血だらけのトイレ...30代からはじまっていた「病気のサイン」を見逃したワケ【著者インタビュー】
「体調が悪いけど、時間がもったいなくて病院に行くのはちょっと...」「病院に行くほどではないよね」と考えてしまうことってありますよね。漫画家・くぐりさんもその一人でした。
くぐりさんは、当時37歳。仕事が最優先で、自分の健康は後回しの生活を送っていたそうです。お尻から出血したときも、「痔だ」と思い込み放置してしまったそう。そして症状は、気づかないうちに悪化してしまったのです...。
取材当時、「経過観察」まで回復していたくぐりさんですが、その状態に至るまでには約3年の月日を要しました。そのときの経験を描いたのが、漫画『痔だと思ったら大腸がんステージ4でした〜標準治療を旅と漫画で乗り越えてなんとか経過観察になるまで〜』。
怒涛の日々は、こんな風に幕を開けたといいます。
お尻から血...⁉ 壊滅的な生活の末
突然、お尻に違和感を感じたくぐりさん。
お尻の出血と激しい痛みに耐え、病院に向かったくぐりさんに下されたのは「重度のいぼ痔」という診断でした。そのため、即入院と手術をすることに。
過酷ないぼ痔の治療でしたが、退院後出血はなくなり、くぐりさんは「健康なお尻になった」と喜びました。しかし2年後、再びお尻の出血が...。
2年前の経験から、「お尻の出血は痔」と思い込んでしまったくぐりさん。
当時のくぐりさんは、昼は事務の仕事、夜は家事、休日は似顔絵講師など忙しい毎日で、健康を気にする時間がありませんでした。さらに、漫画家になるという夢があったくぐりさんは、寝る間を惜しんで活動していたのです。
くぐりさんの身体に変化が現れたのは、その頃でした。お尻からの出血にくわえ、微熱が出るようになったのです。
仕事を終えて帰宅後に微熱が出て、子どもの送迎に遅れることもありました。
くぐりさんは、度重なる異変に不安を感じ、健康診断を受けることに。しかし...
「異常なし」という結果に、出血の原因=痔と信じきってしまいました。
ときは過ぎ、2020年2月のこと。くぐりさんが再び病院に向かったきっかけは、母からの電話でした。くぐりさんが実家のトイレを使用したあと、血まみれの便器を発見した母は、慌ててくぐりさんに電話をかけます。
母からの電話で病院へ行くよう懇願されたくぐりさんは、約3年ぶりに肛門科を受診することにしました。しかし「痔にはなっていない」と、担当医からの所見が。
くぐりさんは、担当医の助言で大腸内視鏡検査を受けることにしました。想定外のことで、不安はつのる一方。そしてこの内視鏡検査で、衝撃の事実が判明します。
漫画家・くぐりさんに聞きました
――「大丈夫でしょ」と思いながらも、内視鏡検査前夜は眠れなかったそうですね。
くぐりさん
謎の自信については、怖いことをあまり考えたくなかったんだと思います。そしてもともと不眠症ぎみで、友達と遊ぶ前夜や、旅行前日などは眠れなくなるタイプなのです。
――内視鏡検査のときに「出血は痔によるものだと思いますが」と言っていた医師が、カメラを入れた途端、無言になったそうですね。ご自身もモニターを見て「あ、これだめなやつだ」と思ったと描かれています。そのときの心境を改めて教えてください。
くぐりさん:素人の私が見てもわかるほどグロテスクな腫瘍が直腸を埋め尽くしていたので、不安が一気におしよせてきました。それと、実際にカメラを入れてみないとプロの先生ですらわからないものなんだなと思いました。
――そうだったんですね...。身体に異変を感じてから病院へ行くまで、どのくらいの期間がありましたか。また、どのような異変を感じていたのでしょうか。
くぐりさん:がん発覚の約3年前に下血(肛門からの出血)と肛門の痛みがありました。肛門科でひどいいぼ痔と診断され、手術をしたことがあったんです。手術後、2年たったあたりから再び少量の下血が始まりました。その下血から約1年たって肛門科を再度受診しました。
下血以外の異変は、毎日微熱(37度くらい)が出る、仕事から帰ると異常なほど疲れが出て体が動かない、四十肩のように腕を上げようとすると肩が痛む、顔の血管が黒く浮き出る、下腹部が痛む、お腹がすいていないのにすごく鳴る、などです。それと、夜中漫画を描いていたら風邪でもないのに気管支炎になった時のような、ガサッとした咳が出るようになり不思議に思っていました。
――健康診断は「問題ない」と診断されたそうですね。お尻からの出血のについて、医師に相談されませんでしたか?
