加藤啓×相葉裕樹「色々なばっちをお見せできる作品に」~豪華作家陣が綴るオムニバスストーリー『テイ・る オブ ナイトメア』~不思議の国の給仕係~
る・ひまわりが贈る新作オムニバス公演、ハジケ・る ポップコーン一座『テイ・る オブ ナイトメア』~不思議の国の給仕係~が、相葉裕樹主演で上演される。脚本には池田テツヒロ、岩崎う大(劇団かもめんたる)、水川かたまり(空気階段)、ブルー&スカイという豪華作家陣が名を連ね、役者として相葉と共演経験もある加藤 啓が演出を手掛ける。共演には、須賀健太、丘山晴己、横山賀三、村上 純(しずる)、坂田聡(ジョビジョバ)、オレノグラフィティ、紫吹 淳と多才な役者陣が集結。様々な「愛」の形を、3つのオムニバスストーリーとオープニング&エンディングストーリーで描きだす。
ビジュアル撮影を終えたばかりの加藤と相葉にインタビューを実施。終始「楽しみ」と笑顔をこぼす2人に、本作への意気込みやコメディへの思い、お互いの印象などを聞いた。
ーー制作陣・キャスト陣、そしてビジュアル撮影の衣装を拝見して、る・ひまわりさんからまたしても刺激的な作品が生まれる予感がしています。主演を務める相葉さんは、本作への出演が決まり、この顔ぶれをご覧になっていかがでしたか。
相葉裕樹(以下、相葉):最初、オムニバスの舞台を、相葉さん主演で作りたい、コメディやミュージカル、サスペンスなど、いろいろな要素を盛り込んで、いろんな僕が出る作品になったらいいなというお話をいただきました。本当にすごいクリエイターの皆さんに集まっていただいて嬉しい限りですね。オムニバス作品自体が初めてですし、役者としてはご一緒していますが(加藤)啓さんの演出を受けるのも初めてなので、それも今から楽しみです。キャスト陣も豪華な方々が揃っていますよね。須賀健太くんは今回が初共演になるのですが、他の皆さんはご一緒したことがあって。信頼を置けるメンバーが集まっていて、現時点(取材時点)ではまだ脚本は完成段階ではないので、内容についてはまだどうなるか分からないのですが、もうこの顔ぶれだけで面白くなる気がしていて、今からワクワクしています。
ーー演出を手掛ける加藤さんは、相葉さんが主演と聞いてどのように思われましたか。
加藤啓(以下、加藤):昨年年末の「る太」(シンる・ひま オリジナ・る ミュージカ・る『ながされ・る君へ~足利尊氏太変記~』)がばっち(相葉)と初共演だったんですが、その2部の優勝賞品で行った焼肉の席で「どういうお芝居が好きなの?」と聞いたら、「僕、実はコメディが好きなんですよ」と。コメディが好きと聞いて、僕はびっくりしたんですよ。ばっちの出演作の印象から、華があって美しい、そういう世界の貴公子だと思っていたので。でも、共演した「る太」の2部でのばっちのコメディパートがめちゃくちゃすごかったんですよ。それを観た上での焼肉での会話だったので、驚くと同時に腑に落ちたんです。「やっぱりコメディが好きじゃないと、あんなにできないよね」と。
相葉:ふふ。
ーーでは、相葉さんのコメディ好きな部分を引き出すような作品になるのでしょうか?
