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ロッド・スチュワートは過去の人じゃない!芸歴55年をしっかり現代にアップデート

Re:minder

1981年11月06日 ロッド・スチュワートのアルバム「トゥナイト・アイム・ユアーズ」発売日

連載【リ・リ・リリッスン・エイティーズ〜80年代を聴き返す〜】vol.51
トゥナイト・アイム・ユアーズ / ロッド・スチュワート

ロッド・スチュワートは過去の人?


ロッド・スチュワートが日本にやってきます。3月20日、東京・有明アリーナでの1回きりですが、約2週間で7カ国を巡るアジアツアーのこれが最終日。1945年1月10日生まれの79歳にとっては、かなりハードなスケジュールではないでしょうか。お元気で何よりです。

60年代半ばにはシンガーとして頭角を現し、67年から “ジェフ・ベック・グループ”、69年からは “フェイセズ” のボーカリストとして活躍する一方、並行して69年からソロ歌手としても活動し、いずれにおいても話題作にしてヒット作を次々と送り出しました。ロックミュージックがいちばん勢いがあった時代に、中でもそのスペシャルな声質と卓越した歌唱力で、ロッドは唯一無二の存在でした。

だけど、やはりもう過去の人というのが大方の認識じゃないでしょうか。私も「マギー・メイ」(Maggie May / 1971)や6枚目のアルバム『アトランティック・クロッシング』(Atlantic Crossing / 1975)は大好きで聴きまくっていましたが、メガヒット・ディスコチューンの「アイム・セクシー」(Da Ya Think I'm Sexy? / 1978)以降は、“売れ線” に走った気がして興味が薄れ、2000年代になって、昔のポピュラーソングをいろいろカバーした『グレイト・アメリカン・ソングブック』(The Great American Songbook)シリーズが、やたらと売れているらしいことを耳にしながらも、やり尽くしたシンガーのありがちな展開などと思うだけで、聴こうともしませんでした。

だから、13年ぶりの来日というニュースを聞いても、「往年のビッグアーティストを手厚くもてなしてくれる日本への “出稼ぎ ”ライブだろう。ヒット曲を並べればシルバー世代は大喜びだよね。これもまたありがち…」なんて冷めた感想しか出てきませんでした。だけど一応、最近はどんな感じなのかなと思い、ググってみると、なんと、2010年代に入っても、約3年ごとにアルバムをリリースしていて、しかも少なくとも英国では必ずヒットチャートの上位にランクしているではないですか。

直近の今年2月23日にも、『スウィング・フィーヴァー』(Swing Fever)というアルバムを発表していて(今回はこれのプロモ―ショナルツアーなんですね、きっと)、タイトル通り、スウィングジャズの名曲カバー作なんですが、ジュールズ・ホーランド(Jools Holland)という、昔、“スクイーズ”(Squeeze)という英国のニューウェイブバンドにいたキーボード奏者とのコラボで、これもなかなかいい。

ただ、驚いたのは、2021年にリリースされたオリジナルアルバム『ヘラクレスの涙』(The Tears of Hercules)。すごくよいのです。50年以上も歌い続けてきただけに、その声はさらにさらにハスキー度を増し、もう少しでホワイトノイズの域に達してしまいそうですが、それでも “芯” はしっかりしていて、ここぞという時には見事に力強く歌い上げる余力を保ちながら、それ以外ではサラサラと耳に心地よく響きます。

ただまあ、それは “進化” ではないですね。加齢による劣化にうまく対応しているというか、さすがに若い頃よりもいいとまでは言えません。ところがそれを支えるサウンドがすばらしい。表向きは生楽器主体で、ロッドの出自である “R&Bロック” の懐かしさと人の温もりがありながら、まったく古くささを感じさせないのは、目立たないところで、プログラミングされたシンセ音を適切に配置しているからでしょう。

全体的には軽やかで小気味よく、たぶん今の若者の感覚にもしっくりくるサウンドだと思います。かなりの職人的制作力(アレンジ、音響ともに)を要すると思うんですが、誰の功績なんでしょうか? プロデュースはロッド本人とケヴィン・サヴィガー(Kevin Savigar)の連名です。おそらく、ロッド自身はそんなに細かいところまで手を下してはいないでしょう。もしそうなら自分一人をプロデュース・クレジットすると思います。ということは…

