“つくる”にありがたみを感じて 釜石・浜千鳥、体験塾で酒米「吟ぎんが」稲刈り
釜石市小川町の酒造会社「浜千鳥」(新里進社長)が原料とする酒米の稲刈りが9月28日、大槌町の契約農家の田んぼであった。同社が企画する「酒造り体験塾」の第2弾プログラムとし、親子連れら約90人が参加。実りの秋を体感した。一方、供給不足や価格高騰など昨今のコメ問題と、その動向が気になる消費者の目線を持つ人もいて、「酒米だけど、コメのありがたみを感じる」と、動かす手に丁寧さを加えた。
体験の場は、同社に酒米を提供する佐々木重吾さん(68)の田んぼ(約7アール)。5月に体験塾参加者らが「吟ぎんが」という品種を手植えしていた。佐々木さんから説明を受けた後、参加者が田んぼに入り、実りの時期を迎えた稲穂を鎌で収穫。刈り取った穂は束ねて天日干し用に組んだ棒に「はせがけ」した。
大船渡市の小学生中島龍司さん(8)は田植えにも参加していて、その時に作業した辺りの稲を刈り取った。「大きくなっていて、うれしかった。切る時に鎌を引いたりするのが難しかったけど、楽しい」とにっこり。母の愛海さん(30)は「お酒になるものだけど、コメの成長過程を知ることができた。普段食べているコメへの気持ちも違ってくる」とうなずいた。
佐々木さんによると、この田んぼの実りは猛暑の影響を受けた。すぐ隣には自家用米を植えているが、よく見ると穂の垂れ具合に違いがある。酒米用は穂が短かったり、垂れていない株もあったり。例年と同じ方法で育てたが、「田んぼに有機物を入れているかの差」が今年の夏は顕著に出た形だといい、「植物、作物を育てるためには寄り添わなければいけないと改めて感じた。土が本来持っている力を発揮できるよう、勉強しながら試行していく」と腕をまくる。
生産者の思いにも触れた釜石市の会社員三野宮孝志さん(53)は「コメもお酒も苦労してつくっている人がいる。食べて、飲める、ありがたみを感じながら取り組んでいる」と話し、額の汗をぬぐった。体験塾を通して酒造りの一端に関わることができ、「感動ひとしお」と破顔。吟ぎんがを使った同社の「ゆめほなみ」について「フルーティーで香り高く、ワインみたい」と評し、今年のコメで仕込んだ一品を楽しみに待つ。
佐々木さんが会長を務める大槌酒米研究会では今年、6個人1法人が同社に供給する吟ぎんがを栽培し、合わせて約20ヘクタールを作付けした。9月上旬から稲刈りを始めており、「猛暑の中でも割と順調に育ち、平年並みの収量になる」と見込む。
一方で、気になるのがコメの価格高騰。全国的には酒米から食用米の生産へ切り替える農家が増えているというが、「大槌は微増」と佐々木さん。体験塾を通じ、酒を造る人やコメを作る人、消費者、地域住民など多様な関わりが生まれていると感じていて、「浜千鳥は土地柄がよく出た、地元に定着している酒。協同することは、人にとっても地域にとってもの元気の素になる。これからも貢献できれば」と話した。
同社では2003年から大槌産酒米・吟ぎんがを使った酒造りを続ける。ゆめほなみのほか「純米大吟醸」「特別純米酒」、大槌・源水地区の湧水で仕込んだ地域おこし酒「源水」などにも広げており、今では同社が使うコメの半数を占める。ただ、コメ不足から続く主食用米の価格高騰のあおりを受ける形で酒米の価格も上がっているのが、懸念材料に。新里社長は「地元のもので酒を造る。地酒メーカーとして大切にするコンセプト。この主力米を大事にしながら、いい酒を造っていくのは変わらない」と力を込める。
この体験塾は、酒造りの工程や同社が込める思い、そして日本酒への理解を深めてもらうための企画。今後、「仕込み」「しぼり」体験を予定する。