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人付き合いが苦手でもいい。ひとりを愛するコスメティック田中さんのコミュニケーション術

MEETS

「飲み会で輪の中に入れない」「雑談が苦手で気まずい」

そんな“居心地の悪さ”を感じた人の多くが「コミュニケーション能力を磨かなきゃ」と焦るなか、「輪の中に入れないなら、それでもいい」と独自の境地を切り開いているのが、YouTuberのコスメティック田中さんです。

「陰キャ」「ぼっち」など自身のパーソナリティを赤裸々かつコミカルに発信するそのスタイルが、コミュニケーションに苦手意識を抱えたネットユーザーから支持を集めています。

今回はフリーランスエンジニアとしてさまざまな企業と仕事で関わることも多い田中さんにインタビューを敢行。「人付き合いの苦手な人が心穏やかに生きるためのコミュニケーション術」について、ご自身の経験をもとにたっぷり語っていただきました。

「輪の中に入れなくても生きていけること」を証明したい

──田中さんはYouTubeや著書で「ひとりで心穏やかに生きる術」を発信されていますが、なぜそういったテーマに関心を持たれたのでしょうか?

コスメティック田中さん(以下、田中):特別な研究をしているわけではないのですが……。学生時代から、なぜかみんなの輪の中に入れないことが多かったんです。そこにずっとコンプレックスというか、苦手意識を持っていました。

それでも発信活動を始めた理由は、「輪の中に入れなくても別に生きていけるんだぞ」ということを証明したかったからですね。下の世代に対しても、そういう生き方のロールモデルを見せたかったんです。

コスメティック田中さん。孤独マインド研究系YouTuber。千葉大学卒業後、IT企業で働くかたわら、自身の経験をベースに「集団内で孤立した人間の心理と生き抜く術」を研究・発信する。著書に『残酷な人間関係のルール』(KADOKAWA、2025年)など。

──下の世代を意識されていたとは意外でした。

田中:学生の頃「こういう大人がいたら、もっとツラさが和らいだのにな」と思うような存在になりたかった。自分の人生を正当化したいという思いと、人付き合いが苦手な人のロールモデルになりたいという、その二軸が活動のモチベーションになっています。

「冷笑」にはメリットがない

── そんな田中さんに今回は、会社員生活の中で培った人間関係やコミュニケーションの極意をお伺いします。コロナ禍を経て、近年は会社の飲み会も減っているようですが、その揺り戻しなのか「会社の人たちともっと仲良くなりたい」と考える若手も増えている(※)ようです。田中さんは職場の人間関係をどう捉えていますか?

※……マイナビ転職の調査によると、新入社員に「上司・先輩の行動で嬉しかったこと」を聞いたところ、全体では「話しかけてくれる(雑談)」「話しかけやすい(雑談)」が上位に挙がった。
2025年入社の新卒平均月収は23.4万円で前年比+1.2万円。自身の退職代行利用は躊躇する一方、他者の利用には7割以上が肯定的。|マイナビ転職( https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/24/ )

田中:僕も以前は飲み会なんて嫌だなと思っていました。でも今は、仕事をスムーズに進めるために仲良くなるという「目的意識」を持てば、それもアリだなと思えるようになりました

以前は「ただ仲良くなること」の意味が理解できなかったんです。「それ意味なくない?」って。でも、仲良くなることで仕事上のすれ違いが減るというメリットを理解できてからは、考えが変わりましたね。もちろん、ただメリットがあるから参加している、というわけではないのですが。

── では、田中さんは飲み会をはじめ会社のイベントなどに基本参加されるんですか?

田中:そうですね。誘われたものは「すべて参加」するようにしています

── それはすごい。

田中:ただ、参加はしますが、盛り上がっている輪の中には入れず、黙々とご飯を食べていることの方が多いかもしれませんね……。学生時代なら「浮いている人」扱いをされるのかもしれませんが、会社だと意外にそういう人もいるので、「これも多様性のひとつだ」とポジティブに捉えるようにしています

── 逆に「輪の中に入りたいけど入れない」と悩んでいる人も多いように思いますが、いかがでしょう?

