「人と人が繋がる素晴らしさを教えてくれた」[Alexandros]川上洋平、ダコタ・ジョンソンとショーン・ペンによるタクシー内を舞台にした会話劇『ドライブ・イン・マンハッタン』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】
大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは、ダコタ・ジョンソンとショーン・ペンというプライベートでも友人同志だという2大スターによる『ドライブ・イン・マンハッタン』。夜のニューヨークを走るタクシー内を舞台に二人だけの芝居で織りなすワンシチュエーションの会話劇を語ります。
──『ドライブ・イン・マンハッタン』はどうでしたか?
とても良かった。My Favorite Movieがまた誕生しましたね。単純に好みだけど、秀逸な映画だし、人に薦めたくなる。
──夜のニューヨークを走るタクシー内のワンシチュエーションムービーで、ショーン・ペンがタクシーの運転手役でダコタ・ジョンソンがそのタクシーに乗るお客さん役です。
最近の車内のワンシチュエーションムービーというと、トム・ハーディー主演の『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』やこの連載でも取り上げた『ナイトライド 時間は嗤う』とか一人の印象が強かったけど、『ドライブ・イン・マンハッタン』は二人なのが珍しいなと。去年中国ツアーの帰りの機内で観たんですけど、中国は割と距離が近いということもあって後半に差し掛かったところで着陸してしまって。
──残念でしたね。
そう。だからようやく観れて嬉しかったし、途中で熱が冷めなかったのもすごいなと思った。そして「飛行機映画として完璧だな」って思いました。夜の時間帯の話で、淡々としているから飛行機という1人で集中できる空間にぴったり。だからもし観る時はそんな気持ちを作ってもいいかも(笑)。
──確かに。ショーン・ペンとダコタ・ジョンソンはプライベートで友人同士でダコタ・ジョンソンがショーン・ペンに声をかけて、ショーン・ペンは『ミルク』の後、映画出演に消極的だったけど、内容に惹かれて出演することになったらしいです。
年齢的には父と娘くらい差が離れているけどプライベートも仲が良いらしいですね。劇中の二人の関係性にも合っていて演じるには相応しい。劇中の二人は結局はっきりとした年齢はわからないけど、一見相容れない二人の感情がじんわり絶妙に入り混じっていく様が心地好かったですね。ちょっとノックして入って、覗いて、出てきて、と思ったら土足で踏み込んでいくような。でも失礼まではいかなくて。僕、この世の中で一番相性の悪いペアが「若い女性」と「おっさん」だと思っているのですが(笑)、映画を観ながら最初ショーン・ペンに対して「あー、あんまり若い女性に話しかけない方がいいよ」っていう緊張感を覚えました(笑)。
■老害感で緊張感が出るところがおもしろかった
――確かに(笑)。
でもダコタ・ジョンソンはショーン・ペン案じるタクシー運転手に対してどこかで父性を抱いている感じもあって。もしくは初恋相手の学校の先生みたいな錯覚もあるのかな?みたいなこそばゆさがありました。でも基本的に程よくいなしたり、会話に乗ってあげてる。そういうことに対応できるぐらいの余裕感を持ってますよね。
──大人の器量のある女性として。
そう、「私ちゃんと対応できますよ」みたいな。でも蓋を開けたらなんと年上の男性と不倫している事実が発覚する。そこが最初にドキッとするポイントでもあって、しかもペンがそれを見破る。「この人鋭いんだな。ただの老害っぽい運転手じゃないんだな」ってことが垣間見えて一気に話に引き込まれていきましたね。老害感で緊張感が出るところがおもしろかったです。
――確かに老害とちょっとお節介な人情味みたいなものって紙一重ですよね。
