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赤峰幸生氏が語る、シニア世代に向けたクラシックな美学と生き方

「みんなの介護」ニュース

みんなの介護

服飾業界の第一線で活躍し、現在はオーダースーツブランド「Akamine Royal Line」を運営する赤峰幸生氏。今回は、”一生モノ”のスーツを求めて連日老若男女が訪れる「めだか荘」を訪問。これまでクラシックを追求し続けてきた赤峰氏の、独自の美学とその歩みについて伺った。

社会学者の叔父に勧められ、服飾デザインの道へ

―― 赤峰さんは、紳士服に携わって60年だとお聞きしました。この道に入ったきっかけについて改めてお聞きできますか?

赤峰 僕、大学受験は芸大を受けたんです。でも、実技試験は通ったけど、学科試験で落ちてしまって。芸大に行くことは諦めて別の進路を考えていたのですが、そのとき、僕の叔父で社会学者をしていた清水幾太郎に服飾デザインの道を勧められました。

当時叔父は、渋谷にあった桑沢デザイン研究所で教鞭をとっていたこともあって、そちらに入学することを決めました。入学後に、朝倉摂さんや佐藤忠良さんなどの日本を代表する彫刻家や、東京オリンピックのポスターなどを作った亀倉雄策さんなどの指導を受けたことは今でもよく覚えています。

服飾に関わる道へ進んだのも、叔父のアドバイスがあったからでしたね。 

―― 赤峰さんの人となりを形作るうえで、ご家族や叔父さまから影響を受けることは少なくなかったのでしょうか?

赤峰 いろいろと影響を受けたと思います。叔父は非常に洒落者でした。千駄ヶ谷の野口英世記念会館が叔父の事務所だったので、ときどき遊びに行っていました。すると、紺のブレザーに真っ赤な靴下といった格好で出てきて、お茶を入れてくれたんです。

叔父からは社会学者的な面より、着るものに関しての影響を強く受けましたね。一方、父は純粋な日本人気質でしたので、精神面での影響は、父から強く受けているかもしれません。

自然が多い梶ヶ谷に“めだか荘”を

―― 梶ヶ谷に「めだか荘」を構えた理由についてもお聞きしたいです。

赤峰 もともと、紳士服メーカーから独立して20年以上は、港区の白金台に事務所を構えていました。白金台は幼い頃、母と一緒によく行っていたのですが、イチョウ並木がある外苑西通りのほか、自然教育園や旧朝香宮廷を改装した庭園美術館もあって、緑が豊富な場所だったんです。

しかし、年月が経つうちに、ブティックやカフェ、コンビニなどがどんどん増えていきました。白金台に事務所があると伝えると「オシャレな街ですね」と言われるのが、嫌になっていったんです。世間の人がイメージするオシャレは、「どこのブランドの服を着ているか」を意味しているかだと思っていましたから。

そこで、より自然が感じられる場所に、一軒家を借りることにしたんです。鵠沼や鎌倉も候補として考えたのですが、都心からだとアクセスが少し悪いかなと。

「近くてやや遠い田舎」と考えてしっくり来たのが、この梶ヶ谷でした。田舎ではありますが、渋谷から30分で来られます。急行が止まらない駅という点も、とても気に入っているんですよ。

―― 梶ヶ谷で下車したのは今日が初めてだったのですが、竹藪があったり、鳥の鳴き声が聞こえたりして、自然が豊かな場所だなという印象を持ちました。

赤峰 そうですよね。都心では作られた公園のなかでしか、子どもが遊べません。そうではなくて、もっと人間の手が入らない自然に触れることは大切だと思うんです。その点、梶ヶ谷に住む子どもたちは、自由に遊んでいる子が多いですね。

料理をつくるように洋服を提案

―― 赤峰さんがつくる服のこだわりをお聞きしたいです。

うちでは、オリジナルの生地を使って、クラシカルな紳士服のスタイルを提案しています。どの羊を選ぶか、どのヤギの毛を選ぶかという点から考え、まずは宝石のような一本の糸にしていきます。

赤峰 その糸をもとに、機(はた)を織るスピードを調整しつつ服をつくっていくんです。手間ひまをかけたオリジナルな品質を求めて、ここに来る方はとても多いです。

―― どのような流れで服をつくっているのですか?

