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色と音楽が紡ぎ出す青春ストーリー「きみの色」試写会レビュー

SASARU

社会現象を巻き起こした『映画けいおん!』(2011年)、国内外問わず高い評価を受けた名作『映画 聲の形』(2016年)、両作品の監督を務めた山田尚子監督の完全オリジナル長編最新作、映画「きみの色」が全国東宝系にて2024年8月30日(金)から公開されます。

小さな心の揺れ動きさえ表現していく繊細な演出が、全世界から最も脚光を浴びるアニメーション監督の作品で、『音楽×青春』の物語。今回は"色"をテーマにキャラクターだけでなく、観客の心も色づくストーリー。きっとあなたが忘れていた感情を思い出させてくれるはず。

公開に先駆け、試写会に参加したSASARU movie編集部が作品をレビューします。

「きみの色」のストーリー

(C)2024「きみの色」製作委員会

トツ子は、人が「色」で見える高校生。ある日、トツ子は、同級生のきみと、音楽好きのルイと出会い、バンドを結成します。それぞれに悩みを抱えながら、音楽を通して心を通わせていく3人。

トツ子がひと目で心を奪われてしまうほど美しい色を持つきみは、周囲の期待に応えようとするあまり、本当の自分を表現できない葛藤を抱えています。また、島の病院の跡取りとして母親からの期待を一身に受けるルイも音楽が好きだという自分の気持ちを素直に表現できない悩みを抱えていました。そして自分の「色」を探し続けるトツ子。音楽でつながり、自分と向き合っていく3人の姿は、私たちに勇気を与えてくれます。

バンド活動を通して、トツ子たちが自分らしく前向きになっていく姿、3人の心温まる成長ストーリーは、学生だけでなく大人の心まで温かな光に包んでくれるような感覚になりますよ。

やがて訪れる学園祭で3人は、自分たちの音楽を発表する決意をします。それは、自分自身を見つめ直し、未来へと歩み出すための、小さな一歩となるのでしょうか。

見えないはずの感情を表現する、美しい色と音楽の数々

(C)2024「きみの色」製作委員会

トツ子が見る世界は、嬉しい色や楽しい色、穏やかな色と様々な色に包まれています。中でもひと際、美しい色を放つきみとの出会いはひと目惚れに近いほど、トツ子の心を捉えます。きみとの出会いから、トツ子はどんどん積極的になり、優しい色を持つ少年・ルイときみの3人で一緒にバンドをやろうと誘うという展開に...。

自分の色だけが見えないトツ子。これは人の色が見えてしまうが故に周りに合わせてしまい、自分らしさを見つけられていないから。トツ子に限らず、「空気を読む、読まない、読めない」という社会の中で、誰しも周りに合わせた経験があるのではないでしょうか?周りに合わせることで、安心感を持っても、自分らしさを失っているという喪失感を味わうことがありますよね。そんな経験をしている方にはぜひ、観て頂きたい作品です。

自分を表現できないトツ子が、きみやルイと出会って友だちができたことの喜びを表現していく様子は思わずほっこりとしてしまいます。そして、その喜びを音楽で表現していく様子も見どころのひとつ。トツ子が作った曲『水金地火木土天アーメン』は、リズム感や歌詞が魅力で、何度も口ずさんでしまうほどハマってしまう人も多いはず。

思春期ならではの葛藤と成長が鮮やかに表現されたカラフルな世界

(C)2024「きみの色」製作委員会

いつも周りに合わせるトツ子は音楽を始めることで自分を表現することに目覚めていきます。特にオリジナル曲を作る場面でくるくる周りながら曲を口ずさむ様子はなんとも明るくのびのびとしていました。幼い頃に習っていたバレエのステップをしながら、学校の庭園で踊っている様子は、自分らしさを表現できる喜びに満ちているようで、こちらまで楽しい気分にさせてくれます。

また、学校内でも憧れの存在で、周囲から期待されているきみは、一緒に暮らす祖母に内緒で学校を退学してしまいます。他人からの評価と本当の自分の姿とのギャップに悩むきみは、本当の自分を表現できるトツ子やルイとの出会いにより成長していきます。

