『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』からのガンダム初見勢に、『機動戦士ガンダム』を見るなと勧めた理由
今期アニメで最も勢いのある1本『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(以下ジークアクス)』。SNSでは、ジークアクスで宇宙世紀に始めて触れた層にオリジナルの『機動戦士ガンダム』の視聴を推奨するのが、定番の流れとなっている。
そしてオリジナルに触れ、色々と把握した初見勢が漫画『TOUGH外伝 龍を継ぐ男』の「こ……こんなことが許されていいのか」のスクショをSNSに投稿。古参勢はそれを見て、ニヤニヤする(往々にして腕組みした実写版王騎将軍のスクショ付き)のだ。
かく言う私も周囲の初見勢には『機動戦士ガンダム』の視聴を勧め、王騎将軍になっていた。しかし先日、1人の知人に対し、『機動戦士ガンダム』を見ない方向へ誘導した。君には何も知らぬまま、ジークアクスを最後まで駆け抜けて欲しい。
・NTを知らない
本作は1年戦争でジオンが勝利したというif展開。本記事を執筆している4月28日時点で公開済みな3話までの内容は、99%くらいが地上波に先行して公開された劇場版「Beginning」の総集編的な感じだった。
来たる4話から、いよいよ劇場勢と地上波勢の足並みがそろう。いや、厳密には劇場版にあったいくつかの場面が未出(4話以降出てくるかもしれないが)だが……まあ、地上波勢も、おおむね劇場勢と同程度の情報を有したことになる。
未出の場面を除き、ようやくネタバレに配慮することなくだいぶ大っぴらに感想を述べあえる時が来た。そこで件の知人とジークアクスの話題になった際に、このような感想を述べてきたのだ。
知人「でも、マチュの動きが都合よすぎなんだよね」
私「なるほど……具体的にはどのように?」
知人「自分で乗り込んだくせに操縦法知らないし」
知人「でも乗ったらなんか操縦できてるし」
私「フフッ、マチュの行動はニ……」
・0.2秒間の思考
私(いや待て。その感想に至るということは……こいつはニュータイプの存在を知らない? これまでにもガンダム自体が初見という者はいたが、その全てがおぼろげな展開や設定は認知していた。ニュータイプについてもネットミームやパチスロ等から “エスパーじみた凄い連中” 的な理解は有していた)
私(つまりガンダム初見といえど、いずれも完全なる純度をもつ初見ではなかった。しかしマチュを見てピンと来ない以上、ニュータイプを知らないと見て間違いない。これは絶滅危惧種レベルの初見だ)
私(そういえば、ジークアクス時空でニュータイプの存在はどこまで知られているのだろう。アムロは活躍せず、シャアも早々に消えたあの世界で、オリジナルの時空ほどニュータイプは活躍しなかった可能性がある。確かにシャアとシャリア・ブルのタッグによるM.A.V.戦術は後世のモビルスーツ運用における基本となるほどに評価されている)
私(その戦術は死角を補い合うのが強みとされているが、そもニュータイプの高度な空間把握能力をもってすれば、単騎でも死角はない。恐らくシャアとシャリア・ブルのような、共に高いニュータイプの素養を持つ者同士の感応があって、初めて未だ語られぬ真価が発揮される戦術だと思われる)
私(しかし軍警パイロットらの運用やシャリア・ブルが語った突撃機動軍の教本の内容的に、一般や軍の下の方では、モビルスーツ版ツーマンセル程度の理解しかない可能性がある。つまりニュータイプの存在は認知されていないのではないか)
私(そしてこいつの感想は……過去にニュータイプという概念が存在しなかった、オリジナルの『機動戦士ガンダム』を現役で見て、アムロなどの勘の良さに違和感を抱いた者のそれと近しいものな可能性があるのではないか)
私(また、今後は違法パイロットと一般女学生としての二重生活を送ることが確定的に明らかなマチュは、これからさらにニュータイプとしての素養を開花させていくだろう)
