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Z世代に語り継ぎたいロック入門ガイド【ザ・ポリス】ロック史に燦然と輝く最強の3人組

Re:minder

1978年11月02日 ポリスのアルバム「アウトランドス・ダムール」発売日

Z世代に語り継ぎたいロック入門ガイド Vol.7
ポリス

今や化石化した “ニューウェイヴ” という音楽ジャンル。でも実は現代のロックにつながる重要な源流のひとつです。リアルタイム世代にとっては懐かしく、若い世代にとっては3周回ってカッコよく見えてくる…。

そう、平成生まれのニューウェイヴ伝道師として活動中の筆者が、“Z世代に語り継ぎたいロック” を、1970〜80年代のニューウェイヴを中心に、独自&後追いならではの視点からお届けします。めくるめく刺激とツッコミどころ満載なこのジャンルを風化させぬよう語り継ぐ、温故知新型洋楽ガイドをお楽しみください。

音楽界に衝撃をもたらした最強の3人組、ザ・ポリス


今回はロック史に燦然と輝く最強の3人組、ザ・ポリス。40代以下の音楽ファンであれば、あのスティングがいたバンドとして存在を知っている人も多いはず。パンク・ムーブメントに乗ってデビューした1978年から様々な音楽的冒険を経た1983年の解散に至るまで、たった5年の間に残した5枚のアルバムは、いずれも当時の音楽界に衝撃をもたらしたという、全方位隙無しの奇跡のバンドだ。

実際にデビュー時からイギリスのみならずアメリカでも話題を集め、すぐに全米チャートをザワつかせるまでに成長したのだからすごい。MTVの登場により第2次ブリティッシュ・インベイジョン(イギリスの、主にニューウェイヴ・バンドが1980年代前半にこぞってアメリカでブームを巻き起こした現象)が起きる少し前ということを考えても、最初から他のバンドには無い特別な輝きを持つ原石だったろうことは、後追いなりにも想像できるのだ。

ポリスが紡ぎ出すクリアで緻密な音


特別な輝きーー それはポリスの場合いくつかの背景が絡み合って出来上がったものだが、それは特異であると同時に、彼らの持つセンスや技術が、当時のパンク / ニューウェイヴ・シーンにおいてとにかく比類なきレベルで高かったという点はやはり大きい。

元はパンクから派生したニューウェイヴというシーンでは、楽器が上手くないことは大した障害ではなく、むしろ意図してテクニックを拒む風潮さえあったシーンにおいて、ポリスが紡ぎ出すクリアで緻密な音はかなり異色だったはずだ。実際、私もニューウェイヴのDJをしていて、ポリスをかけるときには前後の曲に細心の注意を払う。素人の耳にも分かるほど一音一音のクオリティが当時の他のバンドとは別格であるゆえ、どうしても浮いてしまうという、DJ的には難易度の高いバンドだったりする。

それに加えてトリオ編成というシンプルさ。パンクという複雑さを必要としないサウンドを通過し、さらなる刺激を求めて発展したニューウェイヴ・バンドは、多種多様な音楽性を取り入れるために大所帯であったり、シンセサイザーの台頭によって便利な恩恵にあずかったり、ブラス隊の存在が目立つバンドも多かったり。つまり、カオスな猥雑さがニューウェイヴ・サウンドの特徴なのだが、それに比べてポリスは、活動中期まではシンセを使うこともなく、最低限の人員で最大の成果を出せるだけの効率の良さがずば抜けていた。

エフェクターを駆使したアンディ・サマーズのギタープレイはじめ、3人組であることを忘れさせる音の広がりに絡むスティングの鋭利なハイトーンボイスは、ストレートにリスナーに届く力強さを感じさせてくれる。そういったところが時代を超えて聴き継がれる所以なのだろう。

パンク・ムーブメントに乗って「アウトランドス・ダムール」でデビュー


何より、これに触れずしてポリスは語れないもの… それは、彼らがニューウェイヴの枠を超えてロック界に残した大きな功績だ。その才能を最も印象的に見せつけた凄さというのが、レゲエの取り入れ方の巧妙さだ。人呼んで “ホワイト・レゲエ” と称される彼らの音楽は数多のフォロワーを生んだが、時が経ってもその称号は彼らの専売特許にしたいほどレゲエをロックの感覚に落とし込んだ完成度はすごい。

それを成し得たのはひとえに演奏技術が高かったからという事実と、彼らがもともとパンク / ニューウェイヴ・シーンの外からやってきた異色の経歴だったことが関係している。パンク・ムーブメントに乗ってアルバム『アウトランドス・ダムール』(1978年)でデビューしたポリスだが、実はスティングではなくドラムのスチュアート・コープランドが作ったバンドである。特に活動初期のコープランドはスポークスマンとしてバンドのイメージ戦略からマネージメントまでを一手に担っていた。

プログレバンド出身のアメリカ人であるコープランドはロンドンパンクに触発されたことで新バンドの結成を思い立つが、その人選というのが実に先鋭的であった。メンバーは全員パンク未経験かつ “演奏技術が高い” という、むしろパンクとは逆の個性を備えたメンバーだったのである。ベースは前衛ジャズバンドをやっていたスティング。ギターは紆余曲折の末、老舗バンドに在籍していたアンディ・サマーズに落ち着く。3人の音楽的共通項はプログレくらいなものだったが、コープランドによるこの初期構想の時点で、すでにポリスの勝算は立っていたといえるだろう。

ニューウェイヴの活性化に大きく貢献


そんな巧さとインテリジェンスゆえ、デビュー当初は “エセパンク” と揶揄されたポリスだが、新人にしてすでにパンク / ニューウェイヴ・シーンに感銘を与えていたことがわかる良いエピソードがある。

いくつかのパンクバンドとギグをした帰りのツアーバスで、爆竹と怒号が飛び交う車内で静かに読書をしていたスティングは、周りのバンドから冷ややかな視線を浴びていた。そこに同乗していたザ・クラッシュのベーシスト、ポール・シムノンが “君のようにベースが上手くなりたいのだが、どうしたらいいか” と相談を持ちかけたという。楽器が上手いことなどパンクじゃないというスタンスがまかり通ったシーンで、その象徴でもあるバンドが新人にそんな相談をするなんてーー ポリスの登場はこうした先輩バンドに刺激を与えるほど、当時のパンク / ニューウェイヴの活性化に大きく貢献したという査証でもある。

バンド同士が切磋琢磨し、良いと思ったものを貪欲に吸収していくスタンスが、旧態依然を続けるパンクとは似ているようで異なる、ニューウェイヴのアティチュード。ポリスをニューウェイヴのバンドとはみなさない声も多いが、パンクとは全く違う界隈から登場した “逆説的” ニューウェイヴのポリスは、レゲエ、そして後年にはジャズやプログレなど、あらゆる音楽を完璧にロックサウンドへと同化させることに成功した。5年間という、一瞬の煌めきのように短かったポリスの音楽的冒険は、これ以上に無いほどニューウェイヴの美しい完成形だと思っている。

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