赤峰 スーツはもちろん、靴下やネクタイ、ポケットチーフなどコーディネート全体の色合わせを提案し、オーダーするスーツを決めていきます。

一般の洋服屋さんでは、売り場の案内しかしてくれなかったり、コーディネートまでは考えてくれなかったりします。売り上げやノルマを優先せず、お客さんに本当に似合う洋服を選べるスタッフもわずかしかいないと思います。

だからこそ、料理の一品をお出しするように、トータルコーディネートの提案をするのが僕の役目なんです。めだか荘は、服を買いに来るだけの場所ではないということですね。どのようなスタイルがお客様に合うのか、長い時間をかけて提案していきます。

自分の好みと似合うものが一致してない方も多いので、新たな発見の場にもなってくれればいいなとも思っています。

定年とは寿命が尽きるとき

赤峰 ところで、この記事はどんな方が見られるんですか?

―― 介護施設を紹介している「みんなの介護」のインタビュー企画ということもあり、介護の悩みを抱えている方を中心に40~60代の方が多く見てくださっています。

赤峰 なるほど。いつも思うのですが“高齢者”という言葉は、いったい誰が決めたんでしょうね。ヨーロッパでは、お年を召した方を“高齢者”ではなく、高齢の〇〇さんと紹介します。高齢者というのは日本独自の表現の仕方だと思っています。

バスや映画館や美術館などは、シニア割引があって料金が変わりますよね。僕、シニア割引が使える年齢であったとしても、通常料金でしか利用したことがないです。ただでバスに乗りたいわけでもないですし。

年齢が同じだからといって、みんな体の状態が同じというわけではないですよね。それなのに、高齢者という枠で区分けしてしまうことってどうなのかと、いつも思います。

―― 年齢で定義してしまうと、違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。

赤峰 そうですよね。それに、企業が定年の年齢を定めますが、何を基準に定めているのかといつも思います。 僕には定年はありません。死んだときが定年ですから(笑)

―― 80歳でそのように潔く語れる方って、なかなかいらっしゃらないです。

赤峰 いやいや。僕にとっては当たり前のことです。定年が60歳になろうが70歳になろうが、定年の年齢があると、みなさんその年齢を意識して働くじゃないですか。個人的にはあまり面白くないですね。

―― 健康寿命が延びるなかで、定年制度をなくそうという声もあります。働く意欲がある方が健康な限り働ける社会になることは、生きがいの創出になる面もありますね。

赤峰 自分は高齢者だという思いが強くなると、服も緩くて伸びるものを着るようになったりと、楽な方に流されやすくなりがちです。

それに、定年退職後は、やることがなくなってしまうという人もいるのではないでしょうか。

昼寝をするか、散歩をするかといった過ごし方をする人も多いかもしれません。そうなると、服装はもっと緩くなっていってしまいます。

楽な方に流されないという意味も込めて、僕は80歳の今でも、ほぼ毎日のようにネクタイを締めているんです。

早朝の散歩や加圧トレーニングを実践

―― 赤峰さんは、これまでご病気された経験などなかったのですか?

赤峰 それが、僕は病気したことがないんですよ。もちろん、入院や手術の経験もありません。一年に一度は人間ドックを受けていますが、何も引っかかるものがないんです。

医者にタバコをやめろと何十年も言われているのに、一切やめていないですが(笑)。

―― なにか健康法を実践していれば、教えていただきたいです。

赤峰 歩くことですかね。僕は毎朝、4時半頃に起きて紅茶を入れます。それからストレッチとスクワット20回をしたあと、1時間30分ぐらいは川沿いを歩くようにしています。

僕は比較的歩くのが早いので、近くの多摩川を歩いていると、あっという間に時間が過ぎるんですよね。苦痛だとは思ったことがありません。草木や野の花々を見るのが大好きですから。

特に、目標を定めているわけではないのですが、一日1万歩は歩いています。自分の足が前に出る限りは歩きたいんです。

―― 朝の散歩は、いつ頃から続けているのですか?

赤峰 11年前に梶ヶ谷に引っ越してきた頃に始めました。梶ヶ谷には、その名の通り山谷がありますが、僕はわりと坂や階段を上るのが好きなんです。自分にある程度負荷をかける方が気持ちがいいから。

―― 自分に厳しくどんどん負荷をかけていくんですね。

赤峰 3ヵ月ほど前からは、1日20回のスクワットに加圧トレーニングを加えました。

腕と足を締め込んで20キロのバーベルを肩にかけ、スクワットを20回行うんです。これはきついですよ。でも、縛ったゴムをほどくと、ワーッと血管のなかのゴミが流れる感じがして気持ちいいです。

―― なぜ加圧トレーニングを始められたのですか?

