『ハズビン・ホテルへようこそ』嘘を吐くような気持ちで…アラスター役・佐藤せつじさん、エンジェル・ダスト役平野潤也さん対談
アメリカ発の大人向けアニメーション『ハズビン・ホテルへようこそ』。2019年にパイロット版がYouTubeで公開されて以来、デンジャラスでユニークな世界観や魅力的なキャラクターたちが注目を集め、日本のアニメファンの間でも話題に。そして、今年1月にPrime VideoでTVシリーズ版の日本語吹替版の配信がスタートすると、その人気はさらに過熱! 配信開始から半年を経た今もその熱は収まっていない。
物語の舞台は、罪人たちの魂が悪魔として暮らしている地獄。天国の天使たちは地獄の住人が増え続けることを危惧し、年に一度アダムらが率いる天使軍(エクソシスト)を地獄に派遣し「エクスターミネーション」という悪魔の殲滅活動を行っていた。だが、地獄のプリンセス、チャーリー・モーニングスターはその凄惨な光景に胸を痛めていた。地獄の過剰人口を平和的に減らすべく、悪魔たちを更生させ天国へ行けるようにしようと発案。そのために創ったのが、この「ハズビン・ホテル」だ。はたしてチャーリーの計画はうまくいくのか? 彼女の奮闘と、ホテルの住人たちが織り成す愛にあふれた人間ドラマに注目!
ここではPASH!8月号に掲載した日本語吹き替え版アラスター役・佐藤せつじさん、エンジェル・ダスト役平野潤也さんの対談の一部を掲載する。
――おふたりは、ご自身が演じるアラスターとエンジェル・ダストをどんな人だと感じ、演じる際にどんなことを心がけていましたか?
佐藤 アラスターはこの作品のなかで、一番ミステリアスで謎多き人物だと思うので…どんな人かというと難しいですね(笑)。配信されているシーズン1だけでは敵か味方かもまだ明らかにならず、本心はまるでわからないままなので、僕は演じるにあたってすべてのセリフを嘘を吐くような気持ちでしゃべっています。どんなセリフも語尾に「本当は嘘だけどね」とつけているつもりで、そのなかにときどき本音がちらりと出る、という感じでやっていました。人前で演じているという意味ではエンジェルも一緒なんじゃない?
平野 そうですね。自分を演じているというのが第4話で明らかになって。ただ、登場の時点ではエンジェルがどこまで自分を演じているのかは見えてこなかったから、第1話での僕のエンジェルに対する印象は、「この作品のエロの代表はこいつなんだろう」でしたね。最初からいきなりエロエロなセリフから始まりましたから(笑)。演出の依田さんからも「とにかくセクシーに」と言われていたのですが、設定的には「男」と書いてあったので、女性的にはならないように気をつけました。あくまでも〝男のエロ〟といいますか。
佐藤 平野くんはセリフのなかで喘ぐような役作りをしているよね。そのなかにセクシーさだけじゃなく、エンジェルの儚さや可憐さ、痛みが感じられて、第4話を観たときに「この表現力すごいな…」って思った。
平野 劇団の先輩であるせつじさんに面と向かって褒められると恥ずかしいです(笑)。せつじさんはさっき「すべてのセリフを嘘を吐くような気持ちでしゃべっている」と言っていましたけど、僕はそれがすごいなと思っていて。アラスターというかっこいい役をただかっこよくやるのではないところに、せつじさんのかっこよさを感じました。
佐藤 嬉しい。でも、確かに照れるね(笑)。
平野 役者同士で褒め合うことってそうそうないですからね(笑)。
――平野さんはエンジェルだけでなくエッギーズ役もやられていますが、あちらを演じる際に心がけたことは?
