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「どこが痛いの?」に沈黙。中1になっても一人で病院受診が難しい場面緘黙娘のこれからが心配で

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「どこが痛いの?」に沈黙。中1になっても一人で病院受診が難しい場面緘黙娘のこれからが心配で

監修:室伏佑香

東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程

初対面の相手と話せない長女。病院で自分の症状を説明するのが難しくて……

長女がまだ5歳の頃の話です。ある日長女に激しい下痢症状が出ました。これはあとから分かったことなのですが、ロタウイルスに感染していたのです。もともとは3歳下の次女が保育園経由で感染したものですが、次女は軽症だったのに対し、長女は症状が強く出てしまいました。
症状が出たのはちょうど私の実家に滞在している時でした。子どもたちのかかりつけ医が実家近隣にあるわけではなかったので、とりあえず近所の空いている小児科を探して飛び込みました。

診察の際、小児科の先生が長女に「どこが痛いの?」と聞いたのですが、長女は全く答えらずにいました。初対面の相手、特に男性と会話することが難しいタイプの子だなと思っていましたが、当時の私は長女に障害があるとは全く疑っていませんでした。

先生が長女に話しかけても答えられないので、その場では代わりに私が説明しました。診察の結果、症状が重いため、その小児科から大きい病院に移ることになったのですが、先生が転院先に連絡を入れている時に「本人が黙っているのでどこが悪いのか分からない」といった説明をしていたのが聞こえてきて、私は少し悲しくなりました。

でも、「まだ幼いから緊張して話せなかったのだろう」と、私は思っていました。しかし、中学1年生になった現在でもそれは変わらず、長女は他人と会話をすることや病院などで自分自身の症状を説明することが難しいようです。

長女は中学1年生になってから、歯列矯正のために歯茎を切開する手術を受けることになりました。その際の歯科医の先生も男性でした。先生は、麻酔を局所麻酔か全身麻酔のどちらにするか長女本人にたずねましたが、長女はやはりなかなか答えることができず困ってしまい……。
ですので、中学生になった今も病院にかかるときは、私が診察室までつき添って、長女の代わりに受け答えをしたり、症状の説明をしたりしています。

自分の症状が説明ができるように

長女は小学5年生から特別支援学級で授業を受けることにしたのですが、特別支援学級の担当の先生にも「何かあったときのために自分の症状を自分で説明できるようになろう」と言われていました。
これは自分のことを守るために必要なことだと私も思うのです。母親の私がずっとついていることも難しいでしょうから、いつかは自分でできるようになってほしいと願いますが、なかなか難しいことだなと実感しています。

長女は、長年通っている習い事の先生とも会話をすることが難しい状態です。習い事の先生方は長女の特性を分かっていてくださるので大丈夫ですが、これから成長して社会に出ることを思うと私は少し不安になってしまいます。
今、自分が長女にできることを考えながら、少しでも前に進んでいけたらなと考えています。

(監修:室伏先生より)
病院受診にあたってのゆいさんの困り事について共有してくださり、ありがとうございます。ご本人さんも、ご家族も、将来の生活を考えると不安が募ってしまいますよね。

場面緘黙は、自分の意思で話さないのではなく、話す必要があると思っても、話す努力をしても、特定の場面で「話せない」という状態が続くものです。
自宅で家族とは話ができるので、やる気の問題と誤解されてしまったり、人見知りや恥ずかしがり屋など性格の問題とされてしまい、適切なサポートが受けられないこともあります。また、本人が困っていても、表情には現れず周囲が気づきにくいことも多く、理解や助けを得られないことで、さらに不安や無力感、孤立感が募り、自己肯定感の低下にも繋がります。

どうしても話すことが求められてしまう場面も多いのですが、一番大切なのは、「話す」ことではなく、コミュニケーションをとることです。話すことに固執せず、筆談やジェスチャーを用いたりしながらコミュニケーションがとれるような環境に身をおけたら、ご本人も少し楽になりますよね。
例えば、病院を受診する前に症状を簡単に用紙にまとめて、医師に渡す、というのも立派なコミュニケーションです。最初は親子で一緒に書き出してみてもよいと思います。

場面緘黙と診断されている方の中でも、どんな方法・手段に負担を感じるかは人それぞれですので、無理のない範囲でチャレンジを積み重ねてみることで、コミュニケーションを少しずつ楽しめるようになるかもしれません。
少しずつ、安心してコミュニケーションが楽しめる場所が広がっていくといいなと、私も応援しております。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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