アメリカ合衆国、内戦勃発!再び起こり得る〈南北戦争〉の救いようのない恐怖と不安、映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』はなぜ全米で大ヒットしているのか
「戦争に大義はない、単なる殺し合いだ」―どこかで聞いた覚えがあるセリフだ。スクリーンを前にして、まさに殺し合いの戦場の真っただ中に自分はいた。耳をつんざく爆撃音、果てしない銃撃戦、空爆による爆発音…戦場とはこういう音の嵐の中に身を置くことか。が、かすり傷一つない不思議な臨場感に襲われ震えている。高まる緊張感、手に汗握るリアルな殺戮の場面の連続に、身体のどこかに力が入っているのだろう、疲れた。気づいて試写会場の椅子に脱力させた身体をまかせて、沈み込ませた。
50州からなるアメリカ合衆国連邦政府から、19の州が離脱したのは、独善独裁的な大統領の許されざる3期突入に端を発した。テキサス・カリフォルニア州は同盟し西部戦線の一大勢力と化して大統領率いる政府軍と各地で武力衝突を起こしている。近未来の〝起こり得る内戦〟の様相だが、かつての南北戦争の黒人解放、奴隷制度廃止という大義はない。
間もなく西部勢力はワシントンD.C.まで200kmの地点まで進攻しようとしている。敗色濃厚の政府軍だが、14カ月の間一度も取材を受けていない大統領への単独取材を敢行しようとするジャーナリスト・チームが、ニューヨークを出発、戦火の中をワシントンD.C.までの1379kmの距離を車で向かう。同乗したのは、戦場カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)、記者のジョエル(ワグネル・モウラ)、ベテラン記者でリーの恩師でもあるサミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)、取材途中で拾った怖いモノなしの若手カメラマン、ジェシー(ケイリー・スピーニー)の4人。
戦火の前線の途上では、銃口を向けられ「お前は、どの種類のアメリカ人だ?」と問う狂気の武装兵に囲まれ4人もまた絶体絶命のピンチに遭遇しながら、命からがらの取材行がつづく。降伏間もない政府軍の残党を退け、進軍する西部勢力の後に着いて行きながら、D.C.へと足を踏み入れた二人のカメラマンはいかにして大統領をカメラに収めたか。
アメリカ合衆国で南北戦争(Civil War)が始まった1861年4月12日から163年後となる今年の同月同日、北米でその内戦の名を冠する『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が公開。第95回アカデミー賞では作品賞含む最多7部門を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』をはじめ、数多の傑作を世に送り出してきたA24が過去最高額の予算を投じて製作した本作、同スタジオで最大のオープニング成績となった。
監督・脚本を務めたのは『エクス・マキナ』や『MEN同じ顔の男たち』など、SFやホラーを手掛け独創的な世界観と妖麗な映像表現で世界に衝撃を与え続けるイギリスの鬼才アレックス・ガーランド。本作ではテキサスとカリフォルニアが同盟を組むという突飛に思える設定だが、巧みな筋運びと戦争をゼロ距離で体感させる圧巻の臨場感によって、明日(今日)起こるかもしれない〝分断の終着点〟として驚くほどのリアリティをもって物語を成立させ、大国アメリカの崩壊を生々しくも大迫力で描き出した。
共和党か民主党か、2024年11月、大統領選挙を控え、政治的分極化による社会の分断がかつてないほど深刻化するアメリカ合衆国に対して、ガーランド監督は明確な警鐘を鴫らしたのである。かつてホワイトハウスを襲撃した落選した大統領陣営の暴徒が、今度は銃器を携えないとは限らない。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
10月4日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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