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30周年『レザボア・ドッグス』今冬復活上映!ガラ空きの映画祭を2年で超満員にしてみせた28歳タランティーノの衝撃デビュー作を振り返る

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30周年『レザボア・ドッグス』今冬復活上映!ガラ空きの映画祭を2年で超満員にしてみせた28歳タランティーノの衝撃デビュー作を振り返る

30年後の『レザボア・ドッグス』

『レザボア・ドッグス』が新年早々デジタル・リマスター版でリバイバル上映されると聞いて感慨もひとしおである。日本での劇場公開は30年ぶりだそうだが、初めて見たときの衝撃が鮮明に残っているので、歳月の長さをあまり感じない。

いや、監督のクエンティン・タランティーノを始め、出演の俳優たちはそれなりに年をとっている。元締めジョーのローレンス・ティアニー、ナイスガイ・エディーのクリス・ペン、ミスター・ブルーのエディ・バンカーは鬼籍に入ってしまった。それでも映画自体は年をとらない。今もピカピカに新しく、十二分に衝撃的だ。

『レザボア・ドッグス』© 1991 Dog Eat Dog Productions Inc. All Rights Reserved.

今でもよく覚えている。1992年のカンヌ国際映画祭で、朝8時30分のコンペ作品の上映が終わり、主会場のリュミエールを出ようとしたときにフランスの映画批評家の重鎮ミシェル・シマンに、誰かが『レザボア・ドッグス』を見るべきか尋ねたのだ。「絶対に見た方がいい」という返事を聞いて、私はその足ですぐ上映会場へ向かった。ミシェル・シマンが太鼓判を押す映画なら間違いない。そして、間違いなかった。

『レザボア・ドッグス』© 1991 Dog Eat Dog Productions Inc. All Rights Reserved.

ガラガラだったカンヌの記者席が2年後には超満員に

映画の内容については改めて触れるまでもないだろう。レストランで強面の男たちがマドンナの「ライク・ア・バージン」のおかしな解釈を披露し、ウェイトレスにチップを払うかどうかで一悶着する冒頭の長回し。ジョージ・ベイカーの「リトル・グリーン・バグ」に乗って黒いスーツで決めた男たちがスローモーションで歩くオープニング。一転、銀行強盗が失敗に終わり、落ち合い場所である倉庫に逃げてくる。どこで失敗したのか。仲間に対する信頼が崩れ、疑心暗鬼で互いに腹を探り合うなか、裏切り者の存在が浮かび上がってくる――。

『レザボア・ドッグス』© 1991 Dog Eat Dog Productions Inc. All Rights Reserved.

香港ノワールや日本のヤクザ映画の影響を感じさせつつ、個々のキャラクターの練り上げ方が見事で、台詞も面白く、テンポよく最後まで一気に見せてしまう。こんなカッコいい映画は久しぶりだ。私はティム・ロスのファンだったので、彼を見に記者会見に顔を出してみた。出席者は製作・主演のハーヴェイ・カイテルを中心に、タランティーノ、ティム・ロス、製作のローレンス・ベンダー、モンテ・ヘルマンと超豪華。

ところが、記者席にはジャーナリストが20人もいたろうか、まるでガラガラ。質問もあまり出ず、私の隣にいた友人の音楽プロデューサー、ブライアン・Jが(映画を見てもいないのに)2度も質問していた。「だって、誰も質問しないと可哀想じゃないか」というのがブライアンの弁だった(そんな彼もその数年後に亡くなってしまった)。私は真っ赤な顔をして、下を向きながら熱弁を振るうタランティーノにちょっとびっくりしたのを覚えている。このガラガラだった記者会見場が2年後の『パルプ・フィクション』のときには立錐の余地もないほど満員の記者で埋まるのだから、タランティーノは映画史に残る出世頭だと思う。

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1993年『レザボア・ドッグス』日本公開時の反応は……

さて、『レザボア・ドッグス』が超気に入った私は、普段は絶対にやらないことをやってしまった。日本配給が親しかったヘラルド・エースと決まったと知り、字幕翻訳をやりたいと自分を売り込んでみたのだ。意外にもそんなお願いが通って、今に至るまで私の翻訳を使っていただけることになった。翻訳者冥利に尽きると思っている。

『レザボア・ドッグス』© 1991 Dog Eat Dog Productions Inc. All Rights Reserved.

今では傑作と名高い『レザボア・ドッグス』だが、公開はまったく上手くいかなかった。試写の評判は真っ二つで、悪い方が多かった。芳しくない試写の反応を聞くうちに、「このままだとカルト映画にされてしまう」と不安が募ったが、予感が的中、興行は散々な結果に終わった。実は、タランティーノ作品が受け入れられるようになったのはトニー・スコットが監督した『トゥルー・ロマンス』(1993年)がヒットしてからだった。ある意味、トニー・スコットの職人技で、見事にエンターテイメント化された『トゥルー・ロマンス』を経由することで、癖の強いタランティーノ・ワールドに観客が接近しやすくなったと言えるのかもしれない。

純粋無垢なタランティーノ・ワールドをスクリーンで

30年を経て、改めて『レザボア・ドッグス』を見てみると、そこに純粋無垢なタランティーノ・ワールドがあることに気づく。

『レザボア・ドッグス』© 1991 Dog Eat Dog Productions Inc. All Rights Reserved.

『レザボア』以後のタランティーノは、ひたすら映画のサブカル化、饒舌化に邁進していく。今のところ最後の監督作品である『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)は上映時間2時間41分(2時間51分のエクステンデッド・カット版あり)、その前の『ヘイトフル・エイト』(2015年)は2時間48分、『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)は2時間45分と、軒並み3時間近い。映画の知識が豊富で、語りたいものが山ほどあるタランティーノならでは長さであり、長くても濃密でダレないところはさすがだ。

だが、それに比べて『レザボア』の1時間40分は奇跡のように短い。短く、切れ味鋭い。その後の映画で発展することになるネタが、そこここに散見される。今のタランティーノを知らなかった30年前には、見てとることの出来なかったタランティーノがそこにいる。この機会に、ぜひ大きなスクリーンで。

『レザボア・ドッグス』© 1991 Dog Eat Dog Productions Inc. All Rights Reserved.

文:齋藤敦子

『レザボア・ドッグス』は2024年1月5日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

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