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【やまとさんの湯湯自適の記】#6 辰尾鉱泉(富山市熊野地区)連載とやまのおふろ

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【やまとさんの湯湯自適の記】#6 辰尾鉱泉(富山市熊野地区)連載とやまのおふろ

この連載は、富山県公衆浴場業生活衛生同業組合が行ったスタンプラリーで全45軒を制覇し、「富山銭湯マイスター」の称号を手にした会社員「やまとさん」が、日々の銭湯めぐりや強く惹かれた入浴体験をつづる不定期連載のコラムです。

#6 辰尾鉱泉

前回に続き、この日も私はサッカーJ3・カターレ富山のホームゲームを「県総」で観ていた。あわや敗戦というゲーム展開の中、後半アディショナルタイムのラストチャンスで生まれた起死回生の同点ゴールにJ2昇格への光、プレーオフでの希望を見た人もいるのではないか。

それにしても、キックオフまでは陽が射してあたたかかったものの、暦の上ではもう冬。試合が進むにつれて風は冷たくなり、熱狂のうちに迎えたタイムアップも束の間、身体はすっかり冷えてこわばっていた。

 

こんなときは何よりもまず風呂につかる必要がある。

 

スタンドを足早に駆け下りて駐車場へと向かう中、頭の中はもう銭湯のことでいっぱいだ。私の銭湯ナビは、最寄りの「辰尾鉱泉」をセットした。

 

ーーー

 

試合後の渋滞を回避し、県総から国道41号へ。ますのすしミュージアムから間もなく、熊野川を渡ってすぐの安養寺交差点を右折して田園地帯を走ると、市営団地が並ぶ中に少し突き出た煙突が見えてくる。そう、そこが今回の目的地、辰尾鉱泉だ。

 

ここは、栄えある富山銭湯マイスターの称号を手にした「富山銭湯スタンプラリー」でもひときわ思い出深かった銭湯のひとつである。というのも、道路から銭湯の入り口までの敷地部分に縦列駐車ができる数台分のスペースがあるのだが、ここが埋まっていると「あれ、満車か…!」と早合点してしまうのだ。当時、初めての来訪だった私は、実際に2回も勝手に惑わされ、諦めて帰ったことがある。しかし、実はその縦列駐車の奥、隣の住家の死角になったところに10台ほど停められる駐車場がある。これから初めて辰尾鉱泉に行こうという人は勇気を持って進入してみてほしい。

ちなみに、久々の訪問となったこの日、敷地の入り口には奥の駐車場の存在を示す真新しい看板が設置されていた。なるほど…やっぱりみんな、そうだったんだね。おのずと察するものがあった。

 

ーーー

 

番台を通って脱衣場に入ると、ウインドブレーカー、レプリカのユニフォーム、防寒の肌着など、重ね着していたものを一気に脱ぎ捨てる。いざ入場。まず目に入るのは、浴場の奥一面のガラス窓の向こう、植栽越しに広がるブルーグレーの空と田園の黄土色だ。以前訪れた時は夜だったため気がつかなかったが、コンパクトでシンプルな浴場の造りにちょっとした開放感が相まって、なかなかいい。快晴の天気なら、なお気持ちよいことだろう。

 

さて、なにせ身体が冷えている。いそいそと髪、身体を洗って、さっそく風呂に浸かる。浴槽は白湯と薬湯のふたつ。まずは、白湯からだ。

湯の温度はやや熱めながら、ちくちくしないやさしい肌触り。スタジアムで冷たい風にさらされた身体がじっくりと、だが確実に、あたたまってゆく。

同じ浴槽内にはジェットバスのスペースもあるが、ふと側壁に目をやると解説版があった。経年劣化で半分ほど消えてしまっているが、「浦の湯」と同じ「超音波温泉」の解説だ。その発明で銭湯業界をザワつかせたという、毎度おなじみ芝浦工大の橋本富寿博士。銭湯好きなら間違いなく覚えておきたい人物である。


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半身浴から、やがて肩まで浸かり、ガラス窓を背後に浴場全体を見回してみると…ハッと気がついた。

 

「サウナ室がある…!」

 

前に訪れた時は見過ごしてしまっていたのだろうか。だが、それも仕方ないと思えてしまうくらい、妙に控えめな存在感だ。実はもう稼働していなくて、周囲の先輩方の失笑を買うのでは…!? 一抹の不安を感じつつ、そっとドアを開けてみる。

 

開いた。

と同時に、まもなく肌に感じられた熱気にホッとした。

 

室内は、銭湯サウナではおなじみのカルストーンサウナ。軽石のような質感の壁に覆われているタイプで、温度計は48℃を示していた。サウナとしてはやや低めだ。まれにこれくらいの温度でも体感としてはもっと熱く感じる施設もあるが、ここはその数字通り、かなりやさしい体感だ。焦らず、じっくり、熱気と向き合うとしよう。

サウナ室の奥のガラス窓からは、脱衣場、そして番台のおねえさんの存在が確認できた。この温度ならサウナ室の中で不測の事態が起きることは少なそうだが、配慮が効いた造りは安心材料ではある。

壁が近く、コンパクトな室内は3人掛け。新幹線の3席シートをイメージしてもらうとちょうどいいかもしれない。入室・退室の際は譲り合いの心が必要になるが、砂時計を2周させる間、タイミングに恵まれたのか、ひとりきりでサウナを堪能させてもらった。

 

ここ辰尾鉱泉は、やはり水風呂がない。外気浴スペースもなく、背もたれつきのチェアがあるわけでもない。静かに冷水シャワーを浴びたあとは、再び洗い場に腰をかけ、己と向き合う。

クラシカルでストロング。銭湯サウナスタイル、ここに極まれり、だ。


ーーー

 

仕上げは、薬湯へ。緑色に染まった薬湯は、爽やかな香りを放っていた。

カターレ富山がこの日引き分けたのは、FC岐阜。そして、次週の対戦はヴァンラーレ八戸。奇しくもチームカラーは、どちらも緑だ。しかし…悔しいかな、やわらかい香りと湯加減にすっかり心は奪われそうになっている。

天気予報によると、八戸とのホームゲームは雨模様。試合後はまた、この湯のお世話になるのだろうか。いや、願わくば寒気を吹き飛ばすような熱いゲーム、駅前に飲みに繰り出さざるを得ないようなエキサイティングなゲームを期待してやまない。

 

「緑の薬湯の誘惑には負けないから…」

 

無理矢理なゲンを担いで、浴場から上がることにした。

【辰尾鉱泉】
住所 富山県富山市辰尾新町387
営業時間 13:00~21:00
定休日 金曜

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