介護施設の防災対策とは?避難訓練のポイントや日々備えたい災害備品などを解説!
はじめに:2024年4月~BCP(業務継続計画)の策定が義務化!
執筆者/専門家
後藤 晴紀
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/9
南海トラフ沖地震や首都直下型地震など、近い将来発生すると予想されている大規模地震。
未曽有の大災害となった東日本大震災をはじめ、能登半島沖地震でも甚大な被害をもたらした巨大地震は、いつ発生してもおかしくない状況にあるといわれています。
地震発生時は、幹線道路の使用ができなくなったり、ライフラインが停止したり、消防や救急の要請ができない中でも、介護現場では、自分の身を守りながら救命・救助活動、消火活動、緊急輸送活動等の応急活動を迅速かつ円滑に行うことが重要となります。
来るべきときに日頃から備えるということがとても重要になりますね。
そんな昨今の状況を踏まえ、3年の経過措置を経て2024年4月から介護施設を対象にBCP(業務継続計画)の策定が義務化されました。
しかし、BCPを策定するにしても、介護施設は慢性的な人手不足であり、計画に位置付けても、その対応まで手が回らない状況やBCP策定のノウハウがないために、何をどこまで決めておくべきなのか分からないといった事業者も少なくありません。厚生労働省からも介護施設・事業所における業務継続ガイドライン等について示されていますので、ご参考にしていただければと思います。
そんな状況ではありますが、災害は待ってはくれません。だからこその義務化なんですね。 まずは現状の整理と併せて、何をどのように取りまとめなければならないのかを理解し、課題を洗い出しておく必要があるのです。 どの事業所さんも、これまで災害訓練等は実施されてきていると思いますので、恒常的に実施されてきた災害対策を、より詳細に取りまとめ、来るべきときに備えていければと思います。
介護施設における防災の備え
介護職員自身が身を守ること=事業継続になる
介護施設は要介護高齢者や障がいを持たれたご利用者が利用されており、スタッフの適切なサポートが無ければ、安全安心な自立した日常生活を営むことが困難な状況です。
当然のことながら、入所型の施設では24時間365日の切れ目ないサービス提供が行われていますし、在宅サービスでも、サービスの提供が止まるということは、利用者の命に直結する深刻な状況を招きかねないことを意味します。
私たち介護福祉事業者は、災害などにより被害を受けても、基本的にはそのサービス提供を止めることはできず、何としてでも事業を継続させる手段を確立させておく必要があります。
それだけに、一般企業等と比べても、介護サービス事業者におけるBCP対策の重要性は非常に高いのです。
内閣府(防災担当)は大規模地震の発生に伴う帰宅困難者対策のガイドラインで、自宅以外の場所で大規模地震に遭遇した帰宅困難者に対して、公共交通機関が再開するまで数日間施設内にとどまる「一斉帰宅抑制」を求めています。施設やご利用者の対応について考えておくことはもちろん重要ですが、自分が自宅や職場以外で災害に遭遇した際の予測を立てておくことも大切ですね。
自分の身の安全の確保ができなければ、事業継続も困難ということです。
緊急時、介護施設は待機場所になる可能性も!避難計画や準備は丁寧に!