田中:厳しい言い方かもしれませんが、輪の中に入りたいのにモゾモゾ躊躇してしまうのは、個人的にはちょっとカッコ悪いし、もったいないなと思ってしまう。それなら「自分はこういうスタイルだ」と割り切るか、輪の中に引き入れてくれる第三者の存在や、ビンゴゲームのような巻き込み型イベントなどの“(輪の中に入る)きっかけ”を待つしかないんじゃないかなと。

── きっかけといえば、会話の糸口として「天気の話」が使われることも多いですよね。

田中:そうですね。僕も以前は「天気の話なんてして何の意味があるんだ」と冷笑していたんです。でも、歳を重ねるごとに「冷笑ってメリットないな……」と感じるようになって。天気の話も、切り出されるとたしかに「共通の話題なんてないよね、そうだよね」って思っちゃいますけど、話題がないなかでも状況を共有して一体感を演出する側面もあるよなと。

── 冷笑しないというのは、相手との関係性がまだできていない新しい環境に飛び込む時も大事なことだと思いました。

田中:冷笑とは関係ないのかもしれませんが、新しいコミュニティに所属する時、「挨拶」だけはちゃんとするようにしていて

── 挨拶と聞くと当たり前のことのように思えますが、徹底するのは案外難しかったりしますよね。

田中:挨拶ってファーストインプレッションを良くする機会ですよね。コミュニケーションが苦手だと感じている人ほど、その機会を逃しちゃいけないと思います。だって、最初に挨拶しておかないと、2回目に話しかけるのが気まずくなるじゃないですか。挨拶をして、できれば「どちらのご出身なんですか?」くらいのアイスブレイクを入れておく。それだけで、その後の関係性が違ってくるので。

── 挨拶のほか、田中さんが関係の浅い人と会話する際に意識していることはありますか?

田中:そうですね、相手に「レッテル」を貼るようにしているかもしれません。

── なるほど。「レッテル貼り」と聞くと、悪いイメージもありますが。

田中:解像度が粗くてもいいので、「この人は陽気そう」「この人は真面目そう」とざっくり自分の中で分類するんです。真面目な人には畏まった感じで話すし、フランクな人にはチャットで絵文字を多用する。相手のパーソナリティを引き出してレッテルを貼り、それに合わせたコミュニケーションスタイルを固めていくことで、どんな相手とも少しは気楽に話せるようになります。

「コミュ力」という概念は存在しない?

── ここまでお伺いして感じたのですが、田中さんってかなりコミュニケーション能力が高いですよね? 目的意識を持ってイベントに参加したり、挨拶を徹底したり、人によってコミュニケーションのスタイルを使い分けたり、かなり器用に立ち回っておられる印象なのですが……。

田中:個人的に、コミュニケーション能力という言葉の解像度は「粗いな」と思っているんです。

── というと?

田中:僕もかつては「コミュ力」という一つのパラメータが存在しているのだと思っていました。世の中にはコミュ力の高い人と低い人がいる、という風に。

でもいろいろな経験をするうちに、「コミュ力」はパラメータではなく箱なのではないか、と考えるようになって。

「コミュ力」という箱の中に、雑談力、寄り添い力みたいないろいろなスキルが入っていて、人と接するなかでそのバリエーションが見えてくる。先ほど「多様」という言葉を使いましたが、コミュニケーションはパラメータの上下を競うゲームなのではなく、多様性を把握していくゲームなのではないかと。

例えば僕は「猿の毛づくろい」のような中身のない雑談は苦手ですが、「今この人喋れていないな」と相手の状況を察するのは得意。つまり、雑談力はないけど状況把握力はあると気づいたんですね。

── なるほど。「コミュ力が高い・低い」で片付けるのではなく、解像度を上げて、コミュニケーションスキルの多様性に気づくことが大事だと。

田中:そうですね。多様性に気づけないと「自分はコミュニケーションが苦手なんだ」と無駄に憂鬱になってしまいますから。それに「雑談は苦手だけど、場の空気を読むのは得意」とか、自分の得手不得手を把握して人と向き合えば、傷つかずに済むじゃないですか。

── とても説得力がありますね。なぜそうした認識を持つに至ったのでしょうか?