キーマンはケヴィン・サヴィガー


ケヴィン・サヴィガーはイングランド人のキーボード奏者で、この『ヘラクレスの涙』では全曲でキーボードはもちろん、プログラミングも担当しています。そればかりか、レコーディング&ミキシングのエンジニアとしてもクレジットされています。また12曲中8曲を、ロッドとともに作曲しています。間違いないですね。芸歴55年におよぶロッド・スチュワートを現代にしっかりとアップデイトさせたのは、このケヴィン・サヴィガーでしょう。

実は彼、ロッドの2013年、28枚目のアルバム『タイム』(Time)から『アナザー・カントリー』(Another Country / 2015)、『ブラッド・レッド・ローゼズ』(Blood Red Roses / 2018)、そしてこの『ヘラクレスの涙』まで、すべて同様に、プロデュース、キーボード、プログラミング、エンジニアリングを全面的に担っています。

そして、なんと、彼が最初にロッドに関わったのは、『パンドラの匣』(Foolish Behaviour)、1980年の10枚目のアルバムなんです。その頃のロッドはレコードもライブも、カーマイン・アピス(Carmine Appice / drums)、フィル・チェン(Phil Chen / bass)、ジム・クリーガン(Jim Cregan / guitar)らからなるバックバンド、“ロット・スチュワート・グループ” (Rod Stewart Group)と活動をともにしていましたが、ケヴィンはそこに加わるかたちでキーボードを担当し、ソングライティングにも参加しました。

『パンドラの匣』の前作が『スーパースターはブロンドがお好き』(Blondes Have More Fun / 1978)という例の「アイム・セクシー」を含むアルバムで、『アトランティック・クロッシング』からここまでの4アルバムはすべてトム・ダウド(Tom Dowd)がプロデュースしています。『スーパースターはブロンドがお好き』も全体的には、“いつもの” ロッドらしいR&Bロックの世界が展開されていて、「アイム・セクシー」は遊びでちょっとやってみただけなのかなという気もするのですが、折からのディスコ旋風を真っ向から受けて、あまりにも目立ってしまいましたね。売れに売れたけどその分、批判・酷評も山盛り。日本でも、“スーパースターはブロンドがお好き” という邦題も手伝って、急に下世話なイメージがついてしまいました。

そのことにトム・ダウドの責任があるのかどうかは分かりませんが、これでロッドは一旦トムと袂を分かち、『パンドラの匣』は “Rod Stewart Group” とともに自らプロデュースを担いました。78年にグループに加入したケヴィンの才能への信頼も、その決断の背中を押したのではないかと推測します。

ただ、『パンドラの匣』では、ディスコ色を消して、従来のR&Bロック路線に戻ったものの、これといった新規性を出せませんでした。しかし、次作の『トゥナイト・アイム・ユアーズ』(Tonight I'm Yours)では、タイトル曲「トゥナイト・アイム・ユアーズ」(Tonight I'm Yours (Don't Hurt Me))および「燃えろ青春」(Young Turks)という、ニューウェイブ風の軽快なビートにキャッチーなメロディを載せた、それまでのロッドにはないタイプの2曲が生まれます。ケヴィンは共作者の一人ですが、おそらく彼の貢献度は高いと睨んでいます。いずれもシングルカットし、ヒットして、ロッド・スチュワートを時代にアップデートさせ、“名誉挽回” を果たしました。

その後もケヴィン・サヴィガーは、90年代末までのロッドのすべてのアルバムに参加し、98年の18枚目のアルバム『ザ・ニュー・ボーイズ』(When We Were the New Boys)では、初めてロッドとともにプロデューサーとしてクレジットされます。

ロッド・スチュワートは今も現在進行系


2000年代は、クライヴ・デイヴィス(Clive Davis)の「J Records」に移籍して、クライヴ自らのプロデュースによる『ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』(The Great American Songbook)シリーズの世界に入ってしまいますので、ケヴィンの出る幕はありませんでしたが、2010年代に入ると、前述のように、再びロッドの下に馳せ参じ、しかもさらにエンジニアとしての能力まで身につけて、ロッドにとってはもう欠かせない片腕として、彼の音楽を現在進行系で進化させているのです。

その名を知る人は多くないと思いますが、ケヴィン・サヴィガーは、たとえば作曲などに発揮されるクリエイティヴな能力と、アレンジやエンジニアリングに発揮される職人的マインドを兼ね備え、しかも現在67歳にしてなお向上心を失わない、素晴らしい音楽家だと思います。ロッド・スチュワートの2010年代の作品群をぜひ、聴いてください。

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