200万キロのその先へ ― 「深宇宙展~人類はどこへ向かうのか」(レポート)
人類はいま、宇宙開発の新たな段階へ。ロケットや人工衛星、月・火星探査から深宇宙観測まで、私たちの活動領域は劇的な広がりをみせています。
科学技術の進化とともに変化する“宇宙との関係”を、多角的に体感できる展覧会が、日本科学未来館で開催中です。
日本科学未来館 特別展「深宇宙展~人類はどこへ向かうのか」To the Moon and Beyond 会場入口
展覧会の第1章「宇宙開発の最前線」では、ロケットや人工衛星の進化、民間企業の参入など、宇宙開発の現在を紹介。会場には、日本の次世代大型基幹ロケット「H3ロケット」の先端部(フェアリング)の実物大模型が展示されています。
H3ロケットは約10年かけて開発された大型ロケットで、JAXA種子島宇宙センターから宇宙へ。フェアリングは軽量で強く、打ち上げ後は海に沈む構造で安全にも配慮されています。
「H3 ロケット フェアリング」実物大模型
続いて目をひくのは、日本の民間人として初めて国際宇宙ステーションに滞在した前澤友作さんが搭乗した、ソユーズ宇宙船(帰還モジュール)の実機展示。外壁には大気圏再突入の痕跡が残り、過酷な宇宙環境を物語ります。
この宇宙船は、宇宙が専門家だけでなく民間人にも開かれつつあることを象徴しています。限られた空間に必要な設備が凝縮され、高い信頼性と安全性を備えています。
「ソユーズ宇宙船 帰還モジュール」実機
第2章「月に広がる人類の活動域」では、国際協力による有人月面探査「アルテミス計画」と、日本独自の技術やビジョンを紹介。月が新たな人類の活動拠点として注目されていることを伝えます。
日本は月周回有人拠点「ゲートウェイ」や、新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」の開発に参加。宇宙服を着ずに、車内で生活・探査ができる「有人与圧ローバー」の実物大模型は、次世代月面探査の象徴的な存在です。
有人月面探査車「有人与圧ローバー」実物大模型
「SLIM」は、日本が開発した小型月着陸実証機で、2024年1月に誤差100m以内のピンポイント着陸に成功。エンジントラブルを乗り越えた成果は、今後の探査機が重要地点へ着陸する技術の確立につながる大きな一歩となりました。
搭載された観測機器によって、月面の鉱物組成の分析も実施されました。
SLIM(小型月着陸実証機)(1/2模型)
第3章「火星圏探査」では、火星探査の現状と未来構想に注目。各国のミッションに加え、日本が進める世界初の探査計画を通して、火星への関心とその可能性を掘り下げます。
会場では、大画面と床面に映像が広がる没入型の「火星ツアー」を体験可能。探査機の最新データを基に構成された映像により、まるで火星に降り立ったかのような臨場感が味わえます。
大画面で体感する展示映像「火星ツアー」
日本の火星衛星探査計画「MMX」は、火星の衛星フォボスからサンプルを採取し、2031年度に地球へ持ち帰る、成功すれば世界初となる試みです。
探査機は3つのモジュールで構成され、国際協力による観測と試料採取を実施。高精細カメラも搭載し、フォボスの詳細な地表映像も期待されています。
MMX(火星衛星探査計画)探査機(1/2模型)
第4章「さらなる深宇宙へ」では、太陽系内の天体から銀河の彼方まで、広がり続ける宇宙探査の最前線を紹介。観測技術の進化が、未知の領域への関心をさらに押し広げています。
2003年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」は、小惑星イトカワから世界で初めてサンプルリターンを実現。その成果は後継機「はやぶさ2」へと継承され、さらなる探査へとつながっています。
はやぶさ(小惑星探査機)(1/5模型)
電波で“見えない宇宙”をとらえるアルマ望遠鏡は、日本を含む22の国と地域が共同で運用する電波望遠鏡。66台のパラボラアンテナが連携して、仮想的な巨大望遠鏡として高精度な観測を実現しています。
可視光では見えない宇宙の姿を解明する最前線として、今後の活躍にも期待が寄せられています。
アルマ望遠鏡7mアンテナ(1/20模型)
人類の視線は、地球を飛び出して太陽系、さらにはその先の宇宙へと向かい始めています。
ちなみに、展覧会でいう「深宇宙」とは、地球から200万キロメートル以上の彼方。月までの距離が約38万キロなので、そのさらに遠くの世界です。未知の宇宙をどう切り開くか、その壮大な挑戦の一端を、会場で体感してみてください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年7月11日 ]