離島で暮らすルイは、母親の病院を継ぐことを期待されている男の子。心優しいルイは、母親の期待を裏切れないと、音楽の道に進みたいという本心を隠しています。
ルイの住む離島で練習をしていた時には、悪天候で島から帰ることができなくなったトツ子ときみのため、自宅から必要な物を持参し、母親に友だちのことを打ち明けることに…。ルイが少しずつ自分のしたいことを伝え始めるきっかけになったシーンで、大人しかった男の子が積極的に行動を起こす姿に、観ている側も思わずルイを応援したくなってしまいます。

そして3人を導くシスター日吉子も重要なキャラクター。トツ子に感情を表現する歌を作ってみるのはどうかと導いてくれる学校のシスターです。トツ子が通う学校の卒業生でもあり、優しくも厳しいシスター日吉子は、学生たちにとって良き相談相手でもあります。子どもたちを導き、羽ばたかせる機会をくれたシスター日吉子のような存在に憧れる人もきっといるはず。

登場するキャラクターたちが放つ色はどれも優しく、言葉では言い表せない安らぎを感じさせてくれます。優しく美しい色合いの世界にいつまでも浸っていたいと思ってしまうほどです。

山田尚子監督ならではの世界感

(C)2024「きみの色」製作委員会

本作は、教会やミッションスクールという設定のため、キリスト教の文化と歴史が根付く長崎がモデル。広い海と空、穏やかな時間が流れる街並みが本作をより温かい作品に仕上げてくれています。

また、キャストにはキャラクターと雰囲気が重なるようにしたいという監督の想いからオーディション開催。1600人の中から抜擢されたトツ子、きみ、ルイのキャストは、まさにキャラクターの雰囲気そのまま。シスター日吉子役の新垣結衣も、芯の強さや優しさ、チャーミングさがぴったりの配役です。

作品全体を通し、山田尚子監督のこだわりが伝わる本作は、監督が表現したいと考えている言葉にできない感情や想いが色や音を通して伝わってきます。
作品を通して、それぞれの色を感じ自分はどんな色なのかを想像してみるのも楽しいですよ。

作品を彩る音楽と臨場感のある演出、知られざるエピソード

(C)2024「きみの色」製作委員会

本作では、3人がそれぞれ制作した楽曲を聴くことができるのも見どころのひとつ。
『反省文』、『あるく』、『水金地火木土天アーメン』はそれぞれの想いが詰まった曲に胸打たれること間違いなしです!

注目はトツ子が制作した『水金地火木土天アーメン』。トツ子がきみやルイと友だちになれた喜びを表現している楽曲で、歌詞には3人の名前が隠されているので、ぜひ探してみて。

また、主題歌は「きみの色」のために書き下ろされたMr.Childrenの『in the pocket』。
作詞作曲を手掛けたボーカルの桜井和寿が、主人公たちには、その繊細さのまましなやかに強く飛び立ってほしいとの想いを込めて作った楽曲です。
「心はずっと不安定でカーテンのように揺れるけど、吹き抜ける風の心地よさを感じて。ただ、今を楽しんでいたい。」という歌詞が悩みながらも成長していく3人を優しく包み込み、自分らしく楽しんで良いんだよと言ってくれているような気がします。

また、3人が学園祭でライブを行う臨場感のある演出にも心を動かされます。その場にいるかのような感覚を楽しめるのが魅力。

音と色で感じる青春ストーリーは高校生はもちろん、大人も楽しめる作品。ぜひ劇場で体感してみてください。

「きみの色」作品情報

(C)2024「きみの色」製作委員会

【作品概要】
作品名:『きみの色』

監督:山田尚子 「映画 聲の形」「リズと青い鳥」「平家物語」

声の出演:鈴川紗由 高石あかり 木戸大聖 やす子 悠木碧 寿美菜子 戸田恵子 新垣結衣
(※高石あかりさんの「高」は正式には「ハシゴの高」)

脚本:吉田玲子 「猫の恩返し」「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」「若おかみは小学生!」

音楽・音楽監督:牛尾憲輔 「映画 聲の形」「チェンソーマン」

主題歌:Mr.Children「in the pocket」(TOY'S FACTORY)

キャラクターデザイン・作画監督:小島崇史

キャラクターデザイン原案:ダイスケリチャード

製作:「きみの色」製作委員会

企画・プロデュース:STORY inc. 「君の名は。」「天気の子」「すずめの戸締まり」

制作・プロデュース:サイエンスSARU 「夜は短し歩けよ乙女」「映像研には手を出すな!」「平家物語」

配給:東宝

公開日
2024年8月30日(金)

公式サイト https://kiminoiro.jp/

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