「小説が映画化されまくり」「中毒者続出」な作家・染井為人の視線とは?北村匠海も魅了された『悪い夏』
「中毒者続出の極悪小説」まさかの映画化
第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し「クズとワルしか出てこない」と話題を呼んだ染井為人(そめい ためひと)の傑作小説を映画化した『悪い夏』が3月20日(木・祝)より全国公開。数多くの傑作を作り上げてきた鬼才・城定秀夫が監督を務め、『ある男』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した俊英・向井康介が脚本を手掛ける。
主人公・佐々木守を演じるのは、映画・ドラマの大ヒットが続く北村匠海。真面目に生きるも、気弱な性格ゆえに犯罪に巻き込まれていく男の姿を渾身の力で体現する。
さらに、色じかけで佐々木を犯罪へと巻き込んでゆく育児放棄寸前のシングルマザー・愛美を演じる河合優実をはじめ、裏社会の住人で犯罪計画の首謀者・金本役に窪田正孝、正義感に燃える佐々木の同僚・宮田役に伊藤万理華、愛美に肉体関係を強要する佐々木の先輩・高野役に毎熊克哉、金本の愛人・莉華役に箭内夢菜、金本の手下でドラッグの売人・山田役に竹原ピストル、息子との困窮生活から万引きに手を染める古川佳澄役に木南晴夏など、豪華俳優陣が其々クズぶりを狂演する。
異業種から転身した作家の視線――俯瞰で見つめる人間の感情の機微
本作の原作者である気鋭作家・染井為人は、芸能関係のマネージメント職や舞台プロデューサーなどを経て作家に転身。2024年に公開され国内の映画賞を席捲している『正体』(監督:藤井道人)の原作も手掛けており、いま映画界からも熱視線を浴びている作家の一人だ。
「悪い夏」をはじめとする染井の小説は、ダークサイドに足を踏み入れてしまった人々の感情の機微を描いた作品が多いのも特徴といわれており、そこに描かれる人間の業とも言うべきむき出しの欲望は、滑稽でもあり愛らしくもある。「悪い夏」のあとがきでは、世界三大喜劇王の一人チャールズ・チャップリンの言葉にも触れていたが、決して善悪を問うことなく、他人をジャッジすることはしない染井の物語を読めば、そのまなざしが人間そのものに向けられていることがわかる。
監督の城定も、「うだるような暑さの中、右往左往する登場人物たちの駄目さやどうしようもなさは人間の愛おしさでもあると感じます」と(「悪い夏」の)感想を語っているが、明日は我が身か? と思わせつつ、可笑しみと楽しみが同時に押し寄せてくる絶妙なバランスが、読者を惹きつけているのだろう。
観てから読むか、読んでから観るか?原作と映画で異なる「クズとワル」たちの行く末
主演の北村匠海は先に原作小説を読んでいたが、その面白さに心惹かれていたという。そして城定監督も原作を読了後すぐさま「やりたい!」と思ったそうだ。
主人公の真面目で気弱な公務員・佐々木役については、製作陣は最初から北村匠海をイメージしていたという。原作での佐々木の小柄で華奢な身体描写とはやや異なるものの、真面目で気弱、そして事件をきっかけに闇堕ちしていく繊細なキャラクターを演じられるのは北村以外に考えられない、という理由から主演に決定した。
その言葉に呼応するように北村が見せる“闇堕ち演技”は、まさに佐々木守そのもの。原作者の染井は映画化にあたって、「わたしはイチ映画ファンとして、『悪い夏』がスクリーンに描かれるその日を、静かに待ちたいと思います。きっと、胸を熱くさせてくれることでしょう」とコメントしていたが、実際に試写を観て「見事に佐々木になっていた!」と感激。演じる北村と握手も交わしたという。
じつは映画版では、ラストの描写が原作とは異なっている。それぞれの結末は明かせないが、試写会後に観客から「ほんの少しの救いがちゃんと描かれていて映像化は納得」「悪ばっかなのに観終わった後はスッキリ」「 ラストの畳みかけがすごい」といった声があがっており、原作ファンも納得の様子だ。原作と映画、どちらから入るか? 異なるラストによって2倍楽しめるのも本作の魅力の一つと言えるだろう。
真面目に生きる気弱な公務員の破滅への転落と“今そこにある”恐怖を描く狂乱のサスペンス・エンターテインメント『悪い夏』は、3月20日(木・祝)より全国公開。