東日本大震災後に本格始動した「GOGO groomers」の保護活動
ここでは、犬と、犬を取り巻く社会がもっと幸せで素敵なものになるように活動している方々をレポートします。
今回は、トリマーのスキルを生かした保護活動を始めて、現在までに500頭を超える犬たちの命を救ってきた「GOGO groomers」代表・猪野わかなさんの取り組みを紹介します。
トリミングにより犬の被毛と皮膚を健全に保つことは、保護活動では不可欠なこと
東日本大震災後には、関東でも神奈川県に家族とはぐれたり行き場を失ったりした被災犬たちを一時収容する仮設シェルターが作られました。GOGO groomers代表の猪野わかなさんは、トリマー仲間10名を集めて、その敷地にテントを張り、仮設のトリミング場を設置。そこで週1回、長期間にわたってボランティアのトリミングを行ったそうです。そのとき集まったトリマー仲間たちと「今後も継続的に犬や猫の保護活動を行っていこう!」と意気投合し結成したのがグルーマーズです。
グルーマーズでは、関東の動物愛護センターから保護犬を引き取るほか、悪徳な繁殖を続ける業者や多頭飼育崩壊現場からレスキューされた犬たちをトリミングして、各自のサロンで預かりをして譲渡までを行う活動を行っています。猪野さんは、劣悪な環境からレスキューされた犬たちの悲惨な姿を数多く目にするうちに、保護活動における「トリミング」の重要性を痛感したと話します。
「多頭飼育崩壊現場などで放置された長毛の犬の多くは、被毛が伸びきって糞尿でガチガチに固まっているんです。ボロボロになった体の状態を動物病院で診てもらうためには、まず汚れた被毛をすべてカットして洗浄する必要があります。トリマーの力が借りられないときには、保護団体のスタッフさんが、手探りで犬たちの被毛を5時間以上かけてカットしていました。私たちプロのトリマーだったら、1時間でできることなんです」と話す猪野さん。
ボランティア活動を精力的に行うなか、2016年にはグルーマーズの活動に賛同する保護団体や獣医師、個人の活動家が集まり、新たに「フォスターサロン・ジャパン(以下FSJ)」を発足しました(2020年9月号本誌同連載で紹介)。
FSJでは、保護犬のレスキューから搬送、医療処置、預かりと譲渡、問題行動のある保護犬のトレーニングまで、各メンバーが専門分野を生かして総合的な保護活動を行えるようになりました。猪野さんは自身のサロンWANBOでも、FSJで保護した犬を月に3〜4頭預かり、譲渡までつなげています。
超ビビリな犬でもトリミングに慣れさせる猪野さんの極意
取材をした当日、WANBOには、小型のミックス犬みつよちゃんと、大型のミックス犬なるみちゃんが保護されていました。なるみちゃんは、人に触られることが苦手なため、初めてシャンプーするときは、時間をかけて少しずつ慣らしていったそう。今では安心して猪野さんに身を預けるようになりました。
保護犬のなかには、トリミングを極端に怖がりパニックになってしまう犬もいますが、猪野さんは、どんな犬にもやさしく愛情を込めて接し、最後には心を開かせてケアができるようにします。その極意を聞いてみると……、「あせらずに時間をかけてトリミングが怖くないことを教えていくことですね。シャンプーの場合、シャワーから出る水の音を聞かせることから始めます。カットでは、いきなりハサミを当てるのではなく、ハサミを見せてニオイをかがせて、少しずつ慣れさせていきます」とのこと。
被毛が伸びきり悲惨な姿だった保護犬たちは、猪野さんの手により見違えるようなかわいい姿となり、幸せな家庭へと送り出されていきます。
次回はサロンを卒業して幸せな家庭に迎えられた犬たちをレポートします。
出典/「いぬのきもち」2024年4月号『犬のために何ができるのだろうか』
写真/田尻光久
写真提供/GOGO groomers
取材・文/袴 もな
※保護犬の情報は2024年2月6日現在のものです。