平野 エッギーズは原音でもエンジェル役のブレイク・ローマンさんが兼ね役で演じているので、日本語吹替版でも僕が担当しました。依田さんからは「とにかく原音を声真似してほしい」と言われていて、その結果があちらになります(笑)。エッギーズは言葉の裏の本心はまったくなく、セリフが感情そのままなので、やっていて楽しかったですね。
佐藤 あのバカかわいさが愛おしいよね。ちなみに、実は僕も兼ね役があって、ニュースキャスターのトムは僕がやっているんですよ。このインタビューを読んだ方は、本編を観返す際にちょっとだけ意識して聴いてもらえたら嬉しいです。
――第5話で、アラスターがハスクに「自分も繋がれてるくせに」と言われたときに一気に豹変する感じは、ゾクッとさせられました。
佐藤 あそこが僕の思う〝素のアラスター〟が初めて出た瞬間ですね。触れられたくない場所を触れられて、「今なんて言った?」から一気にグッと詰めていく。普段は飄々としても、そういうところだけはバシッとやろうということは最初から決めていました。あのシーンを録り終えたあと、いつも収録をニコニコ見てくれていたみんなが「怖…」って言っていたのが面白かったです(笑)。
――普段と違うアラスターといえば、第8話のアダムとの戦いも印象的です。
佐藤 あそこも本気のアラスターのシーンのひとつかもしれません。実は演じるときには「何があった
」のエフェクトが外れることを知らなくて、配信で観て初めて知ったんです。いきなり自分の素の声が出てきたので、ちょっと恥ずかしかったですね。「なんで
あ、マイクが折れたから? やばい、早く加工を!」と、ちょっとしたパニックでした(笑)。
――他者を煽るシーンとのギャップを感じました。
佐藤 そうなんです、普段のアラスターはめちゃくちゃ煽り力が高いんですよね。
平野 僕は第5話のルシファーに対する「邪魔ばかりして」の言い方が好きです。原音とはまた違うアプローチですよね。
佐藤 そうですね。やっぱり吹替ってオリジナル版が作られたあとに作るものですから、後出しじゃんけんのようなものなんですよ。だから、もちろん原音は大切にしつつも、「原音ではこう言っているけど、こういう方向もありなんじゃないかな」というアプローチも模索できたらいいなと思っていました。この作品は各国のバージョンで観る人が思っていた以上に多くてビックリしたのですが、そうやってそれぞれの言語版とのニュアンスの違いも楽しんでいただけるとうれしいです。
――続いて、エンジェルのメインエピソードである第4話についてお聞きします。
平野 まさにエンジェルの魅力が全部詰まった回だったと思いますね。エンジェルにとってカギとなるエピソードなので、第4話をやるときはすごく腰が重かったです。プレッシャーもありましたし。
佐藤 第4話は重いけど、すごくいい話だよね。チャーリーに「帰れよ!」と言うシーンは、彼女を守ろうとするエンジェルの気持ちにグッとくるし、チャーリーもエンジェルを大切に思うからこそ彼の力になろうとしていて。あの話数は、エンジェル、ハスク、チャーリー、そしてヴァレンティノの良さも全部詰まっているなと思います。
――平野さんは第4話におけるエンジェルの心境の変化をどのように感じましたか?
平野 第1話で先を諦めているようなセリフがありましたけど、その裏側――契約で縛られ、いいように使われている現状に希望を見出せずにいるということが見えてきて。序盤は『Poison』の「明日は何か変われるかな」という歌詞とは裏腹に「結局変われないんだろうな」と思っているエンジェルの絶望がひしひしと感じられました。でも、ハスクと歌った『Loser Baby』で少しだけ希望を持てるようになった。本当にこの2曲で、エンジェルの心の動きが全部表れていますね。エンジェルが自分を受け入れて「ホテルのみんなの前だったら仮面を外してもいいのかな」と思えたのは、「何も残ってない」と思っていた自分にハスクが「それでいいじゃん」と寄り添ってくれたからだと思います。だから、僕のなかで第5話以降は、〝エンジェル・ダスト〟を演じていた第1~4話よりもセクシーを少し抑えめにしました。
――確かに、これ以降少し印象が柔らかくなった気がしました。第6話のクラブのシーンでは、まるでニフティの保護者のようでした。
平野 そうなんですよ。ホテルのメンバー以外の前では相変わらずセクシーに振る舞うけど、仲間内ではあまりしなくなった気がして。エンジェルも素になれてきているんだと思いました。これはのちのち知ったんですけど、第4話でヴァレンティノが見せる契約書には本名で「アンソニー」と署名してあるんですよね。きっと第5話以降は、〝エンジェル〟としてではなく〝アンソニー〟としていられる時間も増えたのではないでしょうか。
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『ハズビン・ホテルへようこそ』
Prime Videoで独占配信中
HP:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CLM9XG3F
©Amazon Content Services LLC
日本語版STAFF:制作=東北新社、翻訳=村富梨絵、小島さやか、訳詞=Ayako Kawai、演出=依田孝利、音楽演出=市之瀬洋一・安西康高
日本語版CAST:チャーリー・モーニングスター=清水理沙、ヴァギー=種市桃子、アラスター=佐藤せつじ、エンジェル・ダスト=平野潤也、ハスク=平林 剛、ニフティ=松嶌杏実、ペンシャス=上田燿司、アダム=上田燿司 ほか