そう(笑)。空港とかでたまに「この二人はいわゆるパパ活だろうな」みたいなカップルを見かけるんですよ。それが良い悪いはどうでもいいんですけど、どういう会話をするのか気になって。おじさんの方は鼻息荒いけど、若い女性の方はずっとスマホをいじっている、みたいなのは割と典型的なパパ活シチュエーションだと思うんですが、そういう光景を見ると同じ男として「情けないな」って思ったりする(笑)。だから『ドライブ・イン・マンハッタン』を男性が観ると最初「ショーン・ペン、それくらいで止めときなよ! 踏み込み過ぎ!」って心配しちゃうっていう。僕も昔は思わず知らない人に話しかけたこともありましたけど、今はもう老害に差し掛かってますからね(笑)。
――若く見えるんで大丈夫だと思いますけど(笑)。
(笑)でもショーン・ペンですからいらぬ心配なんですよね。いやらしさを一切感じない。さっき小松さんが言ってた人情味の方に傾いている。
――下町感のあるふれあいみたいな。
てやんでえ節みたいな感じで乗り切ってますよね。「ネエちゃんかわいいね!」みたいなノリに聞こえなかったのはやっぱすごいよな。
■そこに気づくショーン・ペンがまた鋭い
──ショーン・ペンは「探偵を気どる気はない」って言ってましたけど、本当探偵みたいに女性に対してどんどん分析しつつ、彼女が抱えてる闇や孤独にするする踏み込んでいくという。
そこで説教まではいかないけど、ちょっとアドバイスするシーンがあるじゃないですか。そこで「俺も過去にこういうことがあったから君のこと心配してるんだよね」みたいなことが垣間見えて、ダコタ・ジョンソンが「そういうことだったのね」みたいに納得して。ああいうやりとりも良かったですね。
──確かに。
小松さんはああいうタクシーでのシチュエーションはどう思いますか?
──恋人から卑猥なメールが送られてきている時に運転手さんにいろいろ探るように話しかけられるって、前からも横からも圧がある感じで大変だなと(笑)。でもダコタ・ジョンソンは嫌じゃなさそうでしたよね。
慣れもあるんだろうけど、余裕感がありますよね。彼氏のそのメールに応じてるから、結構流されやすい女性なのかなと思いました。他の仕草からもパパ活的な不倫じゃなくて恋愛感情のある不倫なんだなっていうのがわかりますよね。そこに気づくショーン・ペンがまた鋭いんだけど。
──まさに探偵でしたよね。
女性がどうとかフェミニズム的な話になっていくのかとちょっと思ったんですけど、そうじゃなくて人と人が繋がる素晴らしさを教えてくれた映画でした。
■最初から最後まで一線を越えないところが好みでした
──ネットでのやりとりが増えることで直接的な交流が希薄な時代になってきてますけど、ショーン・ペンも序盤に「現金払いの時はチップをたくさんもらえたけど、アプリになってもらえなくなった。アプリなんてくそくらえ」みたいなセリフを言っていて。そんな中での血の通った交流が描かれていますよね。
そういうことですよね。あのチップのオチも粋でしたよね。
――ですね。
最初から最後まで一線を越えないところが好みでした。エモーショナルな展開はあるんだけど、結局人は人なわけで。そこにも余裕感や切なさみたいなものがあって、2022年のカワカミー賞に入れた『コンパートメント No.6』にも通じるなと。
――確かに。
あそこまで距離が近くならないところもクールで映画としてかっこよかったですね。あと、タクシーの中って異質な空間なんだなと。知らない人同士が数十分の距離を一緒に走るっていう。そして、ああいう会話をしているタクシーの外では事故渋滞が起こったりして。世の中はずっと動いているんだなと。そういうことにも改めて気づかされました。監督のクリスティ・ホールさんはこれが初監督作で元々劇作家だったらしいんですけど、すごく納得しました。
──ワンシチュエーションの舞台感がありますよね。
そう。舞台にしてもおもしろそう。この連載は次回のカワカミー賞が最終回ですが、レギュラー回のラストを良い映画で締め括れて良かったです。
取材・文=小松香里
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