認知症が一気に進む原因と対策とは?進行速度の特徴を解説
『認知症が一気に進む原因と対策』寝たきりを防ぐ4つの知識
認知症が一気に進む原因と予防のポイント
認知症は、脳の神経細胞が正常に働かなくなり、脳が萎縮することで発症します。
多くの場合、ゆっくりと症状が悪化していきますが、時には想像以上のスピードで重度の状態へと移行してしまうこともあります。大切な家族の認知機能が低下し、寝たきりになってしまうのではないかと不安を感じているご家族も少なくないでしょう。
認知症の方の中には、発症から数年のうちに自立した生活が困難になり、常に介護が必要な状態に陥ってしまう人もいます。
しかし、認知症の進行を遅らせることは可能です。そのためには、認知症の原因や症状の特徴を理解し、適切な予防策を講じることが大切です。
認知症の種類によって進行速度は異なりますが、生活習慣の改善や脳の活性化、社会とのつながりを保つことなどが、進行を遅らせる鍵となります。
また、たとえ認知症を発症してしまったとしても、早期発見・早期治療を行うことで、症状の進行を大幅に遅らせることができます。そのためには、普段から認知症について正しい知識を持ち、もの忘れなどの初期症状を見逃さないことが重要です。
ここでは、認知症が一気に進む4つの原因と、その予防のポイントについて見ていきましょう。
脳への刺激不足による神経細胞の減少
脳に適度な刺激が与えられないと、脳の神経細胞は徐々に減少していきます。これは認知症の一気の進行につながる原因の一つと考えられます。
脳は刺激を受けることで活性化し、神経細胞のつながりが強化されます。逆に、脳への刺激が減ると、神経細胞は減少し、脳の萎縮が進んでいくのです。
特に高齢者は、日常生活の中で脳を使う機会が減りがちです。家の中で過ごす時間が長くなり、新しいことを学んだり、考えたりする機会が少なくなるためです。
また、運動不足も脳への刺激不足につながります。運動は脳に酸素や栄養を送り込み、神経細胞の活性化を促す働きがありますが、加齢とともに体を動かす機会は減ると、脳への血流も低下していきます。
予防のポイントは、脳を活性化させる活動を日々の生活に取り入れること。読書や旅行、ダンスなどの趣味を持つ高齢者は、そうでない人に比べ認知症発症リスクが低いとも言われているので、毎日の生活に脳を使う活動を意識的に取り入れましょう。 年齢を重ねても、好奇心を持ち、新しいことにチャレンジし続ける姿勢が、脳の老化を防ぐカギとなるのです。
急激な環境の変化によるストレスの蓄積
入院や施設への入所など、急激な環境の変化は認知症の方に大きなストレスを与え、一気に症状を悪化させる可能性があります。
また、日常生活の中で過度なストレスを受けたり、ミスを強く責められる経験が積み重なることも、認知機能の低下を加速させる恐れがあります。
認知症の方は、慣れ親しんだ環境で生活することが何より大切です。見慣れた家具や生活用品、思い出の品に囲まれていると、安心感を得られるからです。なので、入院や施設入所などで急に環境が変わると、大きな不安やストレスとなるのです。
また、認知症が進行すると、同じ失敗を繰り返したり、わがままな行動をとったりすることがあります。周囲の人がイライラして強く叱りつけたりすると、認知症の方は大きなストレスを感じ、症状の悪化につながるケースも。
予防のポイントは、環境の変化をできるだけ最小限に抑え、認知症の方を優しく見守る姿勢を心がけることです。入院や入所が避けられない場合は、事前に本人に説明し、できるだけ混乱を防ぐ工夫をしましょう。
また、失敗やトラブルを叱るのではなく、認知症の方の行動の裏にある思いを汲み取る努力が必要です。不安な気持ちに寄り添い、安心感を与えるコミュニケーションを心がけましょう。
介護者自身も、ストレスを一人で抱え込まず、周囲の人に助けを求めることが大切です。家族だけでなく、ケアマネジャーやデイサービスのスタッフなど、専門家に相談することで適切な支援を受けられます。
介護者が心身ともに健康であることが、認知症の方の穏やかな暮らしにもつながるのです。
脳へのダメージを与える身体の病気の発症
脳梗塞や脳出血など、脳に直接ダメージを与える病気の発症により、認知症が一気に進行することがあります。
脳梗塞や脳出血が起こると、脳細胞への血流が滞り、大量の神経細胞が死滅してしまいます。すると、その部分の脳機能が低下し、手足の麻痺や言語障害などの後遺症が残ることもあります。
また、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は、動脈硬化を引き起こし、脳梗塞や脳出血の大きな原因となります。喫煙も血管を収縮させ、脳への血流を低下させる要因の一つです。
加えて、転倒やケガなどによる脳への強い衝撃も、脳細胞に深刻なダメージを与えてしまいます。特に高齢者は骨密度が低下し、転倒によって頭部を強く打つ危険性が高くなるので注意が必要です。
予防のポイントは、生活習慣病の予防と転倒などの事故防止に努めること。高血圧や糖尿病、脂質異常症がある場合は、薬物療法を含めた適切な治療を行い、コントロールを維持することが重要です。