赤峰 80歳という年齢の坂は侮れないと思っているからですね。80歳以降の坂はそれなりに急な坂になるでしょう。だから、そこを登っていくためには、自分の足腰をきちっと整えたいと思いました。

特に腰は“要”という字が入るくらい体の基本になるところですからね。

妻の病気を機に朝食作りを始めた

―― 食事に関しては意識していることはありますか?

赤峰 決まった時間に食べることです。 今、僕は6時~6時半頃に朝食を食べています。決まった時間に食べる習慣をつけることで、毎日の生活リズムが整います。

ちょうど3年前、仕事のストレスもあって家内が帯状疱疹になったんです。これはまずいと思って、それ以降は負担を少しでも減らせるよう僕が朝ごはんをつくることにしました。

―― 朝食作りのこだわりもお聞きしたいです。

赤峰 まずキャベツですね。今でもその習慣は残っているのですが、若い頃から1~2日で大きなキャベツ1個は食べてしまいます。

朝食をつくる時は、油を一切使わずフライパンで軽くキャベツを炒め、しばらく蒸します。その上に目玉焼きを乗せて、溶けるチーズをかけて食べてます。キャベツは芯の硬い部分は残して、あまり柔らかくしすぎないのが個人的には好きです。

あとは、ブロッコリーや豆類も好きでよく食べていますよ。ブロッコリーは茹でるだけで、マヨネーズはほとんど使いません。素材本来の味を楽しむのが一番ですから。

ちなみに自宅の庭では、トマト・キュウリ・パプリカなどの野菜をつくっていて、トマトはこれまでに200個ぐらいは収穫しましたよ。野菜の水やりから収穫まで、すべて僕が担当しているのですが、これが結構楽しくて。

―― 忙しい合間に、野菜も育てているのですね。

赤峰 そんなに負担にはなっていないですよ。ちなみに、僕の仕事は自然の色を参考にしているので、仕事にもつながっています。

植物は成長に伴って、葉っぱの色がどんどん変わっていきますよね。新芽は黄緑っぽく、そこからどんどん緑が深くなっていきます。最後は枯れていくという変化の中で、その色合いからコーディネートを考えるヒントをもらっています。

散歩のときには、多摩川周辺の植物の色が変わるのを見ながら「この色を使ったジャケットを作りたい」と考えますし、そのジャケットに合わせるスラックスや靴下までイメージします。

この仕事をしていると、自然の色から学ぶことは多いです。

自然美や民芸が心の滋養

―― 自然の色をうまく取り入れてるのが秘訣なのですね。

赤峰 自然のなかにある色で美しくない色なんてないと思っています。

昨年は、長野の上高地に3回ほど行きました。上高地はとにかく自然がきれいなので、お気に入りの場所です。最近は、京都の嵯峨野の奥地もハマっていますが、美しい自然を眺めることは、僕にとって心の滋養になっています。

この仕事をしていて思うことですが、色のセンスのあるなしは、どれだけその方が美しい色を見てきたかによって決まります。流行のファッションばかり追っていても、自身のセンスや着こなしのレベルは上がっていきません。

読者のみなさんにも、ぜひ自然の風景から色の合わせを取り入れていただければと思います。

―― 赤峰さんは、YouTubeなどで「健康には、体の健康と心の健康がある」と語られています。体の健康が先ほどの健康習慣だとしたら、心の健康のためはどんなことを行っているのでしょうか。

赤峰 僕の場合は美術館巡りですね。特に民芸が好きです。

民芸と一口に言っても有名な方はたくさんいますが、中でも僕が影響を受けているのは柳宗悦さんです。

一番好きなのは、柳宗悦がコレクションしている朝鮮の陶磁器です。白地の陶磁器なんか、ものすごく綺麗ですから……。

日本人の民芸には、美しいものがたくさんありますし、民芸から受けたインスピレーションも洋服づくりに活かしています。

昭和の不便さには意味があった

―― 赤峰さんは子どもの頃、どのような環境で育ってこられたのでしょうか。

赤峰 僕は、戦中最後の年にあたる1944年、目黒区の碑文谷に生まれました。今、学芸大学の駅があるあたりです。

子どもの頃、ほとんどの家庭にガスはありましたが、風呂は薪で炊いていました。 薪で風呂を炊くためには、薪を割らなくてはいけません。その薪割りは僕の担当になっていました。