私(その過程でオールドタイプであろう母親や、学校のクラスメイト等の間で溝が生じる可能性が高い。オールドタイプはニュータイプの鋭敏すぎる感覚についていけないし、その存在を知らなければ理解も困難だからな)
私(つまりこいつがこのまま何も知らずにジークアクスを見続けた場合のマチュ評が、作中の一般人らがニュータイプとして覚醒していくマチュに覚える違和感などとリンクしていく可能性も期待できる)
私(もはやジークアクスに関して、先にオリジナルを知っている者による感想は、世にごまんと溢れている。劇場版や、1話や2話を見て慌てて『機動戦士ガンダム』を視聴して追いついてきた元初見勢による感想も、もはや世に星の数ほどある)
私(だが……ここまでに完全なる純度を持つ初見が、オリジナルに触れぬままジークアクスを見た先に出てくる感想は希少なのではなかろうか……? 私はその感想が聞きたい)
私(”初代視聴済み” にはいつだってなれるが、”未視聴” へは見てしまったらもう戻れない。その変化は不可逆だ。まずは未視聴状態のままの感想を絞り出した後に、初代視聴後に感想が変化する様子を観察した方が一粒で二度美味しいはずだ)
私(結局は私のエゴかもしれないが、もうどうなってもいいや。こいつに『機動戦士ガンダム』の情報を与えてはならない……私の中のガンダムがそう言っている)
・誘導
この間、わずか0.2秒ほど。言いかけたニュータイプという言葉を飲み込み、私は口を開いた。
私「……たしかに不可解な点が多かったかもしれないね」
知人「でしょ。てか、古いガンダム見た方が良いのかな」
私「どうかな。実は初代は1話からジークアクスとは完全に別物だよ。主人公のアムロはジークアクスに出てこないし、シャアもいなくなっただろう? 今さら『機動戦士ガンダム』を見ても、余計なノイズになってしまう(私の願望にとって)んじゃないかな」
知人「でもTwitter(X)じゃみんな見るべきって感じじゃない?」
私「どんなシリーズ物でも、斬新な新作が作られると、オリジナルを推奨する動きというのは出るものだ。彼らを否定するわけじゃないが、しかし新規層がどのように作品に触れるかは、新規層の自由さ」
私「それにほら、初代は50話くらいあるし、TVと劇場版で少し内容が違うんだ……。両方見るのがベストだけど、めっちゃ多いよ」
知人「え、2クールとかじゃないの? 予算すごくない?」
私「あと実は、シャアやアムロは続編のZガンダムやZZガンダムでも出てきて、どれも50話くらいあるんだ。ずっと地続きなんだよ。「逆襲のシャア」っていう、なんだかんだで決着がつくやつまで含めると、相当な量になるね」
知人「そうなの? Zガンダムは聞いたことあるけど、あれもアムロだったの?」
私「フフ……(素晴らしい初見純度だ)それはもう、かなりの量さ。見ていたら、他のアニメを見る時間が無くなってしまうよ。今期は良いものが多いって、君も言っていたね。そういえば『鬼人幻燈抄』と『九龍ジェネリックロマンス』は見たかい? まだ数話だから結論を出すには早いかも知れないが……」
……
……
……
……
ということで無事に会話をそらし、初代ガンダムへの関心を霧散させることに成功した。つまり、昨今の慣例……を超えて、もはやマナーと化してすらいそうな、ジークアクスからのガンダム初見勢に『機動戦士ガンダム』を薦めるというムーヴの真逆を行った。
そう……全ては、高純度な初見が、ガンダムを知らぬままジークアクスという最新の宇宙世紀に触れて出てくる感想を聞きたいという私のエゴによるものだ。
しかしどうだ? 見てみたくはないだろうか。この令和にニュータイプすら知らぬほどピュアなガンダム初見勢が、ジークアクスで宇宙世紀に触れた先に出てくる反応を。私は見たい。
全てが終わった後に、今後は初代を布教し、各作品の円盤を貸してあげようと思う。
参考リンク:機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)公式サイト
執筆:江川資具