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会社員chikaさん、33歳から北欧フィンランドで寿司職人になった話。31歳から寿司学校へ通う。

スタジオパーソル

「好きなことを仕事にする」考え方が広がる中、「自分のやりたいことがまだ見つかっていない」と悩む方も多いのではないでしょうか。

今回お話を伺ったのは、33歳で会社員からフィンランドの寿司職人へと転身した週末北欧部chikaさん。会社員時代に北欧フィンランドへの想いを綴ったコミックエッセイ『北欧こじらせ日記』は、実写ドラマ化され大きな反響を呼びました。

かなえたい夢に向かって邁進しているように見えるchikaさんですが、会社員時代はやりたいことが見つからず、キャリア迷子になり葛藤していたのだそう。

北欧好きを突き詰めて13年。「これまでの経験すべてが自分らしいキャリアをつくっている」と語るchikaさんに、やりたいことの見つけ方を伺いました。

好きの一心で北欧系企業に入社するも、「やりたいことがない」会社員時代

──会社員からフィンランドの寿司職人となり、今では長年憧れていたフィンランド移住をかなえられたchikaさん。フィンランドが好きになったきっかけはなんだったのでしょうか。

大学3年生の時に初めて旅行で訪れて、フィンランドが持つ「2つの距離感」に惹かれたことがきっかけです。

一つは、自然との距離感です。フィンランドの首都であるヘルシンキは森や湖に囲まれており、都会と自然がシームレスに存在しています。大阪の田舎で育ち、東京や大阪の都会ではたらいていた私にとって、都会と自然をどちらも選べる環境がとても心地良かったんです。

もう一つは、人との距離感。フィンランドには「私はこれが好きで、あなたはそれが好き、それぞれが素敵だよね」と、個人の価値観を尊重する文化を感じました。それまでは「みんなと同じでなきゃ」と考えながら生きてきた私は、みんなが自分らしさを大事にして自立している「尊重と無関心の距離感」に大感銘を受けて。

そこからキャリアをこじらせてしまうほど、フィンランド好きが加速していきました。

──キャリアをこじらせた……?

そうなんです。大学卒業後の進路は観光にまつわる仕事を目指していたのですが、フィンランドから帰国後は「北欧に携われることがしたい!」と方向転換をすることに。「北欧就活」と称して、北欧に関連する企業に片っ端から履歴書を送り、ご縁があった北欧系の音楽事業会社に就職しました。

──行動力がすごいです!北欧系の音楽会社ではどんなことをされていたのでしょうか?

北欧を中心とした国の音楽家を日本に呼んでイベントを開催したり、コンサート会場にイベントを提案したりと、主に営業をしていました。少人数の会社で一人ひとりの裁量権も大きく、「大好きな北欧を日本に紹介できる」という意味では、とてもやりがいがありましたね。

入社して2年目を迎えたころには、社長からイベント企画を任せてもらいました。「どのアーティスト呼んでもいいし、chikaさんの好きなようにしていいよ」と、とても大きなチャンスを与えていただいたんです。

でも、自分でも驚くほどに何もやりたいことが浮かばなくて……。ここで、初めて自分が「北欧系企業ではたらくこと」をゴールにしていたことに気付きました。就職した先に何がしたいのか、「好き」という大枠の中で何をするかまで考えられていなかった。自由度が高い環境の中で、自分が何を目指して走ればいいのかも、どこまで頑張り続けたら良いのかも分からない。定年までずっとこの状態が続いてしまうかもと思うと、まるで終わりの無い暗いトンネルの中にいるような気持ちになってしまいました。

その後、会社の事業が停止することになり、「会社に貢献できなかった」という後悔を抱えながらも、転職活動を始めました。

──次の会社も北欧系の会社を探されたのでしょうか?

次は一転して北欧系にこだわらずに探していました。それまではずっと、やりたいことがないのは恥ずかしい、ダメだと思っていたんです。でも、フィンランドの友人たちが「やりたいことが全然分からないから、いろいろ試しているんだよね」とサラッと話していたのを思い出して。

「やりたいことが見つかっていなくても、ありのままの自分の状態を口にしてもいいんだ!」と価値観が変わり、ある日、人材会社のエージェントさんに「やりたいことがない」と率直に相談してみたんです。そうすると、「うちの会社で3年間本気ではたらけば、自分が本当にやりたいことが見えてくるし、それを選択できる力も身につけられるよ」と話してくださって。「北欧が好きなこと」は分かるけれど、「何をしたいか」が分からない私にとってまさにぴったりな環境かもしれないと、人材紹介会社に契約社員で営業職として入社する決断をしました。

️週末ギャップイヤーで見つけた、31歳でフィンランドの寿司職人になる夢

──実際に入社してから、どのようにしてやりたいことを見つけていったのでしょうか?