それから、庭にあった井戸で水を汲むのも僕の役目。庭がそこそこ広かったので、枯れ枝や枯葉がたくさんあると、掃除も必要になります。

食事するときは正座です。父が剣道六段の有段者だったので、姿勢が丸いと食事中にお箸でピシッと打たれるんです。なのでいつの間にか、顎を引いて背筋を伸ばす癖がつきました。

それから、冬の寒い日でも父に竹刀でビシビシと稽古をつけられました。僕を鍛えるためにね。

―― まさに幼い頃の家庭環境が、赤峰さんの土台になっているのですね。

赤峰 そうですね。このように育ってきていることもあってか、世の中が合理化して便利になっている分だけ、子どもたちが精神的にも肉体的にも相当弱くなっていると感じています。

―― 赤峰さんの子どもの頃から比べると、現代は暮らしの様相が大きく変わりましたね。

赤峰 今の時代は、コンロをひねるだけで火を使った料理ができます。電子レンジや掃除機など、簡単に家事ができる機械も発達しました。

そんな時代にあえて、子どもたちに昭和の時代の暮らし方を体感してもらうのも良いかもしれません。洗濯をしたり、雑巾がけをしたり、井戸水を汲んだりしてね。

今はプラスチックのおもちゃが多いですが、僕の頃は木のおもちゃばかりでした。合成的な製品ではなく自然の素材に触れて育ったことも、感性を磨くことにつながったと思います。

眠りの質を高め、五感で味わう楽しみを

―― 介護が必要な状態になると、動きやすさや、着替えやすさも重要になります。そのような状況で重視すべきことはありますか?

赤峰 まずパジャマですよね。介護が必要な方だと、横になっている時間も増えてくるのではないでしょうか。パジャマは毎日着るので、きちっとした素材のものを着るのをおすすめしたいです。良い素材のパジャマを着ることで、質の高い眠りについていただきたいですから。

実は最近、僕もパジャマをプロデュースしました。

この生地は「ギザ45」といって、幻の生地と言われています。少し触っていただくと分かるのですが、エジプトの綿のなかでも、極上の綿を使っていて、とても柔らかい。この肌触りで眠ったら、良い眠りができると思います。肌ざわりが良いので、この布でシャツをつくる人も多いんですよ。

―― この肌ざわりであれば、睡眠の質も上がりそうです。

赤峰 よく眠れると思いますよ。ほかには、五感で味わう楽しみを持つことも大切です。例えば、僕の場合は映画です。映画は体が思うように動かせない方も、比較的ご覧になりやすいのではないでしょうか。

小津安二郎や黒澤明などの映画を本にしているものもありますが、本で読むよりは映像で見る方が個人的には好きですね。

映画以外だと音楽も良いですね。クラシックは心が整える効果がありますが、それ以外にもご自分の好きな曲をいろいろ聞くと良いでしょう。そのように、聴覚・視覚・触覚を使って、質の良いものを取り入れるようになると、少し元気が出ると思います。

食事も、栄養士の方がコントロールしていると思うのですが、トマトなんかもざっと洗って、少し塩をかけてガブッとかじったらうまいですよね。

病院などでは、丸ごとトマトが出てくることはないと思いますが、介護予防という面で考えると、歯ごたえのあるものを食べて、歯を衰えさせないのも大切なことだと思います。

―― 思うように動けなくなっても、五感で味える楽しみが残されているということですね。

赤峰 そうですね。体が病気だったとしても、心は元気でいていただきたいと思います。 実は今、そういった取り組みを、やろうとしています。千葉県鴨川市にある亀田総合病院のお医者さんに、僕の服のファンの方が多くいらっしゃいまして。

その病院の系列には介護施設もあるのですが、そこに入居している方々に向けた講演をしてくれないかとご依頼をいただいるので、一人でも多くの方にこの考えを届けたいなと思います。

長持ちしない洋服が、大量のゴミになっている

―― 赤峰さんが、これからの人生で一番情熱をかけたいのは、やはりファッションでしょうか。

赤峰 僕ね、“ファッション”という言葉をほとんど使ったことがありません。ファッションディレクターという肩書きで紹介されることもあるのですが「やめてくれ」と言っています。

