小3自閉症息子、1度辞めた習い事を再開!こだわり、衝動性、不器用…特性への合理的配慮で変化が?
監修:藤井明子
小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医/どんぐり発達クリニック院長
無理だと思っていた習い事、事情を説明して入会
特別支援学級の情緒クラスに在籍している長男けんとは、現在小学3年生。ASD(自閉スペクトラム症)と3歳の時に診断を受けました。小さい頃から数字が大好きで、何か数字を見つけると目をキラキラさせて喜んでいました。
年中の時、けんとがそろばんをやりたいと強く希望してきました。しかし構音障害があるので何を話しているのか分からないことも多いわが子。じっと静かに座ることも苦手です。やっていけるのか不安だったのですが、勇気を出してそろばん教室の先生に事情を説明したところ、受け入れてくださったので習い始めることにしました。
その教室は超少人数制。先生が私の同席を許可してくださったので、隣でけんとの言葉を通訳したり、離席しないように補助をしたりしました。
けんとは1年半ほどはやる気満々。みるみるうちに上達していきましたが、段々難しい問題になり、間違えが多くなると一気にやる気が低下。そのやる気のなさに私もイライラして怒ってしまうようになりました。その状態がつらかったので、小学校1年生の時にけんとと相談し、そろばん教室を辞めることにしました。
アプリを活用して続け、突入したやる気モード
「せっかくそろばんを習ったのに、辞めるのはもったいないな」と思っていた私。忘れない程度に家で簡単にできるものはないかと思い、探してみました。すると、タブレットでそろばんのようなことができる有料アプリを発見。けんとに見せてみると「やりたい」とのことだったので、試しにやってみることにしました。ゲーム感覚でやるものだったので、少しずつ続けていきました。
それから1年半くらいがたち、小学2年の冬。急にけんとが「小3になった4月から、そろばんを習いたい」と頼んできたのです。以前通っていた教室にまた通うことにしました。少しずつタブレットを使いアプリでやっていたのと、たまにですがそろばんをやることもあったからなのか、復帰後はすぐに慣れました。
同席なしで離席…新たな課題と対応策
以前習っていた時は私が同席していましたが、小学3年生になったこともあり「同席しないで試しにやってみましょう」と先生が提案してくださいました。
けんとは、やることを決めておき、視覚支援としてスケジュールを書いて見せると、スムーズに行動できることが多いのです。それを先生にお伝えしたところ、ホワイトボードを使い、視覚を使って説明しながら授業を進めてくださいました。
しかし、やる予定の問題を全て解き終わった瞬間(または、終わりの合図のタイマーが鳴った瞬間)席を立ちあがり、興味のあるものへとすごい勢いで離席してしまいます。ほかにも、近くの生徒さんのそろばんをのぞきに行ってしまうという行動が出てきてしまいました。
パーテーションなどを使い視覚の刺激を減らす方法や、行ってもいい範囲をガムテープなどを使い示してあげる……などの対策を取れば防げることもあるのですが、習い事でそこまでお願いするのは難しいなと感じています。
それでも何か離席を防げる方法はないのか……と思い、現在試していることがあります。それは、やることが終わったあとにとってほしい行動までを書き、見せることです。離席は少しずつ減っているので、ほかの生徒さんのご迷惑にならないように、これからもわが子にあう方法を試しながら探していきたいと思っています。
以前と比べて成長を感じることも
そろばん教室に復帰して、成長した姿も見せてくれています。
まず、そろばんの珠を弾く指が、以前よりもチカラ加減を調整しながら動かせるようになったと感じることです。そして以前は、人の話を聞かずに、自分のこだわりのやり方を通すこともあったのですが、先生の教えを聞くようになりました。
また、字が汚くて、書いた数字が読めず、答えが合っていても不正解になってしまうことがよくありました。ですが、復帰後は先生のアドバイスを聞いて本人が実践し、以前よりもキレイに書けるようになりました。
検定試験でのありがたい合理的配慮
そろばん教室では年に数回、集団活動が苦手なけんとには難しい「検定試験」があります。試験をしている間、じっと座っていないといけませんし、声も出せません。集中しないといけない環境なので、ほかの生徒さんが気になってしまうような行動をとると、ご迷惑になってしまいます。
普段の授業だけなら先生のサポートもあり、何とかなっていましたが……。検定試験は厳しいな……と思い、先生に相談しようと考えていたところ、先生からご提案をいただきました。それは、教室にほかの生徒さんがいらっしゃらない時間をつくり、けんと1人で検定試験を受けられるよう「合理的配慮」をしてくださるというものでした。一緒の空間で受ける場合、ほかの生徒さんが集中しづらくなる可能性が高かったので、ありがたすぎて感激しました。
こだわりが強く、不器用。視覚的な刺激があると衝動を抑えるのが難しいけんとの特性と、そろばんとの相性が合っていない部分もたまに感じる時があるのですが、本人がやる気を出して頑張っている間、それを応援したいと思います。
執筆/ゆきみ
(監修:藤井先生より)
けんとさんが自らそろばんに挑戦し、周りの工夫も受けながら、取り組む姿は素晴らしい成長と感じました。けんとさんのペースで学びを進められたことで、達成感や自信が育まれることは、とても大切です。ゆきみさんをはじめ、先生などの周囲の方々が日々見守り、応援されれている姿勢が支えとなっていることでしょう。けんとさんの意欲を大切に育てていけると良いですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。