経堂さんぽのおすすめ7スポット。オタクな専門家が潜むこの街の、なんでもアリ感がクセになる
「何があるか」と聞かれたら、いろいろありすぎてよく分からん経堂の街。実際、おいしいお店を巡るとか、広く浅くでも十分楽しめる。けれど、ちょっと深入りしてみたら、また違う景色が見えてくるかもしれない。
『Desert Plants(デザート プランツ)』多肉植物とサボテンのコンシェルジュ
多種多様な多肉植物とサボテンが、なんと愛おしいことか。「私もこのかわいらしさに心奪われて」と、店主の紹(たすく)さんはホクホク満面の笑みだ。「長期の旅行中にお預かりしたり、植え替えを手伝ったりも」とは、妻の照美さん。そこまで甘えていいなんて、心強すぎます!
・12:00~19:00、水・木休(不定休あり)。
・☎03-6432-6804
『ことこ茶店(ちゃてん)』台湾茶をお供に、優雅な時間を楽しむ
「台湾茶は一煎目が超重要」と、店主の馬場沙由香さん。よどみない手つきで小さな茶器に茶葉を入れ、コトコト湯を注ぐ。淹れたての阿里山高山茶は、とろりと柔らかな舌触り。香りがふわり広がり、安らぐ。二煎目以降は自分のタイミングで。本でも読みながら、ゆっくり嗜もう。
・12:00~19:00(喫茶は~18:30。木は物販のみ)、火・水休。
・☎03-4291-5274
『ハルカゼ舎』無限に時間が溶ける文具雑貨の宝庫
「文房具のたたずまいが好き」とは、店主の間瀬省子さん。文豪や詩人の言葉をプリントした「コトバえんぴつ」など、個性的な文房具は見ていて飽きない。さらに、名物の日めくりカレンダーは必見。毎日ひと言ずつ添えられる言葉は、間瀬さんが考案。「作り続けて2024年で15年目です」。すっげ!
・12:00~18:00、火・水・木休。
・☎03-5799-4335
『ゆうらん古書店』地域のつながりに支えられし、文化拠点
子供の頃から本好きだった今村亮太さんは、西荻窪の『古書 音羽館』で修業し、2022年に開業。店内は『太田尻家』の店主夫妻と共に作り上げた。和書、洋書の古書のほか、今村さんセレクトの新刊も。「毎日知らない人や本と出会える。それが楽しいです」と、ニッコリ。一期一会の宝物、探してみますかね。
・12:00~20:00、火休。
・☎03-6413-5833
『Bar太田尻家』経堂のサグラダ・ファミリア的酒場
田尻輝幸さんは美術造形の職人。妻・太田智子さんはイラストレーター。2人が2004年に内装と外装を手作業で造ったこの店は、現在進行形で進化中。「ずっと完成しないかも」と、田尻さん。棚に並ぶ本を手に取り、生ビールをゴクリ。しおパンをかじり、静かにゆったり時を過ごそう。
・18:00~24:00、月・火休。
『経堂 ハンゾウ』円卓囲んでかき込む創作うどん
「東南アジアが大好きで」と、店主の剛(たけし)さん。和風もいいが、ここはエスニックうどんといきたい。ムール貝とパクチーのうどんは、貝のエキスが出汁に溶け込み、芳醇な香り。やや平打ちの麺はコシが強く、食べ応え満点だ。大きな円卓の向こうでは、酒盛り始めている兄さんが。僕も一杯、喉を潤そうかな?
・12:00~21:00、月休。
『フォローミー』喫茶で刺し身に舌鼓って、なによ⁉
地下街で40年続く老舗喫茶では、常連衆が口々に「今日、魚何が入ってる?」と尋ねるから耳を疑う。まねして頼めば、超新鮮な刺し盛りが出てきた! 「毎朝、『魚真』で仕入れてるから」と、星江ママは胸を張る。酒のアテでも、定食でも、平らげた後はマスターの徹さんが淹れたコーヒーをキメて完璧!
・11:00~23:00、日休。
・☎03-3426-4594
ちょっと深入りしてみたら、街の違う景色が見えてきた
ここ数年、仕事の関係で経堂へ頻繁に訪れている。南北へ商店街が延び、行き交う人々は快活。きっと、住みよい街なんだろう。けれども「経堂らしさ」を問われたら、いろいろありすぎて、淡泊でまとまりがない。今思えば、とんだ早とちりだったなあ。
昭和遺産の趣を醸す雑居ビルの足元で「味のプラザ」なる地下街への入り口があんぐり口を開けている。看板のフォント、ダセえ。でも、哀愁があってイイ。階段を下り、ひと際怪しげな喫茶『フォローミー』の戸を開くと、まだ日も暮れる前なのに、酒飲みのオッチャンでカウンターが埋まり、カオス状態。でも、寡黙なマスターと気風(きっぷ)のいいママの仕事っぷりで中和され、心地よい。みんな刺し身とコーヒーを頼んでいたのには、ぶったまげたけどね。
意表を突かれたと言えば『ハンゾウ』も忘れがたい。昼飯にサッとうどんを食べて出るつもりだったんだ。でも円卓だから、場の一体感がすごいんだ。気づけば、隣のお兄さんとガンダム談義に花が咲き、閉店まで飲み続けていた。何やってんだ、俺は。
誰かの夢をかなえるとき、それが自分の夢になる
「この店、『太田尻家』の夫妻が造ってくれたんです」とは『ゆうらん古書店』の今村亮太さん。「古本屋を出す」と伝えると、田尻さんと太田さんは店を3カ月も休んで、本棚から店の造作まで、一緒に作ってくれたのだという。
『太田尻家』へ話を聞きに行くと「今村君は本当に本が好きで、いつも楽しそうに話をしてた。僕の方が、感化されちゃったんだよね」と、田尻さん。ああ「感化された」って、すごくイイ。今村さんの夢が、いつしか田尻さんの夢にもなっていたんだ。きっと本棚を作っている間、楽しかったんだろうな。「誰かの人生の節目を見られると、店をやってて良かったと思う」。深いね。
同じく『太田尻家』の常連『ハルカゼ舎』の間瀬省子さんも「飲み仲間だった今村君が、今は同じ街の店仲間になった。すごくうれしい!」と、ケラケラ。近しい友人を見守る絶妙な関係値もすてきだ。そんな『ハルカゼ舎』の日めくりカレンダーを、今度は『ことこ茶店』で発見。「開業の年に友人から贈られて以来、1日の始まりにはこれをめくる習慣がついて」と、店主の馬場沙由香さんはニッコリ。意外なところで、誰かと誰かが交差している様子が垣間見えると、なんだか温かい。
それぞれが、マイペースに営んでいる。けれど、見えないどこか深いところでつながっている。その隠れた人情味こそが「経堂らしさ」なんだろね。
取材・文=どてらい堂 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2024年9月号より