田中:逆説的ですが、輪の中に入れず、場を「観客」として見ている時間が長かったからかもしれません。誰がどういうキャラクターなのか、ここで自分がどう立ち回ればいいのかを客観的に判断できる。思えば学生時代も教室を観客になった気分で見ていました。「あの人、先生に当てられた時だけ声が小さくなるな」とか。その観察眼が普段のコミュニケーションに役立っているのかも。

あとは、「苦手な場所から逃げても(≒自分の居心地の良い場所だけを選び続けても)なんとかなってきた」というこれまでの経験に由来している部分もありそうです。コミュニケーションがチャット主体の会社を選ぶとか。それで苦労しなかったから「無理に自分を変えなくてもコミュニケーションはうまくやれる」と思えるようになったんですかね。

“陰キャ”と呼ばれる人でも「文字陽キャ」にはなれる

── 田中さんが普段実践されているコミュニケーションの技術をもう少し深掘りしたいのですが、いかがでしょうか?

田中:先ほど「コミュニケーションがチャット主体の会社を選ぶ」とお伝えしましたが、エンジニアという仕事柄、日頃はチャットでコミュニケーションを取ることが多くて。

その点で言うなら、「文字陽キャ」であることを心がけていますね。

── 初めて聞く言葉ですね……。

田中:要は「テキストコミュニケーションがやたらとワイワイしている」ということです。チャットのやり取りでコミカルなスタンプを乱発するみたいな。「かしこまり!」とか「うおおおお!」みたいな、勢いを感じるスタンプってあるじゃないですか。

チャットツールにおける「勢いを感じるスタンプ」の例(はてな編集部での利用例)

── たしかにありますね。ただ、こうして話している様子からは、そんなスタンプを田中さんが乱発することを想像できませんが……。

田中:僕もそうですが、コミカルだったりハイテンションなスタンプを押されると、人ってなんだかんだうれしくなっちゃうんですよ。だから、僕は関係の薄い人に対しても、「承知しました」みたいな何てことない一文にも、あえてそうしたスタンプを使います。親しい同僚ならテキストの文面も「かしこまり!」みたいに崩します。もちろん、すごく真面目な上司に対してはそんなことしませんが。

── テキストコミュニケーションは相手に与える情報が少ない分、すれ違いも起きやすいと聞きます。「文字陽キャ」的な振る舞いは相手に対する気遣いにもなりそうですね。

田中:インターネットを通じてテキストコミュニケーションに親しんできた20代、30代はみんな「文字陽キャ」のポテンシャルがあると思います。リアルでのコミュニケーションが苦手なら、テキスト上で「陽キャ」になればいいのではないでしょうか、というのが僕のスタンスです。

── その他に、テキストコミュニケーションで気を付けていることはありますか?

田中:チャットであれば、できる限りDM(ダイレクトメッセージ)ではなく、オープンなチャンネルでやり取りすることです。

気の弱い人は、密室で1対1になると大きな声に押し切られたり、理不尽なことを言われたりするリスクもありますよね。でも、みんなが見ているオープンな場であれば、相手も下手なことは言えませんし、周囲がDMなどでこっそり助け舟を出してくれることもある。

── ある種のリスク管理ですね。

田中:はい。自分の特性を理解しているからこその工夫かもしれません。「自分の身を守る」意味でも大切なアクションだと思っています。

AI時代だからこそ大切な「変わらなくても生きられる場所選び」

── 生成AIが私たちの生活に浸透し始め、ビジネスコミュニケーションのあり方も変わりつつあります。対面で誰かと会うことの価値が高まり、会話力が重視されるようになるという未来予想も出ています。そんな状況で、対人関係やコミュニケーションに苦手意識を抱えている人はどんなスキルを身につければいいのでしょうか?

田中:たしかに、接客業のような、対人コミュニケーションを主体とした仕事しか残らないんじゃないかみたいな話もありますよね。

でも僕は他人と話すのが苦手な人が、無理にその土俵に上がる必要はないと思うんです。逆に「人とは喋らないけどAIとはベラベラ喋る」という土俵で戦えばいい。AIとコミュニケーションするスキルを磨いて、AIをフル活用する側に回るわけですね。AIと喋る仕事ってこれからどんどん増えると思うので。

先ほども話しましたが、無理に自分を変えようとするのではなく、自分が変わらなくても生きられる場所を選ぶ。コミュニケーションだけでなく、そのポジショニングも、これからの時代に必要となってくるのではないでしょうか。


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( https://tenshoku.mynavi.jp/ft/salary/?src=mtc )

取材・編集:はてな編集部
写真:関口佳代
制作:マイナビ転職

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