【岡部旗店+plus Galleryの矢野晶子さん個展「扉と小窓」】 静岡新聞連載のイラスト19点。一つ一つに感じる「物語」
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は三島市の岡部旗店+plus Galleryで6月15日まで開催中の矢野晶子さん(御殿場市)の個展「扉と小窓」を題材に。
静岡新聞の教育面で2023年6月から2024年3月まで掲載した連載コラム「思春期の心 支える力」のイラストを担当した矢野さんが、その原画を中心とした個展を開いている。
連載は、静岡市のスクールカウンセラー蔭山昌弘さんが、主に中高生とその親に向けた実践的かつ心温まるメッセージをつづった全30回。手前みそだが、社内外で大きな反響を得た。それは蔭山さんのテキストはもちろんだが、そこに寄り添う美しいイラストによるところも大きい。
展覧会では全19点の原画を見ることができる。テキストと切り離された正方形のイラストを見ると、一つ一つに「物語」が感じられる。「不登校」「自己肯定感」「受験」「親子の信頼」といった、それぞれの作品に託された連載のメッセージも喚起されるが、それ以上にビジュアルとしての力を感じる。
新聞掲載時との大きな違いは、水彩画の画用紙を使ったという絵肌の質感と背景の「濁り」である。矢野さんによると、ローラーで下地をつくりその上に着色しているという。基本的にはアクリル絵の具を使う。マットな色合いなのにカラフルな印象がある。これはパソコンを使った彩色では実現できない味わいだろう。
矢野さんは「気持ちが前向きになるような色合いを考えた」という。こうして並んだ作品群を見ると、その意志が貫徹されていたことが分かる。多くの読者にとって、「小窓」のようなイラストが広い世界への「扉」になっていたのではないだろうか。
(は)
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■岡部旗店+plus Galleryの矢野晶子個展「扉と小窓」
住所:三島市中央町2-8
開廊:午前11時~午後6時
会期:6月15日(日)まで