日頃から規則正しい生活を心がけ、バランスの取れた食事と適度な運動を習慣づけましょう。禁煙も大切な予防策の一つです。
転倒防止のためには、家の中の段差をなくしたり、手すりを設置したりするなど、バリアフリー化が欠かせません。歩行器や杖を使い、ゆっくりと歩く習慣をつけることも大切でしょう。
認知症の種類と進行速度の特徴
認知症にはいくつかの種類があり、その原因疾患によって、症状の特徴や進行速度が異なります。
アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症が三大認知症と呼ばれ、認知症の大半を占めています。ここでは、これらの認知症の進行パターンを見ていきましょう。
ゆっくり進行するアルツハイマー型認知症
最も患者数の多いアルツハイマー型認知症は、もの忘れの症状から始まり、徐々に判断力や理解力が低下していきます。発症から寝たきりになるまでの期間は、個人差がありますが、数ヵ月~数年と言われており、進行のパターンも比較的ゆっくりです。
アルツハイマー型認知症の初期には、新しい情報を覚えられなくなる「記憶障害」が現れ、物の置き場所が分からなくなったり、同じ話を何度もしたりするようになります。また、直前に起こったことを忘れてしまうことも多くなります。
中期になると、言葉の意味が理解できなくなる「言語障害」や、手足に麻痺等はないのに、服の着方が分からなくなる「失行」が見られるようになります。
買い物やお金の管理、服薬など、日常生活に支障が出始め、時間や場所の感覚が曖昧になり、一人で外出して帰れなくなることもあります。
後期は、排泄や食事、着替えなどの基本的な動作が一人でできなくなるケースが多いです。言葉でのコミュニケーションも困難になり、表情や感情の変化も乏しくなります。歩行も不安定になり、寝たきりとなる危険性が高まります。
ただし、アルツハイマー型認知症の進行速度には個人差がかなりあります。早期発見と適切なケアにより、進行を大幅に遅らせることが期待できます。症状が出始めたら、なるべく早く専門医を受診するようにしましょう。
段階的に悪化する脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血を繰り返すたびに、症状が階段状に悪化するのが脳血管性認知症の特徴です。アルツハイマー型のようなゆっくりとした進行ではなく、発作を起こすたびに、一気に症状が悪化します。
脳血管性認知症では、脳の損傷された部位によって、症状に違いが見られます。手足の麻痺や言語障がいなど、体の機能に影響が出ることが多いのが特徴。記憶障がいや見当識障がいのほか、感情のコントロールが困難になったり、意欲が低下したりすることもあります。
脳血管性認知症の予防と治療には、脳梗塞や脳出血の再発を防ぐことが何より重要です。高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を適切に管理し、コントロールを維持することが求められます。
また、リハビリテーションにより、失われた機能の回復を図ることも大切です。適切なリハビリを行うことで、日常生活動作(ADL)の改善が期待でき、認知機能の低下を遅らせる効果も期待できます。
脳血管性認知症は、初期の段階で適切な治療を行えば、ある程度進行を抑えることも可能となります。脳梗塞や脳出血の初期症状を見逃さず、すぐに受診することが大切です。
比較的急速に進行するレビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、幻視やパーキンソン症状など、アルツハイマー型とは異なる特徴的な症状を示します。発症から寝たきりまでの期間が比較的短く、進行が早いことが特徴です。
レビー小体型認知症の初期には、アルツハイマー型と似たもの忘れの症状が見られますが、それ以外の症状も現れるのが特徴。具体的には、実際にはないものが見える「幻視」、手足の震えや動作の鈍さなどの「パーキンソン症状」、睡眠中に大声で叫んだり、激しく体を動かしたりする「レム睡眠行動障がい」などがあります。
また、認知機能の変動が激しいのも特徴です。日によって、時間によって、症状の程度が変化することも。夕方から夜にかけて急に混乱が強くなる「夕暮れ症候群」を伴うこともあります。
レビー小体型認知症の治療薬は限られており、根本的な進行抑制は難しいのが現状です。ドパミン系の薬剤によってパーキンソン症状の緩和を図ったり、幻視に対して非定型抗精神病薬を使用したりすることもあります。
ただし、これらの薬剤の使用には細心の注意が必要で、場合によっては症状を悪化させてしまうこともあるので医師の指示に従いましょう。
認知症の進行を遅らせる4つの対策と備え
認知症の進行を遅らせるためには、日頃からの予防が何より重要です。脳の健康を維持し、リスクとなる生活習慣を改善することが求められます。
同時に、認知症の初期症状を見逃さず、速やかに治療を開始することも欠かせません。ここでは、認知症の進行を遅らせる4つの対策と、万が一に備えるためのポイントをご紹介します。
生活習慣の改善と脳の活性化で発症リスクを下げる
