「光で描く」原点を求めて。フォトグラファー DAIKI NAKAMURAインタビュー
闇の中に一筋の光を走らせると、そこには“意図”ではなく“感情”が浮かび上がる。 フォトグラファー・DAIKI NAKAMURA が追い続けてきたのは、カメラではなく 光そのものが描く世界だった。 風景写真に魅せられた少年が、ニューヨークでアートの衝撃を受け、ライトペインティングという唯一無二の表現にたどり着くまで。そして帰国後の下積み、広告の世界で掴んだ信頼、ブランドとのコラボレーション、40歳で迎えた初個展――。 何度も初心に戻りながら「光の軌跡」を探し続けてきた彼の人生は、振り返れば一貫して“表現者としての原点”を求め続けた旅だった。 本記事では、NYと日本を行き来しながら進化を続ける DAIKI NAKAMURA に、アートの源流とこれからの表現について聞いた。
ニューヨークで見つけた“自分の原点”
写真に魅せられ、ニューヨークで鍛えられた感性
—— 写真の道を志したきっかけは?
中学生のころ、自然の風景を撮るのが好きで、最初の作品は風景写真ばかりでした。ニューヨークの大学で写真を学び、卒業後も帰国せずに活動していました。
あの街は本当に刺激的で、アーティストのCDジャケット撮影やNYファッションウィーク、イベントなど、毎日が新しい出会いの連続でした。
ブルックリンで見つけた“光で描く”新境地
—— 表現が変化したきっかけは?
ブルックリンで出会った一人のアーティストです。彼が“ライトペインティング”という技法を使っていて、初めて見たとき衝撃を受けました。
光を筆のように使って描く世界、その瞬間に、自分の写真人生が大きく動いたんです。そこからは、すべての作品をライトペインティングで表現するようになりました。
「察する力」が写真を変えた、下積み時代
迷いを経て選び直した、カメラマンとしての人生
—— 帰国後はすぐにカメラの仕事を?
リーマンショックの影響もあり帰国することになったんですが、親の希望もあり「アートは趣味、仕事は仕事」と割り切り、一般企業への就職活動をしていました。
でも、自己分析を重ねるうちに「やりたいことをやれて満足だったと思える人生を送りたい」と強く思い直して、親を説得し最終的にカメラの道を選びました。
—— 写真スタジオ時代の経験は今にどう生きていますか?
物撮りをメインに行うスタジオに入社して、最初の仕事はハンガーを出したりコーヒーを出したり。
けれどそこで学んだのは、「気づく力」の大切さです。
クライアントが上着を脱ぐ瞬間にハンガーを差し出せるか、コーヒーが減っていたらおかわりを勧められるか。
その“察する力”が現場の空気をつくり、最終的な写真の仕上がりにまで影響することを実感しました。
—— テクニックよりもコミュニケーションが大事?
相手の頭の中にあるイメージを汲み取って形にするという意味では、コミュニケーションが重要でそれがカメラマンの本質だと思います。
アートとしての作品と、仕事としての写真はまったく別物。でも、どちらの経験も互いを豊かにしてくれる。
休日には友人のヘアメイクやスタイリストと作品撮りを続けていました。その積み重ねが、今の自分のアート活動の礎になっています。
30歳でつかんだ「信頼」という実感
30歳で掴んだ、広告の現場がくれた大きな転機
—— 転機になった仕事はありますか?
ブランドの広告をやってみたかったので、そういった意味で30歳を過ぎた頃に担当したrenomaの下着ブランド広告は印象に残っています。
モデル選びから絵作りまで任され、雑誌で自分の写真を見た瞬間は胸が熱くなりました。
「自分の力が結果として形になった」と感じた、忘れられない仕事です。
この頃から外部の案件も増え、自然と独立を意識し始めました。
アートを“商品”に――初めてのコラボレーション
光のアートがファッションへ──広がった表現のフィールド
—— ファッションブランドとのコラボもされたそうですね
はい。ライトペインティングの作品をきっかけに、JUN Redとのコラボが実現しました。
自分の作品がスウェットやシャツにプリントされ、ルミネなどの店舗で販売されたんです。
第5弾まで続いた長期プロジェクトで、服づくりにも携わらせていただきました。
その後、HAREとのコラボも実現し、アートが商品として世に出る喜びを実感しました。
40歳、初個展で迎えた“再出発”
40歳の誕生日に叶えた、原点を見つめ直す個展
—— 独立後、最初の大きな挑戦が個展だったとか。
39歳で独立し、最初は思うようにいかず落ち込むことも多かった。でも「ネガティブな感情はネガティブを呼ぶ」と気づいて、発想を転換しました。
そんな時、銀座で偶然立ち寄った展示会がきっかけで、後に大きな転機となるアーティストHatsumi Yoshidaさんと出会います。
Hatsumiさんは、バリにアトリエを構えて世界中で活躍するパワフルなアーティストでした。
彼女との交流を深める中で、「初めて彼女と出会ったこのギャラリーで個展を開けたら素敵だな」と思い、40歳の誕生日に実現。
6日間の開催中、多くの人が訪れ、これまでの歩みを整理する貴重な機会になりました。
再びNYへ――光と人をつなぐ個展
100人に声をかけて見えた、アートの本当の価値
—— その後、ニューヨークで個展も開催されましたね。
はい。アートコンペで「アートレジデンシー賞」をいただき、1ヶ月間ブルックリンのギャラリーに滞在し、最終週に個展を開きました。
知り合いがほとんどいなかったので、街で出会った人々に声をかけてライトペインティングで撮影し、「展示するから見に来て」と誘いました。
100人以上に声をかけるうちに、“アートを広める”ことへの情熱が膨らんでいきました。
アートを通じて心がつながる――その本当の価値を感じた瞬間でした。
アートは「生き方」そのもの
—— 改めて、あなたにとってアートとは?
自己表現そのものですね。
NYでは誰もが自分の表現を持ち、アートが生活の一部になっていました。
日本ではまだ“難しいもの”と捉えられがちですが、私はアートを楽しむことこそがアートだと思っています。
これからも自分の中にある「光」を形にしていきたいと考えています。そして、アートが持つ力を信じ、より多くの人に自分の作品を届けていきたいと思っています。
プロフィール
DAIKI NAKAMURA
雑誌・広告・CMなど幅広く手がける【フォトグラファー/映像作家】。光で描く“ライトペインティング”という技法で作品制作を行い、2024年に初個展、同年NYのアートコンペ入賞を経てブルックリンで個展開催。
HP: http://www.daikinakamura.com/
instagram: https://www.instagram.com/daikinakamuraphotography
Facebook: https://www.facebook.com/daikinakamura/