うさぎカフェ ~ 障がいのある子を育てた仲間が10年以上運営し続けている、保護者のための居場所
子育てをしていると「〇〇ちゃん・□□くんのお母さん」と呼ばれることが増え、生活の中心は子どもになりがち。
その子どもに障がいがあったり、発達に不安があったりするとなおさら、親子で通う必要のあるお出かけなども増えます。
障がいのある子の子育てには、健常児や定型発達の子ども以上に家庭での支援も求められますが、どの保護者も子どもの障がいを病院で宣告されたその日から障がい児を育てるスペシャリストにはなれません。
障がいのある子の保護者も一人の人間。
子どものこと、夫婦関係のこと……「私」を主語に誰かと話し、おいしいものを食べて、元気になる時間が必要です。
倉敷市役所から徒歩圏内にあるうさぎカフェでは、障がい児を育てた経験のある仲間が、障がい児・者や発達に不安のある子どもの保護者を対象としたカフェ形式の相談の場を設けています。
当事者だけでなく、自分の周りに当事者がいるかもしれないすべての人に知ってほしい、利用方法や運営者の想いを紹介します。
うさぎカフェとは
うさぎカフェは、障がい児の保護者をサポートする団体である認定NPO法人 ペアレント・サポートすてっぷ(以下、「すてっぷ」と記載)が運営する、カフェ形式の相談の場です。
すてっぷの構成メンバー、中心の運営メンバーは障がい児・障がい者の親。
活動は一貫して「保護者」にスポットを当てており、うさぎカフェも障がい児・者や発達に不安のある子どもの保護者を対象としています。
毎週火曜日と木曜日(月に一度だけ日曜日や祝日の営業もあり)の午前10時~午後3時まで営業しています。
また、2か月に一度のペースでお父さんのための夜カフェ「ウサギ食堂」も開催しています。こちらは、その名の通り障がい児・者や発達に不安のある子どものお父さんを対象とした夜カフェ。
ランチタイムはスタッフも利用者も女性が多いですが、「ウサギ食堂」はスタッフも利用者も男性。お父さんのためのピアサポートの場として機能しています。
障がいのある子を育てた経験のある仲間が提供するカフェメニュー
子育て中、特に障がいのある子どもを育てる保護者にとって食事の時間は、介助や子どもの生活や言葉の学びを促すことに気を取られて、ゆっくりと味わう時間が取れない人もいるでしょう。
うさぎカフェでは、障がいのある子どもを育てた経験のある仲間が、あたたかい食事を提供します。
特に人気メニューは、日替わりランチ。
取材時のメニューは、鳥そぼろ三色丼。
どんぶりと味噌汁だけでなく、副菜も付いていて栄養満点です。
ドリンク(コーヒー・紅茶・カフェオレ)も付いているので、食後のおしゃべりも弾みそうです。
なお、日替わりランチは食数に限りがあるので、確実に食べたい人は予約をしてから足を運びましょう。
そのほかにも、パフェやフレンチトーストなどのスイーツもあるので、ドリンクだけでなくスイーツも頼むかたが多いようです。
うさぎカフェの利用方法
うさぎカフェのコンセプトは「いつでもそこにある場所」。そのため、予約なしで訪問可能です。
外観が住宅街にある民家のため「入って良いのかな?」と不安になるかもしれませんが、営業日は看板が外に出ていて、玄関の扉も開いています。
冷房や暖房を使用している日、大雨の日などは玄関の扉が閉まっていることもありますが、うさぎカフェの看板が外に設置している日は営業日です。
食事の持ち込みは原則不可ですが、相談だけの利用の場合はオーダーなしでも利用可能です。
一人での利用でも、スタッフが「最近調子どう?」などと障がい児・者や発達に不安にある子を育てるイチ仲間として話しかけてくれます。
また、複数人での利用も可能。
障がい児・者や発達に不安にある保護者同士での利用も、普段から子育ての悩みを相談している友人でも、当事者である利用者が一緒に来て心地よく過ごせる相手であれば広く受け入れています。
ただし、スペースの関係で一グループにつき四人程度、相談支援の場であることを理解して利用しましょう。
利用を悩んでいるかたへ
うさぎカフェに興味はあるけれども、一歩踏み出せない人のために、公式LINEもあります。
うさぎカフェ主催のイベントなどの情報が配信されるので、お守りがわりに登録しておいて、行けそうなイベントをチェックするのもおすすめです。
公式LINEの登録者は1,000人以上。
倉敷市内に、障がい児・者や発達に不安のある子どもの保護者がこんなにもたくさんいると思うと、心強いです。
うさぎカフェの営業を続けて10年以上。障がいのある子どもを育てる仲間とともに、保護者の居場所を運営し続ける安藤希代子(あんどう きよこ)さんに話を聞きました。
代表の安藤希代子さんへインタビュー
うさぎカフェを運営する認定NPO法人すてっぷで代表を務める安藤希代子(あんどう きよこ)さんに、話を聞きました。
「悩んだそのときにすぐ行ける場」を目指して
──うさぎカフェのコンセプトを教えてください
安藤(敬称略)──
障がい児・者と発達に不安のある子どもの保護者とその家族を対象とした、カフェ形式の相談の場です。