入社してからもやりたいことは分からなかったので、上司に正直に相談をしてみたら、「人は自分の知っている範囲内でしか選べないから、いろいろなことをやってみたら?」とアドバイスをしてくださったんです。この言葉にも後押しされて、この3年間は自分の選択肢を広げていく時間にしようと心が決まりました。

『北欧こじらせ日記』(世界文化社)より

そこから少しでも興味があることを紙に書き出し、会社員のかたわら北欧のブログを書いたり、副業としてヴィンテージ雑貨の輸入販売をしたり、お好み焼き屋やカフェの店員になってみたりと、プロのクオリティとは程遠かったとしても、数多く体当たりしていきました。

私はこの時のことを「週末ギャップイヤー」と呼んでいます。

──週末ギャップイヤー?

ヨーロッパには「ギャップイヤー」と呼ばれる、高校卒業や大学進学の前に長期の休学期間を取り、旅行や留学、インターンなどを通して、やりたいことを見つけられる猶予期間があります。いわゆる自分探しができる時間ですね。

ギャップイヤーは主に学生を対象にしたものですが、私は「会社員だから何もできない……」と今の環境を理由に諦めたくなかったんです。スモールステップでもいいから、会社が休みの週末だけでもやりたいことやってみたかった。だから、「週末ギャップイヤー」と名付けて、会社が休みの週末は自分にとことん向き合う時間を過ごすことにしたんです。

『北欧こじらせ日記』(世界文化社)より

──そこで見つけたやりたいことが、フィンランドでの寿司職人だったんですね。

そうですね。最初は、日本で北欧カフェを開きたいと思っていたんです。でも、いざカフェで修行をしてみると、飲食業の大変さを身に染みて感じて。「どうせ苦労をするなら、大好きなフィンランドで暮らしながら挑戦するほうが“苦労対効果”が高いのでは?」と思い、フィンランドの求人やはたらき方を調べ始めました。

フィンランド語は初級、英語は中級。営業のスキルしかなかった私でしたが、日本人であること自体が価値になり、語学力よりもスキルを優先してくれる仕事が、寿司職人だったんです。

カフェ修行を通して、私は相手が喜ぶ姿を見ることが好きだと気付いた上に、「何歳になってもはたらける寿司職人は世界中どこにいても自分らしくはたらける仕事だ」と、日本で会社員としてはたらきながら、週末に寿司職人を養成する学校に入学。31歳の時の決断でした。

──挑戦に年齢は関係ないとはいえ、31歳でフィンランドではたらくことを決意し、寿司学校に入学する決断に、不安はなかったのでしょうか。

とても不安でしたね。私の場合は、特にお金とキャリアに対する不安が強かったので、不安はすべて言語化して一つずつ解消するようにしていました。実は私、自分のことを「夢見がちなリアリスト」と自負していて(笑)。

自分が本当に海外で過ごせるだけの資金力があるのかが不安だったので、フィンランドの職場でクビになってしまったとしても1年間は暮らしていけるように、日本で家賃を抑えるなど節約をしながら貯金をしました。

キャリアに関しては、もし寿司職人がうまくいかなかった場合に、その後がない状態に不安があった。だから、日本にいる時から目の前のことを全力で頑張って、成果を出して、周囲に対して信頼貯金をしていましたね。一緒にはたらいていた人との信頼関係を積み上げることで、「また戻っておいでね」と言ってもらえるし、培ったスキルがあれば転職の際も自信が持てる。今自分ができることを精一杯やって不安要素を取り除いていきました。

夢に挫けそうなときは、自分だけのヒーローを探す

──会社員と寿司学校の両立はいかがでしたか?