くぐりさん:健康診断時にも下血のことを相談したのですが、その時は『痔が再発したんでしょうね』という話で終わりました。体の不調とお尻からの出血は別問題としてお医者さんは考えていたので、私もそう思いこんでいました。
――お母様に「病院へ行きなさい!」と強く言われ、病院へ行くきっかけになったと描かれています。そのときの心境はいかがでしたか?
くぐりさん:「また手術になるかもしれない、手術痛かったし肛門科行きたくないなぁ。市販薬で治せないかな?』と思っていました。痔の手術が痛かったというのは、正確に言うと外痔(肛門の外側の痔)を切り取るよりも、内痔(肛門の内側、直腸にできた痔)にしたジオン注射が涙が出るほど痛かったのです。注射を何度か打たれたのですが、そのたびに生理痛の一番キツイ時のようなものすごい鈍痛が何度も襲ってきて、涙と脂汗でぐちゃぐちゃになりました。
――病気の発覚から治療まで、大変なことが続きましたね。特につらかったのはなんでしょうか?
くぐりさん:毎月の抗がん剤がとにかく辛かったです。副作用をとにかく耐え忍びました。抗がん剤の入院の週に入ると落ち込みが激しかったです。それと、漫画ではちょっとしか描けなかったのですが、抗がん剤の副作用による下痢で、肛門周囲膿瘍(肛門の周囲に膿がたまり腫れ上がる病気)になり、悪化して痔ろう(直腸と肛門周囲の皮膚をつなぐトンネルのような穴ができる痔)になった時が痛かったですね。
がんの主治医に肛門周囲膿瘍かもしれないと訴えても違うと診断され、別の医者にかかっても違うと言われどんどん悪化して、歩くこともできなくなっていきました。たまたま、痔の手術をした肛門科に行く機会があったのでそこで担当医師に相談したら「これは肛門周囲膿瘍が悪化して痔ろうになっている、しかも特殊な形なのでがんの担当医ではわからないだろう」と言われたんです。さらに先生は「肛門科の僕じゃないとわからないよ、でも僕はがんは発見できないけどね」と...。この時は、痛みと不安で本当に辛かったです。専門の先生に診てもらうことが一番大切だけれど、それを患者側が探すのは難しいと感じました。
* * *
日々の忙しさや経験から、病気のサインを見逃してしまったくぐりさん。壮絶な治療を乗り越え、いま伝えたいことを伺いました。
くぐりさん:毎日が忙しく、貴重な休みの日などを病院に使いたくない気持ちになりますが、自分の体と一生付き合っていくためにも、定期的なメンテナンス(健康診断など)は必要なんじゃないかと思います。特にがんは、健康的な生活を送っていてもかかる場合があるので、自分だけで健康を守るには限界があります。お医者様に診てもらうのが一番良いと思います。
くぐりさんの描くやさしい絵柄からは想像できないほど、治療の過程は過酷です。それは、がんを経験した方でないと分からないことばかりです。仕事や家事など何ごとも懸命に頑張って、自分の体を後回しにしがちな方にこそ、ぜひ読んでほしい作品です。