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焼鳥の概念が覆る。渾身のおまかせコースに表れるネオ焼鳥の世界観【福岡市渡辺通り】

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焼き鳥ことアイキャッチ

コース1本で焼鳥をじっくり味わえるお店として定評のある薬院の「焼鳥まこ」。ここでオープンから3年間、多くのグルマンを唸らせてきた大山誠さんが独立して新しく「焼き鳥こと」を開きました。料理は「まこ」と同じくおまかせコース1本に絞っての提供ですが、その構成と内容は進化しているとのこと。いずれにしても間違いなくおいしいはずでです。期待を大きく膨らませ、お店に向かいました。

お店は地下鉄天神南駅側、国体道路の南側に入った場所にあります。「雷橋」を越え、左に曲がったところに新しくできたビルの2階ということですが……おっと、これはわかりづらいですね。1階にある2つの店舗の間にある、どう見ても普通のマンションのエントランスが入口でしょうか。看板もなく不安だったのでポストで確認。ビンゴ! 入ってすぐのエレベータで上がりました。

入ると白木が美しいカウンターがお出迎え。和モダンでスタイリッシュな空間です。カウンター席のほか、テーフル4席の個室が1部屋あります。

料理は先にも書いたように、おまかせコース(8800円)のみの提供です。焼鳥としてはやや高めに感じますが、一旦、いわゆる焼鳥屋の概念は横に置きましょう。なにしろ鶏は宮崎の押岡地鶏あるいは黒薩摩地鶏に限定し、その肉も旨味を凝縮するために2週間ほど熟成させるという凝りようなのですから。「ほかのお店の焼鳥とは同じラインではなく別もの、焼鳥の新しいジャンルとして捉えてもらえたらと思います」と大山さんも話します。

コースは、前菜3品、串物9品、これに箸休めの鬼おろしや野菜、レバーパテなどが数品というラインナップです。品数がとても多いのでピックアップして紹介します。

まずは前菜の1品から。海苔醤油の佃煮が乗った大和芋のとろろの下に、鶏ムネ肉の昆布締めが隠れていました。地鶏肉ですがしっとりと柔らかく、昆布の旨味がなじんで味わい深い仕上りです。「優しいお味」と口に出すと、「僕が優しい男ですから」と大山さん。ぼそっと面白いことを言いますね。
前菜は季節感を大切に、随時、内容を変えているそうです。

前菜とワインで空腹感が落ち着いたところで、いよいよ串物へ。串は仕入れにより内容が日々変わるため特に順番は決めてないとのことなので、3串ずつ出してもらいました(※通常は1本ずつ提供)。どうです、見た目からもう只者ではないオーラを発していますね。なにはともあれ、右から順にいただいてみました。

半レアに焼く「ささみ」は、まず「肉の繊維どこいった?」って思うほどふわっふわ。「これまた繊細!」と言うと、「僕が繊細な男ですから」とまたまた大山さん。やっぱり面白い方です。
次にいただいた「ソリレス」はモモ肉の一部で、鶏1羽から2個しかとれない希少ネタ。皮はパリッとして、締まった身からは肉汁がぶわっと滲み出ます。この絶妙な焼き上がりは熟成肉だからこそと言うものの、大山さんの腕前も強く感じる一品です。
そして「砂ズリ」です。ズリ特有の歯応えはありますがとっても柔らかく、また調味は塩のみなのに甘みが豊かで二度驚きます。大山さん曰く「霜降りを使うので柔らかく、脂が甘いんです」。

次の3串へ進みましょう。手羽先はわかりますが、ほかの2本はマニアックなネタに違いありません。こちらも右から順にいただきました。

四角い破片のようなこのネタは「ペタ」といい、モモにある分厚い皮なんだそう。焼鳥の皮って焼いてもふにゃっとした食感が残りますが、熟成によって乾燥させているのでこれまたパリッとした仕上がりに。さらに噛むと皮膜が破れ、プシャ〜と脂が押し寄せるんです。この脂がとてつもないおいしさで、これぞ至福の波。
次の「おたふく」も胸のリンパ腺という珍しいネタです。食感はむっちりとしていて、味は白子のようにクリーミーでコクがあります。タレも上品で、エレガントなワインと合わせたくなります。
そして手羽先。ただでさえ旨味が強い部位なのに、熟成によって皮と身がギュッと締まり旨味がさらに増しています。

ひとえに焼鳥といってもネタで味も食感もぜんぜん違うし、初めてのネタに出会ったときは感動もひとしお。まさに、おまかせコースだからこその醍醐味と言えます。
そしてコースは全15品ほどあり食べ終わったときはお腹がぱんぱんでしたが、シメ用に「鶏白湯ラーメン」(700円)、「そぼろ丼」(600円)、「焼きおむすび」(400円)があると聞いたらスルーはできません。この日は「鶏白湯ラーメン」を注文しました。

ガラ、皮、肉を煮込んだスープは、コラーゲン効果なのか重湯のようにとろっとしていて口当たりまろやか。コク深く、でもあっさりと優しい味わいのラーメンはシメにふさわしく、最後にほっと一息つけました。

大山さんになぜ焼鳥の道を選んだのか聞いたとき、串を手に取って「ほかの料理と違い、この幅で独自の世界が表現できるから」と答えてくれたのがとても印象的でした。わずか15cmほどの範囲に込められた大山さんの思考と情熱。新しい焼鳥の世界観からおいしさのみならず、驚きと感動も味わってみてください。

焼き鳥こと
福岡市中央区渡辺通5-2-10 WATANABEDORI PLACE 2F
092-715-8628

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