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介護職のための腰痛予防!研修・ストレッチで腰への負担を軽減する方法を解説!

「みんなの介護」ニュース

藤野 雅一

介護現場における腰痛の実態

介護職の腰痛発生率

介護職は、他業種と比較して腰痛の発生率が高い職業です。厚生労働省の調査でも、保健衛生業に従事する労働者の多くが腰痛を経験しており、腰部への負担が大きい現状が指摘されています。

腰痛は全業務上疾病の約6割を占めており、介護労働者の健康維持だけでなく、業界全体の人材確保にも影響を与える深刻な問題となっています。厚労省の2021年「労働災害統計」によれば、保健衛生業での負傷のうち、「動作の反動・無理な動作」による腰痛などの事例が5,847件と多数を占めています。

業種別の腰痛発生割合を見ると、保健衛生業が全体の約24%を占め、製造業や商業・金融・広告業、運輸交通業などを上回っています。この割合は年々増加傾向にあり、2021年には24.2%に達しました。

腰痛発生のメカニズムと介護特有のリスク

腰痛発生の主な要因は「動作要因」と「環境要因」に大別できます。

動作要因とは、腰に過度な負担を与える動作を指します。介護現場では、利用者を持ち上げたり移動させたりする際に腰に大きな負担がかかります。特に前かがみの姿勢や中腰での作業が多く、これが腰痛の主要な原因となっています。

介護現場特有のリスクとして、利用者の体重や状態に応じた適切な介助が求められる点が挙げられます。対象・動作別腰痛発生割合の調査では、保健衛生業における腰痛の83.5%が「人」を対象とした動作に関連しています。つまり、利用者の身体を支える介助作業そのものが腰痛発生の主因なのです。

腰痛予防の重要性と組織的な取り組みの必要性

腰痛は介護職員の健康を守るうえで最も重要な課題の一つです。組織としての腰痛予防対策は、個人の取り組みだけでは不十分です。

厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」を策定し、介護現場での腰痛対策を推進しています。この指針は、作業管理、作業環境管理、健康管理の三つの側面から、総合的な対策を実施することを求めています。

具体的な組織的取り組みとしては、以下のような対策が効果的です。

定期的な腰痛予防研修の実施 福祉用具の導入と適切な使用方法の指導 作業環境の改善(適切な照明、滑りにくい床面など) 腰痛健康診断の定期的実施と早期発見・早期対応

腰痛を「個人の問題」と捉えるのではなく、職場全体の課題として取り組むことが重要です。組織的に腰痛対策を講じることで、職員の健康維持と同時に、介護サービスの質の向上、人材確保にもプラスの効果をもたらします。

介護職のための効果的な腰痛予防と対処方法

無理のない介助技術の習得

介護職において、無理のない介助技術を習得することは腰痛予防の基本です。ボディメカニクスを理解し、最小限の力で利用者を支える技術を身につけることが、腰への負担を軽減する第一歩となります。

ボディメカニクスの基本原則として、以下の点に注意しましょう。

作業時は最大に腰椎を反った状態から少し戻した状態を保つ 作業対象や利用者に体を近づけて作業する 低い姿勢になる時は膝を曲げる 体をひねった状態での介助は避ける 作業面の高さを上げる(ベッドの高さを調整するなど)

介助の際には、複数人での協力を促進し、重い利用者を一人で持ち上げないようにすることが大切です。

また、社会福祉施設の死傷者数は、2021年には10,045人に上っており、依然として高水準で推移しています。特に「動作の反動・無理な動作」による災害が3,433件と最も多く、次いで「転倒」が3,272件となっています。これらのデータは、腰痛予防はもちろん、大きな怪我や事故を防ぐためにも適切な介助技術の習得が重要であることを示しています。

それだけでなく、利用者の残存能力を最大限に活かすことも重要です。利用者ができることは自分でしてもらい、必要な部分だけを介助することで、介護者の負担を減らすことができます。

例えば、立ち上がり動作では、利用者の自然な動きを活かし、重心移動を利用することで、介護者の腰への負担を軽減できます。

福祉用具の適切な使用法

福祉用具は介護職員の腰痛予防において非常に重要な役割を果たします。適切な福祉用具を使用することで、利用者の移動や介助が容易になり、職員の身体的負担を大幅に軽減できます。

