ジャズとバーシーンが恵比寿で交差する「Beats & Brews」
テキスト:大石始
2023年11月、恵比寿の「タイムアウトカフェ&ダイナー(Time Out Cafe & Diner)」で東京のジャズシーンとバーカルチャーを紹介するイベント「Tokyo Beats & Brews」がスタートした。
菊地成孔率いるバンド「ラディカルな意志のスタイルズ」でリズム隊を担ったYuki Atori(ベース)と秋元修(ドラムス)の2人がレジデントミュージシャンを務め、DJとして矢部直が出演。さらに、渋谷「ザ ベルウッド(The Bellwood)」の鈴木敦が監修したカクテルも好評を博した。
そして、今回2回目の開催が2024年2月8日(木)に決定。Atoriと秋元の2人に話を聞きながら、東京ならではのナイトカルチャーの形を探る「Tokyo Beats & Brews」の今後を探ってみたい。
ー「Tokyo Beats & Brews」は2人がレジデントミュージシャンとして毎回出演することになっているわけですが、こうしたイベントのアイデアを聞いた時にどう思われましたか。
秋元:僕は今までセッションホストをやってこなかったので新鮮でしたね。しかも、ドラムとベースのデュオというのも新しい感じがしました。Atoriくんと2人だけでやったこともなかったし。
Atori:ドラムとベースだけというのは特殊な編成ですからね。ただ、前回は客層もマニアックな感じじゃなくて、たまたまタイムアウトカフェにお酒を飲みにきたような方もいましたね。
ロバート・グラスパー以降、ジャズ自体の垣根が曖昧になって、どこからがジャズなのか分からなくなってると思うんですよ。ジャズかどうかが問題ではなくて、そこで行われている音楽を聴きにくる、という方が増えているとも感じます。
ー2人が一緒に演奏したのは、ラディカルな意志のスタイルズが初めて?
秋元:大学の頃から知り合いだったので、演奏自体はその前からやってたんですよ。ただ、ジャズの中でもやってるフィールドが微妙に違っていたので、ラディカルな意志のスタイルズで久々に一緒になりました。僕は中央線沿線のジャズクラブとかでやることが多かったんですけど、当時Atoriくんはそこまでジャズっぽいことをやってなかったよね?
Atori:僕はジャズフュージョンとか、プログレっぽいものが多かったんですよ。あとはポップスのサポート。最近になって柏の「ナーディス(Jazz Bar Nardis)」や桜木町の「ドルフィー(Jazz Spot DOLPHY)」みたいなジャズ箱でもやるようになったんですけど、そういう場所でもストレートアヘッドなジャズではなく、変拍子のジャズをやってます。
ープレイヤーとして、お互いの特徴はどんなところにあると思いますか。
秋元:Atoriくんはテクニカルですよね。ある種ギターっぽいというか、バキバキにベースを弾く。
Atori:秋元さんは変拍子おたくですよね。ひたすらリズムのことを考え、それをどう演奏するか突き詰めている。普通のジャズドラマーともちょっと違うんですよ。スリリングでもあるし、ほかにはいないドラマーですね。
ーじゃあ、2人の間で共有している感覚とは何だと思いますか?
