六本木ヒルズの巨大な蜘蛛の作者の個展【ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ】
開業20年超の複合施設〈六本木ヒルズ〉を東京の文化の中心地にしようという強い意志から生まれた〝文化都心〟という言葉に相応しいモニュメント、高さ10メートル超の巨大な蜘蛛を、一度でも訪れた多くの人々は忘れることがないだろう。66プラザに聳える「ママン」と名付けられたその目を見張る彫刻こそ、ルイーズ・ブルジョワの作品である。
六本木ヒルズ森タワー53階の森美術館において、日本では27年ぶり、また国内最大規模の個展「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」が開催される(2024年9月25日(水)~2025年1月19日(日)。
ブルジョワは、20世紀を代表する最も重要なアーティストの一人であり、彼女の70年にわたるキャリアは、インスタレーション、彫刻、ドローイング、絵画などさまざまなメディアを通じて、男性と女性、受動と能動、具象と抽象、意識と無意識といった二項対立に潜む緊張関係を探求してきた。そして対極にあるこれらの概念を比類なき造形力によって作品の中に共存させたのである。
本展では、約100点に及ぶ作品群を、第1章 「私を見捨てないで」、第2章 「地獄から帰ってきたところ」、第3章 「青空の修復」と3章で構成、紹介し、ブルジョワの活動の全貌に迫っている。
ルイーズ・ブルジョワは1911年パリに生まれ、2010年ニューヨークで98歳の生涯を閉じたが、他界するまで制作を続け晩年にはキャリアの代表作ともいえる作品を多く発表している。布を用いた作品など、本展出品作品の約半数が1998年以降に制作された日本初公開の作品である。第1章「私を見捨てないで」では母親との関係、第2章 「地獄から帰ってきたところ」では父親との確執、そして第3章「青空の修復」では家族の関係性の修復と心の解放が主なテーマとなっている。
本展の副題になっている、「地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」という刺激的な言葉には、ブルジョワの感情のゆらぎや両義性を暗示しつつ、ブラック・ユーモア的な感性も発信している。
▲(左)ルイーズ・ブルジョワ《かまえる蜘蛛》2003年 撮影:Ron Amstutz
© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR Tokyo and VAGA at Artists Rights Society (ARS) New York (右)ルイーズ・ブルジョワ
《無題(地獄から帰ってきたところ)》1996年 撮影:Christopher Burke © The Easton Foundation/Licensed by JASPAR Tokyo and VAGA at Artists Rights Society (ARS) New York
「自らを逆境を生き抜いた〝サバイバー〟だと考えてきたブルジョワの生きることへの強い意志を表現する本展の作品群は、戦争や自然災害、病気など人類が直面する、時に〝地獄〟のような苦しみを克服するヒントを与えてくれることでしょう」とは主催者が発表している言葉である。
▲自身の版画作品《聖セバスティアヌス》(1992年)の前に立つルイーズ・ブルジョワ。ブルックリンのスタジオにて。1993年 撮影:Philipp Hugues Bonan 画像提供:イーストン財団(ニューヨーク)
ルイーズ・ブルジョワ 略歴
1911年パリでタペストリー専門の商業画廊と修復アトリエを経営する両親の次女として生まれる。父親の支配的な態度、病気に苦しむ母親を長きにわたり介護していたことが、幼いブルジョワに罪悪感や裏切りの感情、見捨てられることへの恐怖心を植え付けた。1932年、二十歳のときに母親が死去。同年に、ソルボンヌ大学数学科に入学するも、母を亡くした悲しみからアーティストとしてのキャリアを志望するようになる。その後、ソルボンヌ大学、パリ国立高等美術学校、エコール・デュ・ルーブル、アカデミー・ドゥ・ラ・グランド・ショミエールでアートを学ぶ傍ら、フェルナン・レジェを始めとするアーティストのスタジオに通う。1938年、アメリカ人美術史家のロバートゴールドウォーターとの結婚を機にニューヨークに移住し、I940年代半ばから作品を発表。1957年にアメリカの市民権を取得。1982年には女性彫刻家としては初となるニューヨーク近代美術館での大規模個展が開催された。I989年フランクフルト芸術協会(ドイツ)にてヨーロッパでの初個展を開催し、1993年にベネチア・ビエンナーレのアメリカ館の代表となる。以降、ポンピドゥー・センター(パリ、1995年)、横浜美術館(1997年)、テートモダン(ロンドン、2000年)などで重要な個展を開催。2010年に他界。
没後もバイエラー財団(スイス、バーゼル、2011年)、フロイト博物館(ロンドン、2012年)、ストックホルム近代美術館(2015年)、ハウス・デア・クンスト(ドイツ、ミュンヘン、2015年)、ニューヨーク近代美術館(2017年)、龍美術館(中国、上海、2018年)、ヘイワード・ギャラリー(ロンドン、2022年)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク、2022年)、ベルヴェデーレ美術館(ウィーン、2023-2024年)、ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館(シドニー、2023-2024年)など、世界の主要美術館で個展が開催されている。
ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ
会期:2024年9月25日(水)~2025年1月19日(日)
会場:森美術館(東京都港区六本木6- 10-1六本木ヒルズ森タワー53階)
開催時間:10:00-22:00(火曜日のみ17:00まで)
*入館は閉館時間の30分前まで *会期中無休 *ただし、12/24(火)、12/31 (火)は22:00まで