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コーヒーの「モカポット」は家族に大切に扱われ、時間とともに育てられていくもの──うさぎのモカのルーツを探る

NHK出版デジタルマガジン

コーヒーの「モカポット」は家族に大切に扱われ、時間とともに育てられていくもの──うさぎのモカのルーツを探る

 今年デビューから10年を迎えた刀根里衣さん。その節目に刊行された『モカとまほうのコーヒー』はモカシリーズの最新作で、2016年刊の『モカと幸せのコーヒー』(現在8刷)の続編としてお楽しみいただけます。本記事では絵本の主人公であるうさぎのモカのルーツを探ります。

うさぎのモカとは?

 今年日本でのデビューから10年を迎えた刀根里衣さんは、代表作『ぴっぽのたび』で知られる絵本作家さんです。その節目に刊行された『モカとまほうのコーヒー』はモカシリーズの最新作で、2016年刊の『モカと幸せのコーヒー』(現在8刷)の続編としてお楽しみいただけます。
 主人公であるうさぎモカが、日常に疲れた青年を思いやりたっぷりのコーヒーで励ます『モカと幸せのコーヒー』のクライマックスには、予想もしない展開が待っていました。それから数年後が経過──という設定で、モカがふたたび姿を現し、エスプレッソやカフェラテ、カプチーノなど、さまざまなコーヒーで元気をなくした彼を励まします。

2016年刊『モカと幸せのコーヒー』(左)と新作『モカとまほうのコーヒー』(右)

 さて、この「モカ」という名前、じつはコーヒーマシーン、通称「モカポット」からきています。日本では深く浸透はしていませんが、コーヒー文化が盛んなイタリアの家庭には必ずといっていいほどあるそうです。
 今回、新作『モカとまほうのコーヒー』にちなんで、日本でモカポットを販売しているビアレッティ・ジャパンの宮地貴章さんに、本場イタリアのカフェ文化にについてお話をお聞きしました。

本場イタリアのカフェ文化

シルバーのボディが美しいビアレッティの「モカエキスプレス」

イタリアでは一般的に「モカ」といえばこのモカポットのことを指すと聞きました。
──そうですね、モカといえばほとんどのイタリア人が、このコーヒーマシーンを思い浮かべると思います。モカというネーミングは、コーヒーの主要産地として知られるイエメンの都市、モカ (Mokha) から来ています。

イタリアでは、どれくらいの頻度でコーヒーを飲むのですか?
──イタリアの家庭でコーヒーを飲まない日はないといってもよいのではないでしょうか。モカポットを使って、朝・昼・晩とコーヒーを淹れ、昼時や仕事終わりなどにバールで飲む人が多いです。圧量の違いからバールなどでエスプレッソマシーンを使ったものを「エスプレッソ」と呼び、モカポットで作るものは厳密にはエスプレッソとは言わないのですが、イタリアではどちらも好んで飲まれます。

モカポットはどこの家庭にもあるそうですね?
──はい。必ずといっていいほどあると思います。ポットはこのようにして上部と下部を分けて、水を入れたあとに、ここにコーヒーパウダーを入れます。パウダーを擦切りにするか、あるいはふんわり盛るか、さらには水の量にも各家庭でこだわりがあるようです。ポットは家族に大切に扱われ、時間とともに育てられていくのです。

コーヒーを淹れる宮地さん

家でもバールでも楽しむのなのですね。日本とイタリア、カフェ文化に違いはありますか?
──日本の場合、コーヒーは癒しのアイテムで、カフェでリラックスしながら、あるいは読書をしながら飲むものという印象があります。カフェにパソコンを持参して仕事や勉強をしながら飲む人も見かけますね。一方、イタリアのバールでは、さくっと飲んで帰るスタイルが主流なので、わたしたち日本人のようにゆったりコーヒーを飲みながら過ごすという人は少ないように思います。

イタリア人はいつごろからコーヒーを飲み始めるのでしょうか?
──正確には分かりませんが、イタリアの高校で日本語を教えていたときに、食堂にコーヒーマシーンはありましたから、高校生は飲みますね。エスプレッソは濃いので、大量の砂糖を入れて、じゃりじゃりさせた状態で飲む人も多いです。わたしがはじめてエスプレッソを飲んだときも苦かかったため、砂糖をたくさん入れて飲みました。

日本でいうドリップコーヒーはイタリアで飲まれているのでしょうか? カプチーノ、カフェラテなどはありますか?
──イタリアに2年ほど住んでいましたが、ドリップコーヒーは見たことがありません。バールで飲むコーヒーといえばエスプレッソで、アイスコーヒーも存在しないはずです。カプチーノはありますが、どういうわけか朝に飲むものと決まっているようです。午後の時間帯にバールで注文したら、店員さんに注意されたことがあります。「好きなときに、好きなものを飲ませてくれないのか!」と驚きました(笑)。

イタリアではどの家庭にもあるモカポット

絵本の見返し(表紙をめくったページ)には、イタリアで飲まれているコーヒーがたくさん登場します。
──楽しいページですね。先ほども申し上げたように、イタリアでは朝・昼・晩とコーヒーを飲む習慣があり、「イタリア人にとってコーヒーを飲むのは、一種の儀式みたいなものだ」と同僚のイタリア人から聞いて納得しました。まだまだ日本ではモカポットを使ってコーヒーを楽しむ習慣がありませんが、モカポットで淹れるコーヒーは格別です。ビアレッティのポットも多くの人にこの絵本のキャラクターのように愛される、癒しの存在になってくれるといいのですが!

『モカとまほうのコーヒー』の表紙をめくったあとの見返し部分にはたくさんのコーヒーが
『モカとまほうのコーヒー』の表紙をめくったあとの見返し部分にはたくさんのコーヒーが

Bialetti Japan株式会社

1919年イタリア創業のコーヒー・調理器具メーカー。「モカエキスプレス」を代表とするビアレッティのコーヒーメーカーは、その歴史、伝統に裏打ちされたクオリティがあり、世界中の人々に愛されている。ビアレッティのロゴとなっている髭おじさんが描かれた「モカエキスプレス」は、イタリア家庭ではかかせない調理器具として親しまれている。
www.bialetti.com

主人公のモカ

ボローニャ国際絵本原画展入選作品「まほうつかいうさぎと100のコーヒー」のなかで描かれた小さなうさぎ。じつは、マシュマロでできている。バルでバリスタ(コーヒーのスペシャリスト)としてはたらくモカは、愛情たっぷりのコーヒーでみんなをハッピーにすることが生きがい。マローネという茶色いうさぎのガールフレンドがいる。

著者

刀根里衣(とね・さとえ)
1984年、福井県生まれ。絵本作家。2011年、イタリアの出版社から“Questo posso farlo”(『なんにもできなかったとり』)でデビュー後、ミラノで生活を開始する。約12年のイタリア在住を経て、現在は日本とイタリアの二拠点で創作活動を行う。2012年から2年連続で、ボローニャ国際絵本原画展に入選をはたし、2013年には、同原画展において入選者のなかから選ばれる「国際イラストレーション賞」を受賞。受賞作を絵本化した“El viaje de PIPO”(『ぴっぽのたび』)は、幻想的で繊細な筆致が高く評価され、12か国以上で読まれている。

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