主な福祉用具と効果的な使用法を紹介します。

リフト 設置式リフトやスタンディングマシーンは、利用者を持ち上げる際の腰への負担を減らす効果があります。リフトを使用する際は、適切な吊り具(スリング)の選択が重要です。利用者の体格や状態に合ったサイズと形状のスリングを使用しましょう。 スライディングボード・スライディングシート これらの用具は、ベッドから車いすへの移乗や、ベッド上での体位変換に役立ちます。スライディングシートを使用すると、摩擦を減らして少ない力で利用者を動かすことができます。 持ち手付き補助ベルト 歩行介助や立ち上がり介助の際に使用します。利用者と介護者の双方が装着することで、安全な介助が可能になり、とっさの転倒時にも共倒れを防ぐ効果があります。

福祉用具の導入には一定のコストがかかりますが、腰痛による休業や離職のリスクを考えると、長期的には施設運営のコスト削減にもつながります。「介護労働者設備等整備モデル推奨金」制度など、福祉用具購入費用の一部を助成する制度も活用できます。

腰痛になってしまった場合の適切な対処法

腰痛が発生してしまった場合、適切な対処法を知っておくことが、早期回復と慢性化防止のために重要です。

特異的腰痛への対処法

坐骨神経痛のような足のしびれを伴う場合には、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症が疑われるため、医療機関での精密検査が必要です。特に以下の症状がある場合は、重篤である可能性があり、速やかに医師の診察を受けるべきでしょう。

尿(便)が出づらい、出ない 足の力が入りづらい 安静にしていても痛い(横になっても痛みが楽にならない)

急性腰痛(いわゆるぎっくり腰)の対処法

突然の腰痛が起きた場合、いわゆる「ぎっくり腰」と呼ばれる腰椎捻挫の可能性があります。

急性腰痛の対処法としては、以下のポイントが挙げられます。

横向きか上向きで膝を曲げ、エビのような姿勢で横になる 痛みが楽になるまで医師の処方した鎮痛剤を服用する 腰痛ベルトやコルセットは痛みが和らぐ間だけ使用し、長期間の装着は避ける(腰を支える筋力低下の原因になる) 外出先で腰痛に襲われた場合は、横になれる場所を探すか、壁に寄りかかるなどして姿勢を保持する

慢性腰痛への対処法

慢性腰痛(3ヶ月以上持続する腰痛)への対応においては、心理的・社会的要因にも目を向けることが重要です。慢性腰痛者は「腰痛恐怖回避思考」というネガティブな思考を背景として身体活動を制限するネガティブな対処行動に陥りやすい傾向があります。

調査によると、仕事に支障をきたした慢性腰痛者の対処行動として、「安静」が74.4%と最も多く、次いで「コルセット・腰椎ベルト」が62.1%、「整体・鍼灸を受診」が44.2%となっています。

しかし、最近の研究では、過度の安静は回復を遅らせたり、その後の腰痛の再発率を高めたりする可能性があることが指摘されています。当初の動くことができない状態を脱したら、可能な範囲で普段通りの活動を維持するよう努めることが推奨されています。

慢性腰痛への効果的な対処法としては、以下のアプローチが考えられます。

適切な医療機関での診断と治療(必要に応じてリハビリテーションを受ける) 過度の安静を避け、日常生活動作を維持する 職場での作業方法の見直しや環境調整を行う

日常的に実践できる腰痛予防

勤務前後にストレッチを行う

勤務前後にストレッチを行うことは、腰痛予防に非常に効果的です。ストレッチによって筋肉の緊張を緩和させ、血行を促進させることで、腰痛のリスクを大幅に低減できます。

介護現場で簡単に実践できるストレッチングの例を紹介します。

手すりや椅子を利用したストレッチ

大腿前面(太ももの前側)のストレッチ 手すりや椅子をつかみ、片足を後ろに曲げて足首を持ち、20~30秒間姿勢を維持する。 下腿後面(ふくらはぎ)のストレッチ 手すりや壁に手をつき、片足を後ろに伸ばして踵を床につけ、20~30秒間姿勢を維持する。 体側のストレッチ 手すりや壁に片手をつき、反対側に体を傾けて20~30秒間姿勢を維持する。

廊下やフロアでできるストレッチ

大腿後面(太ももの後ろ側)のストレッチ 片足を前に出して膝を軽く曲げ、もう一方の脚は伸ばしたまま上体を前に倒す。 背中のストレッチ 手すりに両手をかけ、肩の高さよりやや低い位置で、背中を丸めながら体を引き下げる。

ストレッチングを効果的に行うためには、いくつかの重要なポイントがあります。

まず、ストレッチ中は息を止めず、ゆっくりと呼吸しながら筋肉を伸ばしていきましょう。また、反動やはずみをつけるのではなく、じっくりと時間をかけて伸ばすことが大切です。

