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菊屋家住宅で過ごす特別な夜 萩市「ナイトミュージアム&カフェ」

山口さん

萩市にある、江戸時代から続く名家・菊屋家。
その重厚な歴史と伝統を受け継ぎながら、令和の時代に新たな一歩を踏み出しました。

その本邸が今も残る「菊屋家住宅」は、国の重要文化財に指定されています。
菊屋家は、萩藩の商業活動を支える重要な役割を果たしていた商家であり、藩の財政や物流にも関与していました。

そのため、邸内には商業活動に必要な設備や、文化的な交流の場としての機能が備えられており、当時の商家文化を知る上で貴重な資料となっています。

夜の邸宅を当主が案内

しかし年に数日だけ、夜の帳が下りた後に門を開く特別な催しがあります。

文化財を「保護する」だけでなく、「積極的に活用する」ための新しい試みで、
菊屋家住宅の邸内を提灯の灯りとともにそぞろ歩く、『ナイトミュージアム&夜カフェ』です。その体験会に参加してきました。

邸内を案内してくださるのが、公益財団法人菊屋家住宅保存会の理事長であり、13代目当主の菊屋吉生氏です。

参加者には提灯が手渡され、静かに暮れゆく邸内を歩いていきます。
この場所を受け継ぎ、生きた記憶として知る当主自らが語る言葉には、他では得られない説得力があります。

暗がりの中で際立つ、邸宅の美

夜の菊屋家住宅は、昼間とはまったく違う表情を見せてくれます。

玄関を入ってまず感じたのは、空気そのものが昼間とは変わったような感覚でした。

屋内はほんのりと照らされた灯りのもと、静けさとともに、どこか背筋が伸びるような緊張感があります。

邸内では部屋ごとに異なる展示を楽しむことができます。
時代箪笥や屏風、着物、そして書画など、家に伝わる品々が丁寧に並べられており、どれもが目を奪われるような美しさです。

中でも印象に残ったのが、美人画の掛け軸です。

邸内では特別企画「美人が(画)きた!」が開催中。
このナイトツアーでもこれらの作品を楽しむことができます。

本企画展では、30点余りの作品が展示されていますが、およそ半数が菊屋家において初公開。
昼間とはちょっと違う雰囲気で「美人画」を眺めると、妖艶さが増すような気がします。

※「美人が(画)きた!」は6月29日(日)まで。気になる方はお早めに足をお運びください。

書院で味わう、静けさと甘味のひととき

庭園を望める広間「書院」の間。

江戸時代、毛利のお殿様や幕府の監視役など大切なお客様を接待する空間として設けられたこの部屋は、格式と美意識が詰まった特別な空間です。

その書院が、この催しの際は特別に「夜カフェ」として開放されているのです。
薄暗がりの中、低く設えられた灯りが畳の上にやわらかい陰影を落とし、まるで夢の中にいるかのような時間が流れます。

供されるのは、萩市で人気の『Cafe Gallery 藍場川の家』の商品「ちょこっと美人」の菊屋家特別ヴァージョンです。

こちらは東洋美人の酒粕を使用したチーズケーキ。

酒粕のやさしくも華やかな香り。レーズンはふっくらと柔らかく、酒粕の風味とともにじんわりとした甘みをプラス。
食感はなめらかでしっとり。ベイクドタイプなのに口当たりはとても軽く、ついもう一切れ手が伸びてしまう一品です。

ドリンクは、コーヒー、紅茶、ほうじ茶、夏みかんジュース、ジンジャーエールの5種類。
それぞれがチーズケーキの味を引き立ててくれるので、どれを選んでも間違いなしです。どんな組み合わせにしようかと迷う時間さえ、ちょっと特別に感じられます。

静寂の中で味わうからこそ、五感すべてが研ぎ澄まされているようで、
まさに「いただく」という言葉がしっくりくるひとときです。

歴史を感じるだけではない、菊屋家住宅の“体験”

菊屋家住宅では、歴史的な建物の見学に加えて、ユニークな体験も味わえます。

なんと、国産初の蓄音機を実際に体験できるのです。

明治時代の蓄音機と昭和初期の蓄音機、2台の音を聴き比べられる貴重な機会は特別なものとなっています。

電気を使わず、ぜんまい仕掛けで音を響かせるその仕組みには、昔の人の知恵と工夫が詰まっています。
針がレコードをなぞりながら奏でる音は、今のスピーカーとはひと味違う、どこかあたたかくて懐かしい響き。

実際にレバーを回して音を出す瞬間は、まるで過去と現在がつながるような感覚。
大人にとっては懐かしく、若い世代にとっては新鮮な発見になるはずです。

美術館とも違う、家だからこその特別さ

この空間の一番の魅力は、「展示を見る」のではなく、「家に触れる」ことにあるのだと、歩くうちにだんだんとわかってきました。

美術館のようにガラスケースの中に作品があるだけではなく、多くの作品が畳の上や床の間、障子の前に、そこにあるべきものとして自然に存在しています。

だからこそ、カメラを向けるたびに「これは作品を撮っている」というより、
「この空間に流れる時間ごと、そっと残したい」と思わされるのです。

書院庭園を望む広縁に足を運んだとき、思わず声が出てしまいました。
ライトアップされた庭の石灯籠が、まるで浮かび上がっているように見えたのです。

展示物の撮影が許されているのも、このナイトミュージアムの大きな魅力です。

夜の静けさが、心をほどいていく

気がつけば、館内をめぐっていた時間はあっという間に過ぎていました。
静けさの中に漂う空気や、展示の一つひとつに引き込まれ、時の流れを忘れていたのかもしれません。
最後には「もう少し、ここにいたい」と感じていた自分がいました。

夜だからこそ見えてくる陰影。静けさに耳を澄ませば聞こえてくる木のきしみや風の音。
そして、そこに息づく“家の記憶”。

それらすべてが、この体験を「ただの見学」では終わらせない、心に残るものにしてくれた気がします。

明かりに照らされた石畳を一歩一歩踏みしめながら、門を出ると、外の空気はすっかり夏の気配。
でも、胸の奥にはどこかひんやりとした感覚が残っていました。あの家の中で感じた、時代を超えて今につながる静かな“温度”が、まだ身体にまとわりついているような、そんな感覚です。

この「菊屋家住宅ナイトミュージアム&カフェ」は奇をてらったり、派手な演出があるわけではありません。
けれど、訪れる人の感覚にそっと寄り添い、まるで昔から知っていた場所のように心に残ります。

電灯のない時代の先祖たちは現代の私たちよりずっと光や音の感覚が研ぎ澄まされていたと想像しています。
昼間と違い、闇や暗さへの少しの恐れは当然あったと思いますし、
蝋燭や提灯、行燈などほの暗くとも灯への安堵感は代えがたいものでしたでしょう。

先人たちが紡いできた日々の暮らしに思いを巡らせるひと時を過ごしてみてはいかがでしょうか。

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