僕は流行りモノをつくっているわけではありません。

ファッションというのは、流行らせようとする仕掛けに食いついていく人がいるから成り立つと思っています。そのなかで、新しい流行がくれば、少し前に流行した服は新しいものと代えようという話になる。

そのようにして無駄な消費をすることで、年間数百億着はアフリカの砂漠に捨てられているのが現実なわけですよね。

―― そんなにも捨てられているのですか……。一時の流行で服を売り買いすることで、大量のゴミも生まれているということですね。

赤峰 ええ。今年の3月に公開された『燃えるドレスを紡いで』という、ドキュメンタリー映画でも、その様子が描かれました。だから僕は、ポリエステルや合成繊維を一切使っていません。

服のまま土葬してもらったとしても、土に返りますからね。

小・中学校の授業に服育を

―― ゴミになる服を大量につくってしまっていることは、あまり知られていない状況がありますね。

赤峰 そうですね。だから、僕は、子どもたちに向けての服育がしたいと思っていて。正しい洋服の着方を知ることは、回り回って地球環境を守ることにもつながります。

ヨーロッパの場合、3~5歳くらいになると親と別の部屋で寝ます。子ども部屋に洋服ダンスを置いて、子どもたちが自分で服を選ぶようになる。子どもたちが選んだ服をもとに服育が始まるのです。6歳ぐらいになると、男の子はジャケットを着て会食などに出かけます。

日本の場合はそのような習慣はありませんが、きちっと服を着ることの大切さを早いうちに知っておく必要があると思います。いわば、服の着方の楷書体ですよね。

それが行書体や草書体になっていくのですが、今は最初から草書体のような伸びる服ばっかりになってしまっています。だから、僕が子どもたちに教えたいと思っているんです。

これまで、武蔵美術大学や慶応大学など、いくつかの大学で服育の話をしました。でも、今の日本の服飾文化を変えていこうと思うと、小学校や中学校の授業で服育を教えたいくらいです。

―― 実際、赤峰さんのところに教えを乞いに来られる若い方もたくさんいらっしゃるようですね。

赤峰 多いですよ。つい2週間ほど前にも18歳の方が北九州市からいらっしゃいました。来年の成人式に向け、自分の体のサイズに合った服を作ってほしいということでした。

ほかにも、服を買うお金はないけど、服のことを教えてほしいという思いで来られた中学3年生もいます。

―― メンズファッション誌やインスタグラムも大好評で、赤峰さんの写真集も完売だと伺いました。

赤峰 本当にありがたいことです。きっと、見てくださっている方も、洋服の本当の着こなしを知りたいと思われているんだと思います。

―― 赤峰さんは、流行に左右されずに自身の道を貫き、クラシックの神髄を体現している稀有な存在なんでしょうね……。本当にかっこいい大人に会いたいと思っている若い人は多いと思います。

赤峰 それはあるみたいですね。ですので本来は親が教えるべきことですが、僕はスーツやジャケットやブレザーなんかを正しく着る方法を、親に代わって教えてあげたいと思っています。

世界に誇れる日本人へ

―― 本当にかっこいい着こなしをするためには、服について知り、人間性を磨くことが必要ですね。

赤峰 そうですね。海外に行くと、外国人のかっこ良さにひけ目を感じる日本人もいると聞きます。しかし、自分で良いものを見てさまざまな面からセンスを磨いてきた人は、その自信と日本人の大和魂で堂々と勝負することができます。

僕はスーツを着ていても、かつての武士のように脇差しを差しているような思いを持っています。そのような思いがないと「外国人はかっこいいんだよね」で終わってしまいますから。

―― 最後に、赤峰さんは、どのように“人生の定年”を迎えたいかお聞きできますか?

赤峰 特段、すごいことをしたいという思いを持っているわけではありません。自分が最期に目をつぶるとき、笑顔で死にたいと思うだけです。ただ、日本も世界もどんどん変わっていくなかで、本当のかっこ良さを知って生きる人を増やしていきたいですね。

―― 赤峰さんのようにいつまでも人として魅力のある、"かっこいい"生き方をする人が増えたら素敵だなと思います。本日は、ありがとうございました!

取材/文:谷口友妃 撮影:熊坂勉

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