加藤:そうですね。鬼才の作家が集まっているので、それぞれ違った方向性から色々なばっちをお見せできるだろうなと。同時に、シリアスな部分もありますが、全体としては根っこにコメディがあり続ける作品になると思います。
ーーちなみに今回の豪華な作家陣は、加藤さんの人選によるものなのでしょうか。
加藤:今回プロデュースしてくださる、る・ひまわりさんと相談しながら、どういう作品にしようかなと決めさせてもらいました。僕が何度もご一緒している方だけでなく、僕も初めて組む方もいらっしゃるので、僕にとっても皆にとっても冒険になるような作品になるよう、色々と企みました(ニヤリ)。
そういえばさっきビジュアル撮影で村上さんと会って話したんだけど、「ちょっと忙しい時期だったけど、あいばっち主演だからやりますって言った」って言っていて、ばっちへの信頼が窺えましたね。
相葉:え、そうなんですね!? ありがたい。いや、これはかなり嬉しいですね。それこそ僕がコメディ好きになったきっかけの作品が、坂田さんや村純さんと共演した『ドーナツ博士とGO!GO!ピクニック』という作品で。その時に「コメディってこんなに楽しいんだ」と知ることができましたし、お二人の姿に「面白いおじさんったちってかっこいいな」とコメディを教わったので、またご一緒できて嬉しいですね。そこから、がっつりコメディな作品に出る機会がなかなかなくて……。今回は、不思議な世界観のコメディやサスペンス要素、ミュージカル要素といろんな要素が入っているので、それがひとつの作品になったときに皆さんにどう届くのか、稽古が始まるのが楽しみですね。
ーー日替わりのゲストキャストによってエンディングが変わるという仕掛けも面白いですね。
加藤:告知ではもしかしたら、ハッピーエンドとバッドエンドという表現になっているかもしれないんですが、僕としてはそれだと面白くないと思っていて。ハッピーエンドとミラクルエンドにしようかなと企んでますので、ぜひ両方観てもらいたいですね。
相葉:ミラクルエンドってすごいですね(笑)。それは今初めて聞きました。
加藤:まだ実現するかは分からないんだけど、企みとしてはあります。今回、『不思議の国のアリス』がひとつのモチーフになっていて、日替わりゲストの方にはアリスを担っていただいて、オムニバスの入口とラストを繋ぐ重要な役どころをやっていただきます。
相葉:けっこうな重責ですよね?
加藤:だと思う(笑)。毎日違う雰囲気のアリスが登場するので、僕たちも毎回変わらざるを得ないし、どんなミラクル、奇跡が飛び出すのか、そのあたりも楽しみにしていただければと思います。
ーー今回、相葉さんは演出家としての加藤さんとは初タッグになりますが、役者としての加藤さんにはどんな印象を抱いていますか。
相葉:自由自在、ですかね。これまでご一緒した「祭シリーズ」では、啓さんはコメディ要素を担われることが多くて。先日の「る剣」(シンる・ひま オリジナ・る ミュージカ・る 革命『もえ・る剣』)では、啓さんは土方歳三役を……。
加藤:近藤勇ね。
相葉:近藤勇だ! この前も間違っちゃったんだよな(笑)。近藤はかっこいい役なんですが、かっこいい中にも、面白い要素を出せる場面での生き生きとした姿が、僕からするとすごく羨ましく思ったんですよ。自由に遊んで逸脱する瞬間もあるんですが、きっとそれも計算の上で、ちゃんとちょうどいい着地点に戻って来る。その姿がかっこいいなと思いましたね。「る剣」では2部の脚本を啓さんが書かれていたから、稽古でも皆をまとめるような演出家的な姿が垣間見えて。物腰柔らかなんですが、的確に指示を出すんだなと。演出家としての姿も感じられたので、いっそう今作が楽しみになりました。
ーー一方で、演出家としての加藤さんから見た相葉さんの役者としての魅力はどんなところに感じていますか。
加藤:まず、さっきのばっちが言ってくれた役者の僕の姿ですが、全然そんな計算はできてないです(笑)。そう見えていてありがたいんですが、必死に軌道修正しています。
相葉:そこがすごいんですよ! 事前の計算というより、今起きてることに対して、一歩越えようとか戻そうとか、そこの線引が瞬発的にできる。その瞬発的な計算って、やっぱり出来る人と出来ない人がいて、啓さんってそこが完璧なんです。だから、啓さんとの掛け合いではよく奇跡が起こるんですよ。啓さんの「こっち行くぞ!」というゴーサインの出し方が潔いから、みんなついていきたくなる。
加藤:これ、10年に1回あるかないかの褒められタイムですね(照)。なんだか褒めてもらってばかりですみません(笑)。質問に戻りますと、一昨年末と昨年末の「祭シリーズ」で2回共演していますが、演出家としてばっちを見ると、まず圧倒的な華がある。貴公子ってよく言われる?