週に二回、火曜日と木曜日の午前10時から午後3時まで営業していて、月に一度だけ日曜日または祝日にも営業しています。
うさぎカフェをはじめるまでは、月に一~三回程度相談の場を作っていましたが、日数が少ないとその日に都合が悪かったら相談できないですよね。
また、その場に行ってみたは良いけれども、自分の悩みを口に出せずに帰ってしまう日もあると思うんです。でも、次の相談の場まで日が空いてしまうと、また別の悩みができて初回の相談したかったことを忘れてしまう。
根本的な悩みが解決しないことには、傷跡に膿がたまるように後々に悪い影響を及ぼしかねません。
だから、保護者が悩んだそのときにすぐ行ける場を作りたいと思って、うさぎカフェをはじめました。
──相談の場にはさまざまな形式があると思いますが、カフェ形式での営業にこだわった理由はありますか?
安藤──
午前中に相談に来た人の話がとても盛りあがって「さらにずっと話したい!」と思っても、お昼がやってきてお腹が空いたら一度場を離れますよね。その時間がもったいないなと思ったんです。だから、ここでご飯も食べられたら話が続けられるだろうと考えてはじめました。
私たちスタッフも、すてっぷを立ち上げた頃にお昼を挟みながら作業したことがあって。そのときは、私がみんなのお弁当を作って持って行っていたんです。すると、場がとても和んだんですよ。
実際にカフェでも、食事を提供することで場の雰囲気が良くなるような気がしています。
日替わりランチを食べながら全然知らない人と目が合って「これおいしいですね」って会話が生まれて、保護者同士の会話が弾んでいる姿を見て……食事って人と人をつなぐ役割を担っているんだな、と思わされます。
カフェメニューも、保護者のかたのために一つひとつていねいに用意していますよ。
というのも、保護者の昼ご飯って夜ご飯の残りやお弁当の残り物になりがちなんです。
いつもは子ども中心の保護者だからこそ、うさぎカフェに来た日は仲間として精いっぱいのおもてなしをしたいと思っています。
いつもそこにあり続ける「保護者」の味方
──専門家ではなく同じ障がいのある子をもつ親が相談支援をするメリットを教えてください
安藤──
教育や福祉の専門家に相談するとなると、どうしても身構えてしまうこともあります。
また、そのような専門家の多くは障がい児・者や発達に不安のある子どもを主語に語りがちですが、私たちは「保護者」を主語に話をします。
「あなたはどうしたいの?」「あなたは、何を不安に感じているの?」と保護者を主語に、保護者の味方でいられるのが私たちの強みです。
また、スタッフも同じ経験をしてきた仲間なので、弱みも赤裸々に語ってもらえることが多いです。
保護者が幸せであることは、子どもの幸せや自己肯定感に大きく影響すると考えているので、まずは保護者を主語に、助言者ではなく相談相手として関わるようにしています。
──利用者は、初回から相談したい話題をもってくる人が多いですか?
安藤──
うさぎカフェの営業をはじめてから10年以上が経過し、すてっぷとしてもさまざまなイベントを開催してきたので、私たちがどのような団体か知って足を運んでくれるかたが多くなりました。そのため、最初からスタッフに相談事を打ち明けてくれるかたが多いです。
二回目以降は、雑談を楽しんだり同じように障がいのある保護者の仲間と過ごす時間を楽しみに来て、悩みや不安があったらその都度お話してくださりますね。
もちろん、特に何も話さずにほかの利用の話を聞いているだけの人もいます。ただ、うさぎカフェにわざわざ足を運ぶ人は何かしら目的があってくる人がほとんどではないでしょうか。
そのため、仲間として「最近調子どう?」などと話しかけるようにしています。そうすると「実はこんなことで悩んでいて……」と話し出す人も多いですね。
相談しても良いし、自分のためのランチタイムや障がいのある子どもの保護者同士でいらしてもらっても構いません。
ここでの時間を心地良く過ごしていただきたいと思っています。
──10年以上の営業をとおして、利用者も続けて通っているのでしょうか
安藤──
うさぎカフェをはじめた頃の利用者の子どもたちのほとんどは「障がい児」でしたが、その子どもたちが成長してきたので、ここの利用者も「障がい者」の保護者が増えてきました。
ただ、その人たちも毎週通い続けているわけではありません。
うさぎカフェに来る余裕がなくなってしまった時期を越えて再度通うようになった人、一時期はうさぎカフェを必要としていなかったけれども子どもの進学や就労のタイミングで再度相談したいことができてくるようになった人など、使いかたはさまざまです。
でも、ここにうさぎカフェがあり続けるからこそ、必要になったときに「また行ってみよう」と思ってもらえる、本当の意味で居場所として機能しているなと実感できることが増えてきました。
「悩んだときにすぐ行ける場所」を目指してやってきたので、うれしいですね。
仲間であり友人がいる場所
──相談支援をするなかで、スタッフがしんどい気持ちになってしまうことはありませんか?