両立した1年間は、とても楽しかったです。魚を捌いた経験がなかったところからアジを捌けるようになったり、お寿司が握れるようになったりと、徐々にできることが増えていって。会社員で10年間はたらいていると、なかなか新しいことを習得する機会は減ってくるので、学びを吸収して実践して成長していく感覚が久しぶりで。

「何歳からでも新人になれるし、学び始めることはできる!」と実感しました。

ただ、体力面では過酷でしたね。平日の日中は会社員、夜はシャリを握る練習して、週末は学校の授業。卒業後には、副業としてお寿司屋さんで修行を始めたので当時はかなりハードでした。

私のスキル不足もあり、修行先の大将からは「作業が遅い!下手くそ」と怒られる日々。「こんなに怒られてばかりで大丈夫かな。フィンランドでやっていけるのだろうか」と不安になる日もありましたね。

フィンランドに持参したchikaさんの寿司道具

──くじけそうな時はどのようにして乗り越えていたのでしょうか?

「私だけのヒーロー」を見つけて、自分を奮い立たせていました。自信を持つ方法の一つに代理体験があります。「あの人ができているのなら、私にもできるかもしれない」と思えるようになることですね。

私はこの考え方を大事にしていて、当時は45歳で寿司学校に入学し、50歳で寿司職人としてフィンランドに移住した、とある男性の先輩を目標にしていました。彼に話を聞くと「英語ができないぼくにもできたんだから、chikaさんにも絶対できますよ!」と言ってくださって。

そんな彼の活躍している姿が日々の良い刺激になり、今でも私の原動力になっています。「私なんか……」と落ち込んだときには勇気をもらえる人を探して「私にもできるぞ!」と、良い勘違いをするのがおすすめです。

挫折と寄り道は価値になる。自分らしいキャリアを見つけるためには?

──厳しい修行期間を経て、ついにフィンランドのレストランで寿司部門のシェフとしての就職が決まり、2022年4月より移住されました。これまでを振り返ってみて、ご自身のキャリア感に変化はありますか?

今振り返ると、どんな寄り道も自分らしいキャリア形成のための大事な要素になると感じています。北欧の会社に飛び込んでみなければ、自分が何をやりたいのか分かっていないことにすら意識が向かなかっただろうし、カフェではたらいていなかったら人が喜ぶ姿にやりがいを感じることにも気付けなかったはずですから。

実は私、会社員時代にコロナ禍で急性膵炎になり2カ月間日本で入院したことがあるんです。その入院中に描いたマンガが、初の商業出版につながったので、入院がなければ、今のコミックエッセイ作家としての活動は始まっていなかったかもしれません。

フィンランドで寿司職人になるまでを綴ったchikaさんの著書『北欧こじらせ日記』

さらには、無事にフィンランドでフルタイムの正社員として寿司職人デビューを果たしたものの、はたらき始めたお寿司屋さんが1年目で倒産して……。今は個人事業主の作家・漫画家なんです。想像もしていなかったはたらきかたにシフトしていますが、人生は思いもよらないことの連続。これもきっと私のキャリアの大切な要素になるので、これからのことをあまり決めすぎず、今自分が一番行きたいと思える、ワクワクする道を選ぼうと決めています。

──最後に、自分らしいキャリアについて悩んでいる方にメッセージをお願いします。

キャリアには「山登り型」と「川下り型」の2つの考え方があります。目標を決めて、一直線に向かってゴールを目指しながらキャリアをつくるのが「山登り型」。ゴールを決めずに川の流れに身を任せながら進むようにキャリアをつくるのが「川下り型」。

これは人によってタイプが異なりますし、状況によって柔軟に変えていけばいいのだと思います。週末ギャップイヤーの時の私は、川下りを思いっきり楽しんでいました。そこで経験したことや失敗は決して無駄ではなくて、掛け合わせることによって、自分だけのキャリアが形成されていったと感じています。

一つのことを極めるのも素晴らしいですが、「いろいろな経験を掛け合わせることで新しいものが生まれる」という考え方も持っていると、すべての経験に意味が見出せて、より人生が面白くなっていくのではないでしょうか。きっとやりたいことの解像度も高まっていくはずです。

だから、気になることは今すぐに始めてほしいです。やってみてこそ初めて自分の向き不向きが分かりますし、その過程で新しい選択肢が見つかる可能性だってあるので、ぜひ自分の今を全力で楽しんでください!

(文・写真:朝海弘子 編集:おのまり 画像提供:世界文化社さま 写真提供:Chikaさん)

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