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夫婦間の日数差、育児スキル格差…男性育休の“困難”をどう乗り越えるか、専門家に聞く

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男性の育休取得が以前に比べて盛んになってきました。育休取得を推進する会社も増え、育休期間も伸びています。

とはいえ、男性育休が「浸透した」とまでは言い切れない状況もあります。

実際、マイナビ転職が2024年に実施したアンケート調査でも、男性の「理想の育休期間」は4カ月なのに対し、現実には平均約2カ月と、ギャップがあることが分かっています。

一般的に男性育休は、妻の産後うつを回避する、あるいは妻のキャリアを断絶させないといった理由からも推奨されています。ただ、そうした育休取得の必要性は感じつつ、「出世ルートから外れるかもしれない」といった不安から取得に踏み切れない男性が一定数存在することもまた事実です。

実際のところ、男性育休の取得はキャリアにどのような影響を与えるのでしょうか。
そして、育休期間を有意義に過ごすため、夫婦お互いがどんなことに気を付けるべきでしょうか。

男性育休を研究する専門家・中里英樹さんのコメントをもとに掘り下げます。

監修者

中里 英樹(なかざと・ひでき)
1967年、埼玉県生まれ。甲南大学文学部社会学科教授。専門は家族社会学。京都大学文学部卒業後、京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。著書に『男性育休の社会学』(さいはて社)などがある。

※取材はリモートで実施しました

まだまだ取得が進まない男性育休、取得者の約3割が「2週間未満」

マイナビ転職のアンケート調査(※)によると、男性育休取得者のうち約3割が「2週間未満」の育休日数、さらに約2割が「5日以内」に留まることが分かりました。男性の育休取得日数は年々増えているものの、女性の約8割が「半年以上」の育休を取得しているのに比べてまだまだ少ないと言えます。

この点について、中里さんは「回答者について、取得の時期は限定していないので、数年以上前に取得した人たちも含まれている可能性はありますが、概ね現状に沿っています」としたうえで、男女の"日数差"を以下のように分析します。

「たしかに、男性にも育休を取らせなければいけないという社会の流れは強まっています。しかし、社内のポジションや持っている仕事の特性上、短い日数しか取得できない、少なくともそう思ってしまう男性が多いのもまた事実です。

仕事の調整が大変だったり、休みの間にも電話がかかってきたりと、長期の取得をためらってしまう事情があるということですね。

一方の女性は、やはり育児を理由にする場合、男性に比べて休みを取りやすいという傾向があるかもしれません。例えば、保育園入園までは母親が家にいる必要があるという前提になっていて、それができない職場だと退職して専業主婦になっているということもあるでしょう。

女性のほうが育休を取得しやすい文化・社会的な土壌があるだけでなく、平均するとまだまだ女性より男性の方が収入が多いことから、“男性が家にいても、家計の足しになりづらい”という意識を持っている女性もいます。

そうした背景から、休みの取りづらさを乗り越えてまで、男性が長期に育休を取る必然性を男女ともに感じていないことが多いのでしょう」

育児スキルの格差が広がる? 「里帰り出産」の問題点

また、日本では以前から存在する「里帰り出産」の慣習も、男性の育休の取りづらさに拍車をかけている、と中里さんは指摘します。

「女性が実家に帰って親族の協力を得て子どもを産み、その間男性は仕事に励む、という役割分担ができてしまっているわけです。

里帰り出産というのは、実は海外だとあまり一般的ではないんですよ。

研究の一環でポーランドの共同研究者と話したのですが、里帰り出産について説明しても、最初はまったく理解してもらえなかったんです。出産時に妻が離れた場所へ行き、そこに夫がいないというのはどんな状況なんだ、と。ポーランドだったら離婚になる、と驚いていました。

逆に日本においては、男性が休みを取れず実家の支援を得ないと産後を乗り越えられないという事情があったからこそ里帰り出産の慣習が定着したわけですね。

でも、個人的には女性が里帰り出産をしなくてもいいよう、夫婦で出産と産後のタイミングを乗り越えられるよう、産育休の仕組みが整備されるべきだと考えます」

さらに、里帰り出産には「育児スキルの格差拡大」というもうひとつの問題もはらんでいると中里さんは指摘します。

「出産直後の1カ月、男性が育児に参加しないと、夫婦間で育児スキルの格差が生じてしまいます。女性はどんどん育児に慣れていくのに、男性は週末だけ『そうじゃない』と怒られながら手伝うという状況が生まれるのです。

