自閉症息子の卒園式、練習でトラブル発生!先生と母の工夫で本番は!?
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
行事がある時期は、不安定になりやすい長男
特別支援学級の情緒クラスに在籍している長男けんとは、現在小学3年生。ASD(自閉スペクトラム症)と3歳の時に診断を受けました。構音障害があり、言葉が不明瞭。上手に説明することが難しいので、年長の頃は家族以外は何を言っているのか分からないことが多い状況でした。
年少の頃は、市の発達支援施設に通っていました。年中から対象外となったので、少人数でアットホームな、地域のこども園に通い始めました。
マイペースで、興味がないことは全くやらないけんとは、不安が強く、感覚過敏があり、見通しがつきにくい活動が苦手です。なので、運動会、発表会などのイベントや、それに向けた練習の時期はとても不安定になります。今回は、こども園での卒園式に向けたエピソードを振り返ってみたいと思います。
練習中、友だちを引っ張る行動をとるように…
けんとの通っていた園は、年長が1クラス。担任の先生が1名、副担任の先生が1名(合計2名)でした。普段は担任の先生がクラスを率いて、副担任の先生がけんとをはじめ、ほかのお子さんのサポート。加配という形ではありません。行事などでは、副担任の先生や、ほかのクラスの先生がけんとの隣でサポートしてくださいました。
卒園式の練習が始まってしばらく経った頃、先生から連絡がありました。式の練習中、けんとがお友だちを引っ張るというのです。家でけんとから話しを聞くと「イスを戻したかった」とのこと。なぜ、イスを戻したかったのか、理由はうまく説明できません。
予想ではありますが、「教室から講堂に運んだイスを、もとに戻して卒園式の練習を終わりにしたい」という気持ちから、イスを運ぶためにお友だちを引っ張ってしまったのかなと思いました。
どういう活動をするのか見通しを立て、練習の順番を視覚で示してもらったり、終了予定時間を、視覚で示してもらったりすることなどが、視覚優位なけんとには有効です。当時も先生が見通しを立ててくださる時がありましたが、うまくいかなかったことも多かったようです。
「できたカード」で頑張った練習
行事の練習が続く時期は特に不安定になりやすいので、先生に許可をいただき「できたカード」というのを作って持っていきました。その日の目標を掲げて、できたら先生からシールをもらって帰ってくると、あらかじめ私と一緒に決めたご褒美をゲットするというもの(その日に食べるお菓子がワンランクアップすることが多かったです)。
「お友だちを引っ張らない」ということを目標にした次の日は、お友だちを「押して」しまったり、卒園式の自分の番の練習が終わったら1人で教室へ帰る、という方法で切り抜けようとしたり……、けんとなりに考えて行動したようです。しかし、その都度、できたカードの目標やご褒美を相談し、変更していくことで、お友だちに手を出すことなく、最初から最後まで練習に参加できるようになりました。
卒園式の練習を繰り返していく度に、「こういう練習をするんだな」という見通しがけんとの中でも少しずつ立ち、自分の中で折り合いをつけられるようになっていった気がします。
卒園式で母が長男の隣の席に座る!?
子どもたちの卒園式の練習が進んだ3月の頭、先生から個別でお話がありました。卒園式で私がけんとの隣に座り(子どもたちの一番端っこの席にけんとが座るので、その隣の席)、けんとのサポートをしてもらっても大丈夫ですか?とのこと。
私も先生方には、ほかのお子さんの卒園する姿を、しっかりと見ていただきたいと思ったので、快諾。子どもたちと一緒に並ぶのは恥ずかしいかも?とも思いましたが、逆に「なかなか自分の子どもの横に座って卒園式で過ごせる機会なんてないな」という気持ちでのぞみました。
そして先生からのご提案で、卒園式の1週間前に行われた練習に私も1度だけ参加し、座る位置の確認や当日の流れを練習しました。
イスをガタガタ…するも、感動した卒園式
ついに、卒園式の当日。先生と手をつないで入場してきたけんとをバトンタッチする形で私が引き継ぎ、隣に座り、厳かに卒園式が進んでいきました。
式の最中、1番大変だったのは、イスをガタガタ揺らしたり、私に大きな声で話しかけてきたり、大きなあくびをしながら体を伸ばしたりするけんとが発する「音」を静かにすること。私がイスを手で抑え、物理的に音が出ないようにしながら、やはり隣に座ってよかったなと思いました。声を出して話しかけてくることを予想しておき、「声は出さないイラストカード」のような物を準備して見せるなど、視覚的なサポートもすればよかったと、今となっては思ったりもします。
しかし、私が想像していたよりもはるかに頑張っていたけんと。自分の席から1人で舞台まで歩き、壇上で卒園証書を受け取る姿は、とても凛々しく感動しました。予想外の行動をするシーンもほんの少しありましたが、式が苦手なけんとが最後まで出席できただけで、花丸のがんばった賞です!
小学3年生になった現在も、行事やその練習は苦手なけんとですが、マイペースではあるけれど確実にできることは増えていると感じます。これからも、けんとなりの成長を見守っていけたらと思います。
執筆/ゆきみ
(監修:新美先生より)
けんとくんの卒園式についてのエピソードを聞かせてくださりありがとうございます。
未就学の年齢ではお子さんによってはまだ卒園式の意義などはピンと来なくて、じっと座っている時間も長くて、本番は人も多くて、本人にとっては苦痛なだけの行事になることもあります。そうはいっても、一生に1度、園生活のいろいろな思いの詰まった卒園式です。お子さんらしく参加できるといいですよね。
記事にも書いていただいたように、まずは見通しをしっかりお子さんに伝わるように説明することが肝心です。スケジュールを示したり、待っている間の工夫をしたり、頑張ったらご褒美があるなど、問題行動を抑え込もうとするよりも、不安を減らしたり、頑張れるモチベーションを用意したりすることが大事です。ちょっとぐらい完璧じゃなかったとしても、お子さんも親御さんも、園生活頑張った充実感のあるよい卒園式になるといいなと思います。
けんとくんもゆきみさんにとっても、とっても素敵な卒園式になりましたね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。