安藤──
私や事務局長の石川さんは、あまり引きずられないタイプですし、ほかのスタッフとも、営業後にその日受けた相談などを共有しています。共有の場があることで、しんどい思いも含めて共有できていますね。
そうそう。うさぎカフェのスタッフは、とにかく私語が多いんです。
それは、私たちもまた障がい児・者を育てる親という仲間だからなんですよ。相談内容に限らず、それぞれの子育てや介護、飼っているペットのこと……すぐに口に出して共有しています。
似た年代の、同じ障がいのある子を育てる仲間、友人としてスタッフをしているので、誰かだけがしんどい気持ちにならないのだと思います。
10年続いてきたからこそあらためて、必要な人にこの場所を届けたい
──10年以上うさぎカフェを続けてきて、課題はありますか
安藤──
昨年、利用者が減少しました。
もちろん、私たちが相談の場を作らなくても、障がい児・者や発達に不安のある子どもの保護者がそれぞれに相談できる場が持てているのであれば、それに越したことはありません。支援の場が役割を終えることは、喜ばしいことです。
でも、未就学児の保護者の利用率が下がっているのが現実です。つまり、継続してここに通っている保護者はいるけれども、医療機関で障がいや発達の遅れを指摘されたばかりの保護者には、まだまだ私たちの活動が知られていない可能性が高いと考えています。
そのため、私たち自身がイベントや講座など新たな企画を立ち上げたり、相談の方法もまた考え直さないといけないなと思っています。
現在、早島町観光センターで開催されている「☆はやしまの水曜日はマルシェ☆」でも毎月第一水曜日に相談支援の場を設けています。うさぎカフェよりも早島町のほうが物理的に来やすいかたや、同時出店しているハンドメイド作品を見に来るついでに雑談のように相談をしてくれるかたがいるので、需要があると感じています。
今後は、オンラインや電話など、場を問わずに相談できる仕組みなどを検討中です。
相談の場に来てもらうためのハードルを低くして、より多くの必要としている人に利用してもらえる場でありたいと思っています。
──最後に、読者へメッセージをお願いします
安藤──
知らないところに行くのは、不安もあると思います。まずは公式LINEで少しやり取りをしてからでも構いません。
来てくださるかたは大切にお迎えしますので、勇気を出して来ていただければと思います。
また、ここは「カフェ」ですが、飲食は強制ではありません。
相談だけでの利用、短時間での利用も可能なので、遠慮なくお越しください。
仲間のみなさまにお越しいただくのを、心よりお待ちしております。
おわりに
私は以前、特別支援学校の幼稚部で教員をしていました。
三歳児クラスは母子通園、学校内には幼稚部の保護者を対象とした保護者控室を設置していました。
設置理由は、保護者同士で集い相談し合える場が必要だから。
うさぎカフェのように、教員はその場に入らず、保護者同士だけで過ごす空間では保護者たちが下の名前で呼び合ったり趣味を共有し合ったり、もちろん療育の悩みなども打ち明け合っていました。
登校時は元気のなかった保護者も、保護者控室での時間を過ごして帰りの時間には元気に教室に戻ってきていて、仲間同士での時間の大切さを、日々感じていました。
障がいがあったり発達に不安があったりする我が子が幼稚園や保育所、小学校などの通常学級に通っていると、なかなか保護者同士で語り合う居場所を作りにくいので、うさぎカフェのような場所は貴重だと思います。
スタッフの子どもが知的障がいや発達障がい児・者が多いことから似たような保護者が多く集まるそうですが、視覚障がいや聴覚障がいなど身体障がいのある子どもの保護者も大歓迎とのこと。
障がい児・者や発達に不安のある子どもの保護者はもちろんのこと、そのような子どもをもつ保護者が周りにいたりこれから自分が当事者になるかもしれなかったりする、さまざまな人の心のお守りとして知っていてほしい場所ではないでしょうか。