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長すぎるクルマに驚く:伊東和彦の写真帳_私的クルマ書き残し:#29 チェッカー・エアポートリムジン

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アメリカ車輸入の話題がメディアを賑わせていることもあり、今回は前回に続いてアメリカ車を取り上げてみた。

以前にもこの連載で記した、大学生最後の年に仲間と実行したトヨタ・ライトエース・バンでの旅の途中のことだ。走ってばかりでは能がないから、人並みに名所にでも行ってみようと皆の意見が一致し、金閣寺を訪れた。

そのとき、駐車場に異様に細長いクルマが停まっていることに目を奪われた。ステーションワゴンのようでもあるが、ドアが片側だけで4枚もあって、とにかくホイールベースが長かった。紺色のボディはピカピカに磨き上げられていて、横にいた一般的な観光バスより綺麗で堂々として、存在感が強烈だった。全員がクルマ好きだったから、さっそく皆で観察した。仲間たちは一通り見たら気が済んだようでその場から離れていったが、私はといえば、金閣寺は高校の修学旅行でも来ているし、こんな奇妙なクルマに出会う機会はないだろうからと、周囲に人がいなくなるのを待って、バスと対比できる場所を探して数回、シャッターを切ってから、皆の後を追った。いま思えば、サイズ感を示すためにも、人や乗用車がいたほうがよかったのだが。

これが金閣寺の駐車場で遭遇したチェッカー・エアポートリムジン。

エンブレムにはCheckerとあり、そのサイズと佇まいから米国車だとは容易に想像できたが、見たことのない未知のメーカーだった。拝観を終えて帰ってみるとすでにチェッカーの姿は消えていた。

大阪空港交通と書かれ、日本航空の鶴のマークが描かれていた。

旅から帰って早速、いつも頼りになるニック・ジョルガノ著の『Encyclopedia of Automobile』で調べ、チェッカー・モーターズはタクシーキャブを主力商品のひとつにしている会社だと知った。1950年代初頭の最盛期には、ニューヨークを走るタクシーの大多数がチェッカーだったというから、大手であるに違いない。
 
私たちが目にした、引き伸ばしたようなワゴンはエアロバスもしくはエアポートリムジンといい、空港などでのシャトルとして使われることを想定した車両だ。用途に応じて長短2種のホイールベース仕様があり、ボディにはステーションワゴンとセダンのバリエーションが存在することも知った。
 
京都で遭遇したモデルは8枚ドア型のステーションワゴンだったが、ホイールバースがこれより短い6ドア型もあり、さらにWB長短のセダンも存在し、WBが短いモデルでも9名が、京都で見た仕様では12名が乗車できたとも知った。WBが短い仕様でも回転半径は相当に大きなはずだから、このロングWB仕様を京都市内で運転していたドライバーは並大抵でない苦労をしたのではなかろうか。

エアロバスの生産は1962年から77年までとある。私が見た1976年の時点でさえスタイリングはやけに古風だと感じたが、そのころは立派な現役生産車だったのだ。

やけにクラシカルなスタイリングだと思ったが、1977年の時点でも現役の生産車だった。

チェッカーという自動車会社自体にも興味を抱いたが、現在のようにインターネットで情報が容易く入手できるわけではなく、日本の自動車専門誌で記事を見かけることもなかったから、『Encyclopedia of Automobile』の情報だけで満足するしか手段はなかった。日本の雑誌に記事が載ったとしても、ジョルガノの記述ほど正確で詳しいものはなかっただろうが……。
 
ところが、1990年代に入ってから、あるヒストリックカー・イベントに出店していた個人のガレージセールでカタログを漁っていたところ、広報資料らしきファイルに入った資料と、さらに別の年に簡単なリーフレットが販売されているのを見つけ、ともに驚くほど安価であったから、迷わず私のささやかなカタログ・コレクションに加えた。ここに掲げたメーカー写真とパンフレットはその時に入手したものである。

ガレージセールで入手したメーカーのプレスキットに入っていた写真。偶然に入手できたことが幸運だったが、いったいどういう経路で資料が配布されたのだろうかと思う。好事家のコレクションが放出されたのだろうか。

チェッカー社はエンジンを自製しておらず、エンジン専業メーカーのコンティネンタル製の直列6気筒から、シボレー製V8まで搭載されていたという。驚かされたのは、6窓ボディのリムジンにはタクシー用以外にも自家用車仕様(ハイヤー?)も存在。衝突安全規制の強化を受けて5mphバンパーを備えながら、基本型を変えぬまま1982年まで造られたとのことだ。さながら生ける化石、シーラカンスだ。
 
ちょっと古いアメリカ映画では、いわゆるタクシーの“イエローキャブ”としてチェッカー・マラソンが多く登場していた。いつか乗ってみたいと思っていたが、1985年になって初めてアメリカに取材で行った時には、大都市圏ではチェッカーのタクシーは現役を退いていたようで、短い滞在日程ではあったが1度も遭遇することはなかった。

チェッカーのセダン仕様であるマラソンにはタクシー用のフリートユーザー向けのほかに、一般消費者向けの乗用車仕様も存在した。この写真は情景から見てハイヤーか社用車だろう。
ほぼ生産末期のタクシー仕様車。モノクロ写真だが、イエローキャブの塗色と思われる。

今でもチェッカーは気になる存在だ。あの京都での突然の巡り会いが強烈だったからだろう。あの金閣寺で出会った8ドア型のエアポートリムジンは現存しているのかな?
 
と、ここまで書き進めたところ、親しい友人が収集していたメーカーズ・プレートの存在を思い出した。解体業者と親しかった友人は、しばしば解体中のめずらしいクルマがあると、プレートを譲り受け、やがてかなりの分量から成るコレクションになっていたのだ。確か、その中にチェッカーのプレートがあったがあったはずだと。
 
さっそく目指すプレートを見せてもらい、アメリカにあるチェッカーの愛好家サイトで、そこに刻まれたシャシーナンバーを調べてみると、果たして、それはエアポートリムジンのもので、エンジンはシボレーV8とあった。こうした特殊車両が多数輸入されていたとは思えず、仮に1台しか輸入されていなかったのなら、あの京都で見たクルマの“証拠物”かも知れない。

一般消費者向けの乗用車としての使い方を意識した1959年モデルのリーフレット。3列シート配置のセダンだ。
友人のプレートコレクションにエアポートリムジンのものがあった。もしかすると、あの京都で見たクルマの“証拠物”かも知れないと胸が高鳴った。

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