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新選組・副隊長の土方歳三をニヒルな風貌と演技で天下一品の時代劇ドラマの人気者に押し上げ、時代劇における土方像の雛形を創り上げた立役者 栗塚 旭(俳優)

コモレバWEB

新選組・副隊長の土方歳三をニヒルな風貌と演技で天下一品の時代劇ドラマの人気者に押し上げ、時代劇における土方像の雛形を創り上げた立役者 栗塚 旭(俳優)

プロマイドで綴る わが心の昭和アイドル&スター

大スター、名俳優ということで語られることがない人たちかもしれないが、
青春の日々に密かに胸をこがし、心をときめかせた私だけのアイドルやスターたちがいる。
今でも当時の映画を観たり、歌声を聴くと、憧れの俳優や歌手たちの面影が浮かび、懐かしい青春の日々がよみがえる。
プロマイドの中で永遠に輝き続ける昭和の〝わが青春のアイドル〟たちよ、今ひとたび。

企画協力・写真提供:マルベル堂

 俳優栗塚旭(くりづか あさひ)の名前を知っている人ならば、9割以上の人が「あの、土方歳三の」と言うくらい、栗塚旭と言えば土方歳三、土方歳三と言えば栗塚旭ということに、異論を唱える人はいないだろう。それほど、栗塚旭が演じた土方歳三は、テレビ時代劇のヒーローとして、お茶の間の人気者になった。そして栗塚旭もまた、テレビ時代劇のスターの座についた。そのドラマとは、1965年から66年にNET(現・テレビ朝日)系列で放送された「新選組血風録」である。

 新選組隊長の近藤勇ではなく副隊長の土方歳三を主人公に据え、裏面史をクローズアップし、隊長から隊士それぞれの人間としての悩み、苦しみにも迫り人間模様を浮き彫りにしながら、悲劇の男たちの〝ロマン〟と〝情〟を描いたドラマである。栗塚は、ニヒルな風貌と演技で人気を集め、栗塚旭=土方歳三のイメージを決定づけるはまり役となった。原作者・司馬遼太郎からじきじきに「あなたが土方歳三」だとのお墨付きをもらったという話も今に伝わる。

 栗塚旭は脇役としてテレビドラマに出演していたが、栗塚を明智光秀役にと、東映から当時所属していた劇団に出演オファーがあり、NETと東映京都テレビプロダクション制作、品川隆二(近衛十四郎主演のドラマ「素浪人月影兵庫」の焼津の半次役で知られる)主演のドラマ「忍びの者」に光秀役で起用され、その後「つむじ風三万両」「六人の隠密」「柳生武芸帳」など、東映京都テレビプロダクション作品に立て続けに起用されていた。そこから「新選組血風録」につながった。ちなみに「忍びの者」には、東千代之介、里見浩太朗(当時は浩太郎)、山城新伍、高田浩吉ら東映俳優が多数出演していた。

「新選組血風録」は、メインキャストとして近藤勇に舟橋元、沖田総司に島田順司、斎藤一に左右田一平と、当時まだ名前も知られていない俳優を配したが、それにも関わらず大ヒットしたのだから、作品としての質がいかに高かったのかが推察できる。彼らもまた、このドラマでその名を知られるところとなった。毎回のゲストとして〝東映城お姫様〟の一人である丘さとみ、や時代劇の大御所である〝アラカン〟こと嵐寛寿郎、森光子らが出演している。

(C)マルベル堂

 

 栗塚旭の土方歳三が、いかにはまり役として認知されていたかは、その後、やはり土方歳三を主人公に据えた70年のテレビドラマ「燃えよ剣」(舟橋元、島田順司も同役で出演)でも主役を演じ、73年に鶴田浩二が主役の近藤勇を演じた「新選組」(桂小五郎を菅原文太が演じていた)でも土方歳三役で出演していることでもよくわかる。「燃えよ剣」は、テレビでの連ドラ以前の66年に『土方歳三 燃えよ剣』のタイトルで松竹にて映画化されており、土方歳三役はもちろん栗塚旭だった。さらに『レ・ミゼラブル』を大胆に翻案し、日本の時代劇として再構築した81年のNHKドラマ「いのち燃ゆ」にも土方歳三役で出演している。

 また、三谷幸喜が脚本を手がけた2004年のNHK大河ドラマ「新選組!」では、山本耕史演じる土方歳三の兄・為次郎役で出演した。テレビ大好きな三谷が、「新選組血風録」へのオマージュとして、栗塚旭に出演願ったのではないかと勝手に推察している。ちなみに、沖田総司を演じた島田順司も、沖田(藤原竜也)を匿う植木屋の役で出演している。2006年から2009年にかけてCS放送の時代劇専門チャンネルで、「新選組血風録」をはじめとする往年の主演ドラマが再放送されてたことで、以前からのファンはもちろんのこと、栗塚旭の人気を知らない新たなファン層をも獲得し、大きな反響を呼んだ。その人気の再燃ぶりは、2007年12月12日付の読売新聞夕刊で「土方歳三役・栗塚旭ブーム再燃 若い女性層にも広がる」として、取り上げられるほどだった。

