「楽しいこと以外はしない」家事拒否だった発達障害息子が18歳を境に大変身!?転機となったのは
監修:藤井明子
小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医/どんぐり発達クリニック院長
手伝い嫌いな幼少期から思春期
発達障害のあるわが家の息子リュウ太は、「ぼくは楽しいこと以外のことはしたくないんだよ」と言って、家の手伝いを嫌がることがよくありました。
それでも、手伝いをしてくれるときは1回50円の手伝い賃を渡す約束にしていたので、小学校低学年の頃は、毎月のお小遣い以外にお金がほしいときにトイレ掃除やお風呂掃除(浴槽の中のみ)の手伝いをしてくれました。それも、高学年になると「報酬が少なすぎるからやりたくない」と言って徐々に家の手伝いをしなくなっていきました。
中学生の頃は遊ぶことに夢中になり、こちらが手伝いを頼みたいときに家にいない日があったり、「買い物に行ってきて」と簡単な頼みごとに「だりー、ヤダ」と愛想のない返事が返ってくることもしばしば。
わが家の息子はなぜこんなに協力的じゃないんだろう?手伝いって自立に向けての準備なのに伝えられないな、ほかの家の子は手伝いをしたりするんだろうな……と想像しながら悲しくなり、私は「この子に手伝いを頼むことはもう無理かもしれない」と思うようになりました。
転機!一か八か床下作業の依頼
そのような調子だったので、家の手伝いのことで親子喧嘩になることも。それが嫌で、私は次第にリュウ太に手伝いを頼まないようになりました。
そうして月日は流れ、彼が18歳で専修学校高等課程3年のとき、ようやく家の手伝いに協力してくれる機会が訪れます。
その頃、わが家では洗面脱衣所と廊下など3か所の床が沈むようになり、床の補修をすることになりました。といっても床下に潜りジャッキを設置して床が沈まないようにする簡易的な補修です。キッチンの床下収納から潜って、かび臭く暗い床下の土の上をはいつくばって進んでいく作業です。
私は、その作業をやりたくありませんでした(笑)。夫に頼んでも嫌がられそうだったので、一か八かリュウ太に頼んでみることに。……すると「いいよ、その代わり時給と汚い場所の作業分のお手当くれるならやるよ」と言って、手伝いを引き受けてくれたのです。
「息子よ、あなたもこの家に住んでいるのだから手伝いは無償でやってよ!」と喉元まで出かかったのですが、せっかく手伝う気になっているのだから気持ちよく引き受けていただこうと、その言葉を引っ込めて「お願いします」とリュウ太に床下の任務を託しました。
その当時専修学校で車の整備を学んでいたリュウ太は、学校で着ている整備ユニフォームに着替えて、洞窟探検のようにヘッドライトを装着して床下に潜っていきました。
家は基礎のコンクリートがありますから目的地まで迷路のようになっているところをはいつくばって、見事に床が弱っている場所にピンポイントでジャッキを置いてくれました。おかげで床は踏んでも沈まなくなりました。
床下から戻ってきたリュウ太は泥だらけで、すぐにお風呂に入り、報酬5,000円を手にするとあっという間に遊びに行ってしまいました。1時間半の作業に5,000円は払いすぎじゃない?と思う人もいるかもしれませんが、修繕業者に頼むと1万6,000円以上かかってしまいます。私はなにより、リュウ太が“頼りになる人”になってくれたようでうれしかったのです。だから5,000円です。
自立への第一歩と親の喜び
その頃から徐々にリュウ太が手伝いしてくれることが増えていきました。買い物に行く際に車を出してくれたり、私の車の整備をやってくれたり、「楽しいこと以外したくない」と言っていた頃から変わっていきました。
心が大人になってきたからでしょうか?家電の取りつけなど「それやろうか?」とか、私が苦手なスマホの設定を「オレがやってやるよ」と協力的になり、頼りになる人になってきたのです。母を労わるようになったのかな?と思うのでした。
執筆/かなしろにゃんこ。
(監修:藤井先生より)
「楽しいこと以外はしたくない」と言っていたリュウ太さんが、かなしろにゃんこ。さんのために動き、頼られる存在になっていた姿に、あたたかい気持ちになりました。「誰かの役に立てた」と実感できた時、その体験は単なる出来事にとどまらず、自己効力感(自分は何かができる感覚)を育む大切な糧になります。成長のペースは個人差や、波があり、時に立ち止まることもありますが、「できた」という積み重ねがとても大切です。子どもたちに、その子なりの輝きを見出せる環境が広がっていくことを願っています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。