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【東大の授業料20年ぶり値上げ】他の国立大に波及するの?高等教育の学費負担どう考えるべき⁉️国立大学協会は「もう限界です…」

アットエス

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「東大の授業料値上げ」。先生役は静岡新聞の川内十郎論説委員です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年10月15日放送)

(山田)東大が来年度から授業料を値上げするということですね。どんな影響や背景があるんでしょうか。

(川内)授業料の値上げは20年ぶりで、現状から2割増しの年間64万2960円となります。9月に決まりました。この動きをきっかけに、大学の授業料への関心が高まっています。東大はいろんな意味で日本のトップ大学で、影響力が大きい。

国立大の多くは厳しい財政状況に直面していて、東大に続くと明確に意思表示している大学はまだありませんが、波及する可能性はあります。学費の値上げは進学の機会を奪いかねず、大学の財政基盤の安定に向けた公費支出増の議論を本格化させる契機にすべきです。

(山田)そういうことか。

(川内)値上げの一方で、東大は支援策として授業料全額免除の対象を、世帯収入が「400万円以下の学部生」から、「600万円以下の学部生と大学院修士課程の学生」に拡大することなどを打ち出しました。家計基準で対象外でも、個別事情に配慮して対応するとのことです。

(山田)フォローの部分は広げているわけですね。

(川内)そうなんです。

授業料を上げる根拠は

(山田)東大は値上げの理由を、はっきりさせているんですか。

(川内)値上げの決定を公表するホームページの文書で、大学のグローバルな競争が激しくなる中、学修環境の改善は「待ったなし」と強調し、授業料はそのための「安定的・基盤的財源」と位置付けています。施設整備や海外留学の奨学金など必要な事業費を年間143億円と算出しました。

しかし、今回の値上げによる増収見込みは2028年度末に年間13億5千万円で、その1割にも満たないです。つまり、授業料を上げても、教育環境改善の経費をそれほど賄えないということです。

(山田)1割未満か。それは少ないな。

(川内)国立大の大切な使命の一つは、経済事情に左右されず高等教育の機会を提供することです。今回、教育環境の改善のためとはいえ、そのような使命をないがしろにしてまで授業料の値上げにまで踏み込む必要があったのでしょうか。

先ほど言ったように、授業料値上げによる増収は学修環境改善に必要な経費の1割にも満たず、東大の影響力の大きさについてもどこまで考えたのか、という気がします。

(山田)東大に行く人って全部ではないでしょうが、いい教育が受けられる裕福な家庭の出身というイメージがあるな。

(川内)そこは今回の値上げのポイントの一つでしょう。大学側には、東大の学生の多くは首都圏の中高一貫の進学校出身で、小さい時から塾通いできるような裕福な家庭に育っているから、値上げをしても大丈夫という判断もあったかもしれません。

(山田)在学生たちから「上げないで」という声は出なかったのかな。

(川内)多くの学生や一部の教員は強く反発し、デモや署名運動などもありました。

厳しい国立大の財政状況

(山田)国立大の財政はなぜ厳しいんでしょうか。

(川内)多くの国立大学の財政はまさに「火の車」です。2004年の法人化以降、経営を支える国からの運営費交付金は減り続け、各大学は寄付金募集や冠講座の受託など収入増に努めてきました。しかし、物価や光熱費、人件費の高騰などが経営を圧迫し、国立大学協会は6月に「もう限界です」と表現する異例の声明を出しました。

(山田)なるほど。そこまで大変なのか。

(川内)国立大の授業料は文部科学省令で「標準額」が定められ、2005年度に1万5千円上がって53万5800円となって以降変わっていません。大学の判断で2割まで増額でき、その後、千葉大や一橋大など首都圏の7校が引き上げました。

(山田)これまでは首都圏だけなんですね。

学費と地域事情の関係

(川内)大都市圏に比べて所得水準が低い地方で授業料を引き上げれば、負担感は一層強くなり、学生確保は難しくなります。地方大学には、「上げたいけど、上げられない」というジレンマがあります。同時に大学が教育や研究のレベルを維持しなくてはならないことは、言うまでもありません。

各大学が「稼ぐ力」を高めることは重要ですが、自助努力にも限界があります。学費は地方からの若者の流出にもかかわる問題です。

(山田)僕は私立大出身ですが、私大はどうなのかな。

(川内)私大も国立大同様、財政状況は厳しい。大都市圏を中心に学費値上げが相次いでいます。今春入学者が定員割れした四年制の私大は、約6割に上りました。学生を確保できない主因は少子化。そういう意味を含め、公私を問わない日本の大学全体の課題なんです。

値上げは国際公約に反する

(山田)構造的な問題はないんでしょうか。

(川内)国際的な話ですが、日本は高等教育費に占める公的財源の割合が先進国の中でも際立って低いです。経済開発協力機構(OECD)が先月発表した報告書によると、加盟国平均の68%に対し37%にとどまります。私費への依存が大きいことは明らかです。

諸外国を見ると、特にヨーロッパは公費負担の割合が大きいですね。学費値上げは日本が2012年に批准した「高等教育の漸進的無償化」という国際公約に反することも指摘しておきたいと思います。

(山田)高等教育をどう維持し、希望する誰もが進学できる環境をどうつくるかということですね。

高等教育の受益者とは

(川内)日本は教育費を家庭が負担すべきという意識が根強いとされています。高等教育の恩恵を受けているのは、一義的には当事者ですが、気候変動や少子高齢化など私たちが直面している多くの問題を解決する人材を育てているという観点に立てば、社会全体が受益者と言えます。これは、税金を使った公費増額の大きな根拠になるのではないでしょうか。

(山田)高等教育の課題は今回の衆院選ではどう取り上げられているんですか。

(川内)多くの政党が高等教育の無償化を目指すことを、選挙公約に掲げています。実現の裏付けとなる具体的施策や財源確保の道筋をどう語るか、しっかり見極めたいと思います。

大学自身が自分たちの教育や研究の成果を分かりやすく示すことも、公費増への理解のためには重要です。国立大の法人化で教員が外部の研究費など「競争的資金」の獲得に追われ、研究時間が減ることなどにより社会へのアピールにつながる日本の研究力が低迷していることは懸念材料。

所得格差が広がり賃上げが物価高に追いつかない状況もある中、返済の必要がない給付型奨学金の拡充なども含め、筋道を立ててしっかり議論すべきです。

(山田)広がりがある、私たち全体の問題なんですね。大学も家計もやりくりが厳しい中で、落としどころはどこか、考えさせられました。今日の勉強はこれでおしまい!

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