Atori:秋元さんが相手だと、不定型で液体みたいな演奏ができるんですよ。こないだのライブでも何をやるか何となくしか決めなかったんです。崩壊しそうになるんだけど、そこを戻したり、そういう駆け引きができる。
秋元:うろ覚えなんですけど、マイルス・デイビスが音楽における自由について話していたことがあって。「音楽のルールを破るためには規則を知らなければいけない」というようなことを話をしていたんです。その意味で言えば、お互いにジャズという枠組みを知っているので、Atoriくんとはいろんな演奏ができるんだと思います。
Atori:ジャズの基礎を知っているからこそ、何をやってもでたらめな音楽にならないということはありますよね。
ー今回の記事は2人の紹介も兼ねているので、ここでそれぞれジャズに関心を持ったきっかけについてお話しいただきましょうか。
秋元:中学の頃は吹奏楽部に入っていて、そこでジャズのビッグバンドをやってたんですよ。姉の影響で最初はヴィジュアル系が好きだったんですけど、吹奏楽部に入ってからは熱帯ジャズ楽団を好きになりました。あとはフュージョンとか。
変拍子が好きになったのは、上原ひろみさんがきっかけでした。みんながやっていないことに興味があって。大学に入ってからはニッチな教授陣に教えてもらったこともあり、さらに変拍子を突き詰めるようになりました。
Atori:僕は6歳上の兄がいるんですけど、兄がビッグバンドの部活に入っていて、カウント・ベイシーとかをよく聴いていたんですよ。僕も兄と同じ学校の同じ部活に入り、ビッグバンドではベイシーとかをやりつつ、だんだんビクター・ウッテンみたいな海外のテクニカル系ベーシストを好きになりました。
大学に入ってからはストレートアヘッドなジャズも聴くようになったんですけど、20歳を超えてからやっぱりエレキベースを極めようと。
―2人ともビッグバンドから始まったのに、今は2人という最少人数でやってるのが面白いですね。
秋元:確かにそうですね(笑)。
ー先ほど「Tokyo Beats & Brews」の話も少し出ましたが、演奏する内容は事前に固めていなかったんですか?
Atori:秋元さんは最初、全部即興演奏でやろうと言ってたんですよ。
秋元:好きなことをやっていいんだろうなと思ってたし、Atoriくんとやって収拾つかなくなることはないんだろうなと思ってたので。
Atori:でも、当日になってから何の曲をやるか決めました。ドラムとベースだけなので、最初は何をどうするかイメージが湧かなかったんです。会場で音を合わせる中でようやく定まってきたというか。秋元さんが相手だったから、形があるようでない演奏になったと思います。
ータイムアウトカフェという場所から影響を受けて演奏が変わった部分もありますか。
秋元:どうなんでしょうね? 客層で変わるわけでもないし、お店の雰囲気に多少影響を受けるところはあると思いますけど。
Atori:僕もあると思います。アングラなところだともうちょい逸脱した演奏になると思うけど、タイムアウトカフェみたいな場所だとそこまではいかない。
ー1回目をやってみて、手応えはありましたか?
秋元:可能性はあると思いました。ベースとドラムだけの編成なので、呼ぼうと思ったらいろんなゲストを呼べる。例えば、ラッパーだとか。
Atori:最初は探り合いながらやった感じでしたけど、続ける中で変わってくると思うし、2人のいいところをうまく反映させていければいいと思ってます。やり続けてバンド化する可能性もあると思うんですよ。
ーそれは面白そうですね。イベントを続けながら拡張したり、変容する可能性もあるわけで、そういったプロセスを見られるのもこのイベントの面白さかもしれませんね。
秋元:確かにそうですね。2人でここまで密にやったことがなかったし、その分、成長の伸びしろがあると思うんですよ。
ー2回目はどんな感じになりそうですか。
秋元:いやー、まったく分からないですね(笑)。
Atori:前回を踏まえて、もう少しレパートリーは広げたいと思ってます。同じものにはならないんじゃないかな。
ーところで、このイベントは「Tokyo Beats & Brews」と題していて、お酒も重要なテーマになっているわけですが、2人は結構呑まれるんですか。
秋元:めちゃくちゃ飲みます(笑)。
Atori:僕は甘いカクテルなら。
ー最後に、2人のお気に入りのお店を紹介いただけますか。
Atori:渋谷パルコ下の「クアトロ ラボ(QUATTRO LABO)」にはライブ前後にみんなで行きましたね。ジャズの雰囲気があるお店で。
秋元:恵比寿だと「バートラム(Bar Tram)」にはよく行きます。アブサン専門店なんですよ。あとは渋谷の百軒店にある「ミッケラー(Mikkeller)」。デンマークのクラフトビール店で、こちらもおすすめです。