 土方歳三役でテレビ時代劇スターの地位を獲得した栗塚旭は、その後、新選組隊士を演じた俳優たちも出演した柴田錬三郎原作の「われら九人の戦鬼」、土方歳三役に次ぐ代表作である「俺は用心棒」(島田順司、左右田一平も出演)、「待っていた用心棒」「帰ってきた用心棒」「用心棒シリーズ 俺は用心棒」の用心棒シリーズ、主題歌も歌った「風」での快男児・風の新十郎役など、に主演している。「TVガイド」誌では、67年10月6日号(「俺は用心棒」)、68年5月24日号(「風」の共演者土田早苗と)、70年1月16日号(「燃えよ剣」)と、表紙を飾っている。

 そのほかにも岡田茉莉子と共演した「徳川秀忠の妻」、宮本武蔵を演じた「女人武蔵」、「天保水滸伝 平手造酒」の主演などが思い出される。また、松平健主演の人気シリーズ「吉宗評判記 暴れん坊将軍」に、78年から97年に山田朝右衛門役で準レギュラーとして出演した。

 映画では、野村芳太郎監督『おはなはん 第一部・第二部』、大庭秀雄監督のメロドラマ『春日和』、モーパッサンの長編小説を翻案した『女の一生』などで、時代劇とはまた異なる魅力をみせていた。相手役はいずれも岩下志麻だった。2005年公開の、寡黙な伝統職人役で、共演の藤村志保と夫婦の愛情の機微を描いた主演映画『二人日和』(野村惠一監督)は、岩波ホールでロングラン上映され、第5回ニッポン・コネクション(ドイツ・フランクフルト日本映画祭)グランプリ、毎日映画コンクール技術賞、第25回藤本賞奨励賞、第2回おおさかシネマフェスティバル撮影賞を受賞した。また、2023年に亡くなった映画監督・中島貞夫20年ぶりの長編劇映画である19年公開『多十郎殉愛記』(高良健吾、多部未華子主演)でも、健在ぶりをみせてくれた。

 舞台でも、『俺は用心棒』『燃えよ剣・土方歳三と沖田総司』などのほか、佐々木小次郎を演じた長谷川一夫主演の『宮本武蔵』、『美空ひばり特別公演』、岡本喜八演出の舟木一夫歌手生活15周年記念公演『快傑!!児雷也』、マキノノゾミ演出の『きらら浮世伝』、さらにはイプセンやシェイクスピア劇にも出演している。

 最新作となる第8作の制作も決定している時代劇専門チャンネルの北大路欣也主演の「三屋清左衛門残日録」シリーズにも道場主の役でレギュラー出演しており、若いころの土方歳三のギラギラした空気感とはまったく趣を異にする、老境に入った人物を、現在の年齢ならではの芝居で演じている。土方歳三という生涯の当たり役を得、テレビ時代劇のスターとなった栗塚旭は、87歳のいまもなお現役として時代劇ファンを楽しませ続けてくれている。

文=渋村 徹

※プロマイドの老舗・マルベル堂では、原紙をブロマイド、写真にした製品を「プロマイド」と呼称しています。ここではマルベル堂に準じてプロマイドと呼ぶことにします。

マルベル堂
大正10年(1921)、浅草・新仲見世通りにプロマイド店として開業したマルベル堂。2021年には創業100年を迎えた。ちなみにマルベル堂のプロマイド第一号は、松竹蒲田のスター女優だった栗島すみ子。昭和のプロマイド全盛期には、マルベル堂のプロマイド売上ランキングが、スターの人気度を知る一つの目安になっていた。撮影したスターは、俳優、歌手、噺家、スポーツ選手まで2500名以上。現在保有しているプロマイドの版数は85000版を超えるという。ファンの目線を何よりも大切にし、スターに正面から照明を当て、カメラ目線で撮られた、いわゆる〝マルベルポーズ〟がプロマイドの定番になっている。現在も変わらず新仲見世通りでプロマイドの販売が続けられている。

マルベル堂 スタジオ
家族写真や成人式の写真に遺影撮影など、マルベル堂では一般の方々の専用スタジオでのプロマイド撮影も受けている。特に人気なのが<マルベル80’S>で、70~80年代風のアイドル衣装や懐かしのファッションで、胸キュンもののアイドルポーズでの撮影が体験できるというもの。プロマイドの王道をマルベル堂が演出してくれる。
〔住〕台東区雷門1-14-6黒澤ビル3F

読者の皆様へ
あなたが心をときめかせ、夢中になった、プロマイドを買うほどに熱中した昭和の俳優や歌手を教えてください。コメントを添えていただけますと嬉しいです。もちろん、ここでご紹介するスターたちに対するコメントも大歓迎です。

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