿勢回復していることが判明。さらに、シンプルな生物力学モデルにおいて、体を曲げることにより浮き袋の相対的な位置を変えて、元の姿勢に戻る力が生まれることも明らかになりました。
また、浮き袋の空気を抜いた場合は姿勢回復能力が損なわれたほか、胴体屈曲した固定標本でも浮き袋が空気で満たされていれば、姿勢を戻す力が働くことがわかったのです。
水中ロボットへの応用も
今回の研究により、魚は泳がなくても体を曲げることにより姿勢を元に戻す機構をもっていることが明らかになりました。この仕組みは浮き袋を持つ他の魚でも働く可能性があるのとこと。
この成果は脊椎動物の平衡感覚や姿勢維持の仕組みを理解する上で重要な知見となるほか、将来的に水中ロボット開発への応用も期待されています。
(サカナト編集部)