仮に里帰り出産するとしても、子どもが生まれた直後の期間は男性も育休を取り、夫婦で協力しながら産後を乗り越えることが必要でしょう」

「夫婦の育児スキル格差」を減らす育休の取り方とは

夫婦同時に長期の育休を取り、協力して育児をこなす。このスタイルこそ理想だと思われがちですが、現実的になかなかそうはいかないケースも多いでしょう。

そこで中里さんが提案するのは、夫婦交代で育休を取って男性も自立した家事育児の担い手になるスタイル。

「育児の全体感を学び、育児スキルを習得するには、3カ月くらいコミットする必要があると言われます。ただ、夫婦とも3カ月休むと、結局夫は妻を手伝うだけで終わりがち。

そこで、例えば産後1カ月でまずは男性が職場に復帰し、フルタイムではなくセーブした働き方をする。そして、8カ月とか10カ月程度経ったら、今度は女性が職場に復帰して、子どもが保育園に入るまでは男性が再び育休を取るといったやり方はどうでしょうか。

女性はトータルで8〜10カ月の育休期間で復帰できますし、男性が中心となって育児をする期間も設けられるので、男女の『育児スキル格差』もかなり減ると思います。

前提として、出産までに男性が『家事力』をしっかり身に付けておくことも重要ですね。家事ができないと、いくら育休を取っても結局『いるだけ』や『指示待ち』になってしまいます。極端な話、『授乳以外』はすべて男性がやる、というくらいのスキルを身に付けてしかるべきだと思います。

そもそも『授乳以外』すべてできるようにしておくことは、妻の体調不良など不測の事態が起こった際に、キャリアへの影響を最小限にとどめるうえでも重要です」

男女が「育休でのキャリア断絶」を避けるためにやるべきこと

中里さんが提唱するような育休取得プランを実現させるには、いつでも気持ちよく休めるよう職場と良好な関係を築く必要もあるでしょう。アンケートによると、「育休を取得しやすくするコツ」については男女ともに「上司と話しやすい人間関係を構築しておく」「同僚と相談しやすい人間関係を構築しておく」といった人間関係に関する項目が上位に挙がりました。女性は、より人間関係のフォローに注力する傾向がある一方で、男性は「日頃から成果を出しておく」ことも意識しているようです。

この違いについて中里さんは「女性の場合、出産・育休後も仕事を続けられることが当たり前ではなく、『仕事を続けるためにあらゆる工夫をする必要がある』と考えているから」だと分析します。

「女性はそもそも仕事や会社を選ぶタイミングから出産や育休、仕事復帰のプランやスケジュールについて考えていることもあります。出産や育休は、それくらい女性にとってキャリアを続けていくうえで重要なテーマなのです。

一方で男性は育休を取得するといっても女性に比べて短期間ですから、女性ほど入念に計画する傾向がないのかもしれませんね。

とはいえ、キャリアアップのルートから外れてしまうのではないか、という不安は男女ともにあるのだと思います。アンケートの結果を見ても、育休が個人のキャリアにさまざまな影響を与えていることが分かります。

ここは大前提として、育休取得者個人の努力というよりも、会社が仕組みで応えるのが望ましいと思います。会社によっては、育休で浮いた人件費を、現場でフォローするメンバーへのボーナスに充てるケースもあります。こうすることで、フォローするメンバーも納得して仕事に向き合えますよね。

あとは、ロールモデルとして育休経験者の女性マネージャーを登用することも手です。もちろん、『育児は親などに頼ってひたすら仕事に励んだ』という経験を押しつける人だと参考になりづらいかもしれませんが。

ただ、会社が仕組みを整えてくれないケースもあるでしょう。そんな時は、各人が『何があってもキャリアを続けていく』という強い意識を持つことで『自衛』するしかありません。転職や独立も視野に入れて、お互いが『今の会社を辞めてもいいんだ』と思えるような状況をつくっておくことが必要です。

それにあたっては、女性が経済的に自立して男性のキャリアアップが少し遅れることを許容する、あるいは家計も家事育児もどちらかを『主担当』として固定しない、というスタンスが重要です。

大事なのは思い込みを捨てることです。人はそれまでに見てきた夫婦の生き方を見て、自分もそうなるものだと思いがち。でも、生き方はいつからだって変えられるのです」

育休によるキャリア断絶は誰もが不安に思うところです。一方で男性育休の取得が推奨されたり、理解を示す会社が増えてきたりと、制度面や社会状況が改善してきているのも事実。

実際、企業規模によっては育休取得率の公表が義務化されており(編注:2025年4月より、労働者1000人以下300人超の企業は、育児休業取得状況の公表が新たに義務付けられた)、「育休がキャリアに響きにくい会社」を探すハードルも下がっています。

それに、長期休暇の取得が必要になる可能性は育児に限らず、病気や親の介護など、人生におけるさまざまな局面で生じます。

育休取得者だけでなく、関係者全員が育休の取得をポジティブに捉えられる社会を実現させるため、記事の内容を参考に「休みやすい雰囲気を醸成する」など意識や日頃の行動を変えてみてはいかがでしょうか。


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( https://tenshoku.mynavi.jp/content/declaration/?src=mtc )

取材・文:はてな編集部、山田井ユウキ
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職

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