食事、運動、睡眠などの生活習慣を改善することが、認知症予防の基本中の基本。特に中年期から意識的に取り組むことが大切です。
食事では、野菜や果物、魚、大豆製品など、抗酸化作用のある食品を積極的に摂ることを心がけましょう。抗酸化栄養素は、脳の細胞を酸化ストレスから守る働きがあります。
一方、動物性脂肪や糖分、塩分の過剰摂取は控えめに。これらは動脈硬化を促進し、脳の血流を低下させる原因になります。バランスの取れた和食中心の食生活を心がけることが大切だといえるでしょう。
運動も、認知症予防に欠かせない習慣の一つ。ウォーキングやジョギング、水泳など、全身を使う有酸素運動が理想的です。
週に2~3回、1回30分~1時間程度を目安に、無理のない範囲で継続することが大切。運動は脳に酸素や栄養を送り込み、脳細胞の新陳代謝を高める働きがあります。また、ストレス解消につながることで予防に役立ちます。
十分な睡眠も、脳の健康を維持するために欠かせません。睡眠不足は認知機能の低下に直結します。高齢者は夜眠れなくなる傾向がありますが、昼寝で補うことも大切。1日7~8時間の睡眠時間を確保しましょう。
人とのつながりを保ち社会参加を続ける
家族や友人との交流、地域活動への参加など、社会とのつながりを保つことも認知症の重要な予防策。人は人とのかかわりの中で、脳を活性化させ、心身の健康を保っているのです。
高齢期は社会とのつながりが希薄になりがちですが、孤独や孤立は認知症の発症リスクを高める大きな要因の一つ。近所付き合いや趣味の集まりに参加したり、ボランティア活動に取り組んだりと、自分なりの社会参加の方法を見つけることが大切です。
人と交流する中で、会話をしたり体を動かしたりすることは、脳の刺激にもなります。何より、生きがいや楽しみを感じることが、認知症予防の原動力になるのです。
一人で過ごす時間ももちろん大切ですが、家に閉じこもりきりにならないようにしましょう。週に1回は人と顔を合わせ、会話を楽しむ時間を作るよう心がけましょう。
正しい知識を持ち早期発見・対応の体制を整える
「もの忘れがひどくなってきた」「いつも同じことを聞いてくる」―。認知症の初期症状に気づいたら、できるだけ早く専門医の診察を受けることが大切です。
認知症の症状は、軽度認知障害(MCI)と呼ばれる段階から始まります。この時期に適切な対処を始められれば、認知症への移行を大幅に遅らせることができるかもしれません。
まずは、かかりつけ医に相談することから始めましょう。必要に応じて、脳神経内科や老年精神科、物忘れ外来などを紹介してもらうこともできます。
認知症の診断を受けたら、今後の生活について家族で話し合うことも重要です。介護が必要になった時のことを想定し、介護サービスや施設入所についての情報を集めておくと安心です。
しかし、特別養護老人ホームは、多くの入所申込者がいるために待機を強いられる可能性が高いのが現状。在宅での介護サービスの利用も視野に入れ、ケアマネジャーなどの専門職に相談しながら、早めの準備を進めることが賢明です。
また、認知症の方の意思を尊重した支援を行うためには、事前に本人の希望を聞いておくことも欠かせません。「認知症になっても、できるだけ自宅で過ごしたい」「できることは自分でやりたい」など、本人の思いをあらかじめ家族で共有しておくことが、将来の備えとなります。
認知症について正しい知識を持つことで、症状の変化に気づきやすくなります。同時に、いざという時の相談先も知っておく必要があります。地域包括支援センターや認知症疾患医療センターなど、身近な社会資源について理解を深めておきましょう。
周囲の理解とサポートを得る
認知症の方への接し方や適切なケアは、症状の進行速度に大きな影響を与えます。認知症の方の行動の背景にある気持ちを理解し、尊厳を持って接することが何より大切です。
しかし、認知症の方の介護は、家族だけではとてもかなえきれるものではないこともあります。介護者の心身の負担は社会全体で支えていく必要があります。
近年は、認知症への理解が少しずつ広がりを見せています。各地で行われている「認知症サポーター養成講座」には、多くの人が参加しています。この講座では、認知症の基礎知識や接し方を学び、認知症の方や家族を温かく見守る「認知症サポーター」となることを目指します。
多くの人が認知症を正しく理解し、支援の輪を広げていくことが求められているのです。
地域で暮らす認知症の方を支えるには、自治体や地域包括支援センター、医療機関、介護サービス事業所などの連携も欠かせません。
行政や専門職が協働し、一人一人に寄り添った支援を行う体制の構築が急務となっています。
何より、認知症の方と家族の思いに耳を傾け、それぞれのニーズに合ったサービスを提供していくことが大切。地域で安心して暮らし続けるために、周囲の理解と支えは何より心強い存在なのです。
認知症は、誰もがなる可能性があります。だからこそ、一人ひとりが正しい知識を持ち、理解を深めていくことが何より大切です。
認知症の方が、尊厳をもって自分らしく生きることができる社会を作るために、私たちにできることはたくさんあります。今日から一歩ずつ、認知症への理解を深めていきましょう。