チョウザメに噛まれても特に問題ないワケ 吸い込むことに特化した口の構造だから?
キャビアの親として知られるチョウザメは、もしかすると日本で最も「誤解されている」魚かもしれません。
中国で「チョウザメに噛まれる事故」が発生
先日、魚に関するとある「映像ニュース」が話題になりました。中国の水族館で撮影されたというその映像では、水槽の中でパフォーマンスをしている女性が、近づいてきた巨大魚に突然頭を噛まれるというハプニングが映っています。
その巨大魚は世界各地の大河に生息する巨大魚チョウザメ。大きな口で女性の頭を丸呑みするように噛みついており、悲劇を連想させるに十分なものです。
しかし実際のところ女性は大きな怪我なく逃げることに成功し、しばらくの休業のあとまた復帰する予定なのだそう。
筆者も噛まれてみた
これは全く偶然なのですが、筆者もちょうど先月、チョウザメに噛まれる機会を得ていました。
それは長野の山奥で経営されているチョウザメ養殖場に見学に行ったときのこと。数十cmサイズのチョウザメが泳ぐプールに手をいれる許可をもらったので、早速浸してみたのです。
するとすぐに1匹のチョウザメが近づいてきて、筆者の指にぱくりと噛みつきました。一瞬ビックリしましたが、全く痛みなどは感じず、チョウザメの方も特段気にすることなくすぐに離れていきました。もちろん怪我など一つもありません。
そもそもチョウザメはサメではない
軽い怪我を負った女性には申し訳ありませんが、冒頭のニュースは、ある程度魚に詳しい人なら「バズ狙いの大げさ表記」と感じるものかと思われます。というのもチョウザメには鋭い歯がなく、噛みつくよりは吸い込むことに特化した口をしているため、噛みつかれても大事には至らないのです。
そもそもチョウザメはサメとつきますが、サメとは全く関係ない魚です。彼らは目が退化していて前がよく見えておらず、頭部に1列に並んだ4本のヒゲで匂いや振動を探知することで餌を探していると考えられています。
この事故は、チョウザメが水中で泳いでいた女性の頭部を餌と勘違いし、飲み込もうとしたことでおきたのではないかと思われます。もしチョウザメの泳ぐ水域で泳ごうとする人がいたら、餌と勘違いされないような振る舞い(正解はわかりません)が必要となるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>