相葉:よくではないですが、「る剣」のパンフレットにはそう書かれていました(笑)。
加藤:そう言いたくなるような、生まれ持った美しさと品があるんですよ。
相葉:ちなみに貴公子ですか? それとも 奇妙の“奇”の方の“奇公子”ですか?
加藤:そっち(奇公子)でもいい。その要素も実はばっちは持っているよね。貴公子的な美しさもあるのに、2部では独特の間でパンチを打ち出してくるんですよ。「何、その間?」っていう。
相葉:(笑)。
加藤:これってばっちが生来的に持っているものだから、他人が真似してうまくいくものじゃないんですよ。そういう持って生まれた独特なリズム感の面白さもあるし、それだけじゃなくて即興的な勘もすごく強い。すごく色々持っているんですよ。これまで2回共演した中で、存分に出している部分もあれば、まだ出しきっていない潜めているパンチもあると踏んでいて。なので、まだ見せてもらっていない違った顔を引き出せたらなというのも、今回の狙いのひとつです。
相葉:それで言うと、やりやすいところで演じちゃっているという自覚はあるんです。1番上の引き出しをパッと開いて、「これが1番面白いんじゃない?」でやっていて、多分2段目、3段目の引き出しを開けていないんですよ。だから、それを開けてもらえたら嬉しいなと。
加藤:ちなみに、引き出しは下から開けた方が次を開けるのが楽だからね。上から開けると、次の段を開けるのに一回閉じなきゃいけないから。
相葉:たしかに(笑)。
加藤:だから稽古場では、普段開けていない下の段から開けていって、最後によく使う最上段を「これもあるよ」と出すくらいの感じでやってもらえたら、すごく面白いかもしれないね。
相葉:そうですね。僕も「こんなところあったんだ」みたいなことがありそうで、楽しみです。色の違った脚本家の皆さんにも集まっていただいているし。
加藤:オムニバス作品だし、稽古前の時点で色々な掛け算が用意されているんですよ。そこに、役者やスタッフワークという掛け算が入ってきて、果たしてどうなるのか。今回のメンバーは、ばっちを筆頭に演劇に対する秘めたる熱を持っているのをすごく感じているので、かなり冒険できるんじゃないかなと思っています。殺陣もミュージカルもコントもありますからね。大いに楽しみにしていてもらいたいですね。
相葉:やばい、これはもう絶対楽しい。稽古が待ち切れないです。
ーー作品への楽しみがいっそう膨らんだところで、最後にファンへのメッセージをお願いします。
相葉:正直、何やるんだろうって思われている方がたくさんいらっしゃると思うんですが、コントのいいところやミュージカルのいいところ、いろんないいところを詰め合わせた“幕の内弁当”のような作品になるんじゃないかなと思います。僕自身もどんな最後を迎えるのか、まだ未知なところもあって、すごく楽しみです。たくさんの方に観ていただいて、笑って感動していただけたらなと思いますので、ぜひ遊びにきてください。
加藤:このプロジェクト1発目の作品です。1発目ってみんな勝負にでるんですよね。今回はその勝負にふさわしい、鬼才の作家陣と魅力溢れる俳優陣が集結しています。そこでの化学反応やエネルギーが、「ハジケ・るポップコーン一座」という名にふさわしい、まさに弾けた状態のものになると確信しています。ぜひぜひ楽しみにしていただければと思っています。ぜひご来場ください。
衣裳:西原梨恵
ヘアメイク:田中エミ
取材・文=双海しお 撮影=池上夢貢