無理に伸ばして痛みを感じるのではなく、心地よく伸びていると感じる範囲内で行いましょう。ストレッチの際は、20〜30秒かけてその姿勢を維持し、終わる際には急に戻すのではなく、ゆっくりと元の姿勢に戻すようにしてください。

腰痛の兆候が現れたときに迅速に対応することで、重症化を防ぐことができます。

腰の筋力強化エクササイズを行う

腰痛予防には、腰周りの筋力を強化するエクササイズが非常に有効です。特に腹筋や背筋を鍛えることで、腰への負担を軽減し、姿勢を安定させることができます。

効果的な腰の筋力強化エクササイズをいくつか紹介します。

両肘、両膝をつけた姿勢からの膝伸ばし 両肘から手首までは肩幅と同じ幅にし、こぶしは軽く開き、親指を立てる 左右の肩甲骨を合わせるように肩を入れ、あごを軽く引く お尻を突き出し、お腹とお尻を引き締めて膝をつく 片方の膝を伸ばしながらまっすぐに脚を後ろに伸ばす 4秒間かけて上げ、8秒間維持し、4秒間かけて下ろす 左右交互に4回ずつ実施する 両肘、両膝をつけた姿勢からの膝・腕伸ばし 基本姿勢から、対角となる肘と膝(右肘と左膝、または左肘と右膝)を伸ばす 胴体からまっすぐ伸びた状態で、床と平行になるところまで伸ばす 4秒間かけて上げ、8秒間維持し、4秒間かけて下ろす 左右交互に4回ずつ実施する

これらのエクササイズに加えて、プランクやブリッジなども腰の筋力強化に効果的です。筋力トレーニングを始める際は、軽い負荷から始め、徐々に負荷を増やしていくことが大切です。

筋力トレーニングを始める際は、以下の点に注意しましょう。

軽い負荷から始め、徐々に負荷を増やしていく 正しいフォームを維持する(無理な姿勢は避ける) 呼吸を止めずに、自然な呼吸を心がける 痛みを感じたらすぐに中止する 週に2~3回程度の頻度で継続する

腰痛予防のための研修を行う・受講する

腰痛予防のためには、定期的な研修を行うことが重要です。研修を通じて、最新の腰痛予防策や介助技術を学ぶことができ、職員の意識を高めることができます。

厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、介護作業など腰に著しい負担がかかる作業に従事する労働者に対して、腰痛予防のための労働衛生教育を実施することが求められています。

腰痛予防のための研修内容としては、腰痛に関する知識、作業環境、作業標準等、スライディングシート等の福祉機器、介護機器等の使用方法、作業前体操、腰痛予防体操が挙げられています。

研修の実施にあたっては、以下の点に留意することが大切です。

採用時または当該業務への配置転換時には、必ず実施する 腰痛患者発生時、作業内容・工程・手順・設備を変更した際等にも実施 講師は腰痛の予防について十分な知識と経験を有する産業医等が適当 視聴覚機器の使用や小グループ指導、討議等の方法を取り入れ、教育効果を高める工夫をする

研修で取り上げるべき重要なテーマの一つに「作業標準」があります。作業標準とは、業務遂行における手順、段取り、ルールなどを意味し、使用する機器・設備、道具・補助具、作業方法などの実情に合わせたものである必要があります。

特に、利用者の身体状態の差異、作業ごとの手順、介護者の役割分担と時間管理、を作業の種類ごとに整理し、介護者の役割分担と時間管理を明確にすることが求められます。

腰痛予防研修は一度受講して終わりではなく、定期的に最新の知識や技術を学ぶ機会として継続的に実施することが望ましいでしょう。特に介護技術や福祉用具は日々進化しているため、常に最新の情報にアップデートすることが重要です。

まとめ

介護職は他業種と比較して腰痛発生率が顕著に高く、保健衛生業の腰痛経験者は85%に達することもあり、介護業界の深刻な問題となっています。

腰痛発生の主な要因は、利用者を持ち上げる際の前かがみ姿勢や中腰での作業など「動作要因」と、職場環境や対人関係のストレスなどの「環境要因」です。

効果的な腰痛予防策としては、ボディメカニクスを活用した無理のない介助技術の習得や、リフトやスライディングボードなどの福祉用具の適切な使用、腰痛予防のためのストレッチや定期的な腰痛予防研修の受講が重要です。腰痛を個人の問題ではなく組織全体の課題として取り組むことで、職員の健康維持とサービス質の向上が期待できます。

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