自閉症息子、年長で幼稚園から療育園に転園。 偏食、行事…配慮や工夫に驚きの連続!
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
療育園での生活がスタート!幼稚園とは違いがたくさん
年長から療育園での生活が始まった長男りー。通い始めたばかりの頃は、バスが違う、先生が違う、とそれまでと違うことにぶつかる度に泣いていましたが、すぐに新しい環境にも慣れていきました。
りーの通う療育園では、生活の流れを自分で理解できるように、毎日その日のスケジュールを確認してから活動が始まります。また、個別の課題やカードを使って要求を伝える練習などを行っていきました。連絡帳には、毎日の様子や行った遊びや課題などが細かく記入してあり、りーの様子が幼稚園の時よりも具体的に分かりました。個別療育に取り組むりーの様子も見ることができ、家や療育園での様子の情報交換も行うこともできました。
野菜NGの偏食ボーイ…療育園の先生の配慮で変化が!
療育園に入ってすぐ、先生はりーの食事について心配してくれました。以前も書きましたが、りーは野菜が大の苦手です。大好きなお肉の影にそっと隠して一緒に食べさせようとしても、一度でも野菜の姿が見えてしまえばそれ以降は決して受け付けません。また、想像していたのと食感が違うと、吐き出してしまうこともあります。そのため幼稚園に通っている時は、給食を残してしまうことが多くありました。
このようなりーの様子を知った療育園の先生は、ふだん家で食べているもの、りーの好きな味を聞いてくれ、「こうしたら食べられるようになるのでは」とたくさんのアイデアを出してくれました(例えば、カレーライスは野菜が入っていても食べられたので、かけるタイプのカレー粉を野菜にかけて食べさせるなど)。
その先生のおかげで、今では細かく刻んで料理に入れるようにすれば、野菜を拒絶することはなくなりました。
こんなに違うの!?療育園の行事も驚きの連続!
また、療育園の行事も、私たち両親にとって衝撃でした。
入学式、運動会、お遊戯会などさまざまな行事がありましたが、そのすべての行事において、子どもたちが分かりやすいように、その日のスケジュールが掲示してあったのです。そして待つことが苦手な子どもたちも多いため、行事自体の時間も幼稚園よりも短いものでした。それでも集中することが難しい子のため、座っていることができるようなリラックスグッズや小さなおもちゃなどが準備してありました。先生方も子ども2、3人に1人ついており、行事といういつもと違う状態でも子どもたちが落ち着いて過ごすことができるような工夫がしてありました。
行事の中でうれしく感じることもありました。りーは嫌なことややりたくないことがあるとしゃがんだり、寝転んだりしてしまいます。幼稚園に通っていた頃は、そういうことをするのはりーだけだったので、行事のたびに「申し訳ないな」と思っていました。
療育園の運動会でも、りーはかけっこの途中で寝転んでしまいました。先生が声をかけますが、動かないりー。次の子たちも待っているので申し訳ないなと思っていたのですが、「がんばれー」と温かい声と拍手が聞こえてきました。私たち両親がうれしくなっていると、普段は気持ちが切り替えられないりーが、むくっと起きあがり、無事にゴールすることができました。
療育園では温かく見守ってもらうことができ、ようやく落ち着いたかな、と思ったのですが転園してすぐにとある案内を受けました。
次のステップ……小学校の案内です。こうして療育園に転園して数ヶ月で、次は入学先についての問題が浮上しました。
発語なしのりーの入学先については、またの機会に書いていきたいと思います。
執筆/かしりりあ
(監修:新美先生より)
幼稚園から療育園に転園したときのエピソードを聞かせていただきありがとうございます。
発達障害のあるお子さんは、環境の影響を強く受けます。自分に合った環境だと、実力が発揮でき、できることが増えて、充実感をもって生活できます。
知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)の特性があることで、幼稚園や保育園の一斉の口頭指示が受け取れず、その場で臨機応変に対応することがストレスになったりします。スケジュールで見通しを示してもらえることで、活動に主体的に取り組めるようになりやすいですね。またコミュニケーションは音声言語だけにこだわり過ぎず、あげていただいたように絵カードで要求を伝えるなど、お子さんにあったコミュニケーション方法を使うことで、やり取り自体が増えるのはとてもいいです。園で取り組む課題も、人それぞれなので、個別の課題の時間が設定されているのもいいですね。
偏食対策は、無理強いをしたりだまして食べさせるのではなくて、食形態を工夫して食べられるものを増やしていくというのもいいですね。療育園では偏食のお子さんも多いので、偏食対策のノウハウもたくさん持っているのでしょう。
行事も、無理なく本人たちが楽しめる余裕があるように設定されていて、保護者の方も安心して笑顔で見守れる機会になりましたね。お子さんにあった療育園に転園できて、成長の手ごたえを実感できたのではないでしょうか。素敵なエピソードを共有していただきありがとうございました。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。