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【Iターン移住で夢をかなえる】海を見下ろす山里から全国に発信! いのちをつなぐ“ジビエレザー”【長崎県諫早市】

田舎暮らしの本

【Iターン移住で夢をかなえる】海を見下ろす山里から全国に発信! いのちをつなぐ“ジビエレザー”【長崎県諫早市】

移住先は海を見下ろす山里の集落。そこで知ったのは獣害対策でイノシシが駆除され廃棄されること。何とかしたいと始めた事業は「いのちをつなぐ“ジビエレザー”」。地域から得たイノシシの皮を加工、製品として全国に販売する。

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掲載:2025年3月号

長崎県諫早市(いさはやし)
長崎県の中央部に位置し、東に有明海、西に大村湾、南に橘湾と三方を海に囲まれ、北に多良山系を望む。400年以上前から干拓でつくられた諫早平野は県下最大の穀倉地帯。工業も盛んで製造品出荷額県内1位。近年は「フルーツバス停」が映えスポットとして人気。人口約13万1000人、年平均気温17.3℃。博多駅から諫早駅へJR西九州新幹線で約1時間10分。

地域とのつながりからイノシシ皮の活用を実現

小畑真裕子さんと小学6年生の長男、3年生の長女、パートナーの沢野聡さん。

小畑真裕子(まゆこ)さん(42歳)、沢野 聡(さとし)さん(39歳)小畑さんは北海道出身、4年前に諫早市に移住後、野生のイノシシ皮を加工した製品を販売する「ジビエレザーHUMMINGBIRD(ハミングバード)」を立ち上げる。パートナーの沢野さんは千葉県出身で長崎県南島原市に移住後、ジビエレザー事業を通じて小畑さんに出会った。

「学生時代の旅で出会った友達のつてで九州に渡りました」という小畑真裕子さんは、福岡県糸島市(いとしまし)内の知人宅で1年ほど暮らしたのち、友人の紹介で諫早市内に移住した。母屋と倉庫、畑のある築100年ほどの古民家。ボイラーの入れ替え、エアコンの設置などをしたが、家賃ゼロ。近所に住む家主が「空き家にしておくよりは」と貸してくれた。

 移住後に聞いたのは野生のイノシシが増え、害獣として駆除、廃棄されている話だった。

「それならイノシシの皮を何とかできないか考えました。糸島では、ショップの製作スタッフとして革製品を扱っていたんです」

 市内の直売所でイノシシの肉がジビエとして売られているのを見つけ、駆除獣の加工場があるのを知った。連絡すると「捨てていたものが利用されるならうれしい」と、皮を譲ってもらえることになった。

「加工場ではジビエにするために、猟師さんが捕獲したイノシシの皮を剥(は)ぐわけです。おかげで私たちは、そのあとの工程だけで済みます。ジビエレザーの事業は地域とのつながりのなかで成り立っています」

 剥いだばかりの皮は内側に肉や血が付いている。野生動物の臭いが強く、ダニもいる。この状態で譲り受け、肉の部分に塩を揉み込み、腐敗する前に手早く塩蔵状態に。1週間ほど乾かすと臭いもなくなる。これを東京都墨田区内のなめし革製造業者に送ると、1〜2カ月後にきれいなレザーに加工されて戻ってくる。そこから財布やバッグなどを手づくり。近隣のマルシェのほか、ネットショップを通じて全国に販売している。

譲り受けた皮を広げて内側に塩を揉み込む処理を施す。

処理した皮を倉庫の軒下に干す。生の皮を持ち込み処理できるのは、古い倉庫があってこそ。

加工されて戻ってきたレザーを裁断、縫製して製品に仕上げる。作家向きの革素材の販売も行っている。

財布、名刺入れ、ポーチ、小物などさまざまなアイテムを手がける。

地域の女性を中心にジビエレザー部も開始

 こうしてジビエレザーが知られはじめると注文も増え、1人では手がまわらなくなってきた。

「子どもを連れてマルシェに出店したり、てんやわんやでしたよ」

 今後の展開を相談するため知り合った沢野さんは、移住前にコンサルティング会社や製造業に勤務、商品開発にも携わっていた。沢野さんは言う。

「雲仙(うんぜん)の火山灰のミネラル分が海に流れ込む島原半島が気に入って、半島の先に移り住んだんです。そこで、食の自給を目指して畑を耕し、好きな釣りで魚を獲って、イノシシ猟も始めました。ジビエレザーは『アドバイスできるかな』と来てみたら本気で取り組んでいて、自分も一緒にやりたいと1年ほど前から2人でつくりあげるようになりました」

 今後はより多くの人にジビエレザーを知ってもらい、地元はもちろん全国で取り組む人を増やしていきたいと考えている。

 小畑さんは、女性を中心にものづくりを行うジビエレザー部を設けて工房を開放。夏休みの子ども向けに諫早市や雲仙市の依頼を受け、ものづくりといのちの話のワークショップも行っている。

「広報や講座当日の受付など市の担当の皆さんにも助けていただいています。ジビエレザーを進めていくうえで地域の協力は大きいです」

お気に入りの場所は近所の川。夏には毎日のように水遊びに出かける。

移住して変わったこと

幸せな毎日を送らせてもらってます!
豊かな暮らしって何だろうと考えて田舎に来たわけですが、食生活から時間の使い方まで暮らし全体、人生が豊かになりました。野菜をいただくことも多いですし、ミネラルウォーターは山に汲みに行けば手に入ります。お金はかかりません。(沢野さん)

子育てしながら、ものづくりして暮らせます!
子どもたちが外で遊んでいても、みんなが見守ってくれます。「あそこでこんなことしてたよ」と地域の目があるので安心感がありますね。自宅で仕事ができるようになったので、暮らしも仕事も子どもと一緒にできるようになりました。(小畑さん)

諫早市移住支援情報


都会と田舎のまんなか「とかいなか」な暮らし

 西九州新幹線や高速道路が走り、長崎空港へも30分圏内という好立地の諫早市。田園や里山の風景、特徴が異なる3つの海があるなど、都市と自然のバランスがとれたまち。市では、移住希望者へ現地案内やオンライン相談、宿泊費補助金などの支援を行っている。

諫早市の市街地(上)と四季折々の花が咲く白木峰高原(下)。便利さと豊かな自然が調和。

「オーダーメードで現地案内します!」(諫早市移住コーディネーターの髙田さん)

文/新田穂高 写真提供/沢野 聡さん、小畑真裕子さん、諫早市

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