介護施設内では、大規模地震が発生した場合、ご利用者や職員、ご利用者家族や関係業者を施設内に待機させる必要も出てくるかもしれません。
そういった、想定外の事態も可能な限り想定し、事前に備えておく必要があります。
そのため、普段の訓練でも職員の出勤人数が最小限の夜間訓練や、従業員が手薄な土日祝日の人員配置での災害訓練を組まれておくのが良いと感じています
大規模地震が発生した際は、まず内閣府が用意しているチェックシートを活用し施設建物等の安全を確認しましょう。
次に、災害情報を入手し、周辺の火災状況を確認。従業員や来所者を施設内や他の安全な場所に待機させます。介護施設については、施設の耐震構造により、館内にとどまった方が安全な場合と、屋外へ避難した方が望ましい場合があると思います。耐震設計や想定震度ごとの避難計画を組まれておくとよいと思います。
災害に備えて平常時に備蓄をする際は、倒壊によりすべて使用できなくなることを避けるために、備蓄品の保管場所は施設内に分散させるようにしてください。
また、ご利用者や従業員への備蓄品の配布対象も事前に決めておくと混乱を避けられると思います。
備蓄量の目安は3日分とされていますが、帰宅困難者のガイドラインを勘案し、3日分以上の備蓄についても検討しておくとよいと思います。
知っておきたい!「日々の備えと災害備品リスト」
◆災害備品リスト◆
1.食料・飲料水
2.医薬品・医療用品
3.防災用品
4.通信手段
5.その他特に必要性が高いもの
1.食料・飲料水
食料や飲料水は最低3日分準備しておくようにしましょう。
3日分の目安はそれぞれ以下の通りです。※
◆保存水(ペットボトル入り飲料水2Lや500ml)◆
1日あたり1人3L=3日分で計9L
◆保存食(アルファ化米、缶詰、パン、カップ麺、レトルト食品等)◆
1人あたり1日3食=3日分で計9食
出典:内閣府大規模地震の発生に伴う 帰宅困難者対策のガイドライン
【例】従業員10名とご利用者様100名の施設の備蓄量
・保存水:3L×110名×3日=990L
・保存食:3食×110名×3日=990食
・毛布:1枚×110名=110枚
水や食料の選択にあたっては、賞味期限(消費期限)に留意しましょう。
例外として、氷砂糖は賞味期限の表示が必要なくいつでも食べられます。また、氷砂糖は舐めると唾液がでるため、喉を潤す手段としても活用できます。
その他、ご利用者の個別の状態に応じて氷砂糖や介護食、アレルギー対応の備蓄食、常備薬、老眼鏡、補聴器、入れ歯、大人用のオムツ、パット、口腔ケア等の備蓄が必須となります。この場合は物資ごとに1日にどれくらい使っているか算定し、備えておきましょう。
2.医薬品・医療用品
高齢者を多く待機させる可能性が高い介護施設において、医薬品や医療用品の備蓄は必須です。
以下は最低でも備蓄しておきたいものの一覧です。常備薬などは交通状況によっては届くまでに1週間程度かかる可能性があるので少し多く用意しておけると安心でしょう。
・常備薬(利用者ごとの必要な薬)
・応急手当セット(包帯、ガーゼ、消毒液など)
・AED(自動体外式除細動器)
・感染症対策: 除菌剤等
3.防災用品
防寒対策や、トイレ、電気など日常生活に欠かせないものを備蓄しておくことも大切です。以下のものは避難生活において特に重要なものです。必ず準備しておきましょう。
・毛布や保温シート、寝袋(1人あたり1枚)
・簡易トイレ、衛生用品: トイレットペーパー等
・ランタン、懐中電灯(予備電池含む)
・敷物、ビニールシート、段ボール簡易ベッド
・非常用電源、モバイルバッテリー
・空調設備や医療機器用の自家発電設備
4.通信手段
避難生活では、普段当たり前のようにあるスマートフォンなどの通信手段が思うように使えなくなることがあります。また、電波は通っていても電気が使えず、端末の充電が切れてしまうなどということもよくあります。
そのようなときに、電気を発電できたり、情報を入手するための手段となったりするものは必要です。以下のものも用意しておきましょう。
・携帯ラジオ(予備電池含む)
・携帯電話充電器(ソーラーパネル付きや手動充電式など)
・トランシーバー(施設内での連絡用)
5.その他、特に必要性が高いもの
ここまでは一般的に必要な災害備品について解説してきました。しかし、高齢者がいる介護施設においては上記以外にも利用者さんの状況に応じて必要な用具や物品があります。
・高齢者・障害者向け用品
・補助用具(車椅子、杖)
・補助物品(名前入りのタグ、個別の避難経路図など)
・医療情報カード(各利用者の必要な情報を記載)
災害対策マニュアルに入れておきたいポイント
次に、災害対策マニュアルを施設で作成する際、確認すべきことや知っておきたい事項を明記します。施設内でしっかり確認し、職員にも共有しましょう。
◆災害対策マニュアル作成時の確認事項◆
1.訓練の実施日時:年に最低2回、うち1回は夜間想定を実施
2.想定する災害: 地震、火災、洪水、風害などのシナリオを設定
3.災害対策本部等の役割の明確化
4.職員の自動参集のルール取り決め
5.訓練の種類と目標: 分/時間単位での初期対応、損壊状況の確認と把握、避難誘導、搬送訓練等
6.けがの程度によるトリアージのルール確認
7.業務縮小基準等ご利用者へのケア内容の確認
8.ライフライン復旧設備業者との連絡
9.訓練の参加者・参加人数: 全職員と利用者参加の有無
10.訓練の実施体制確立(防災管理者を中心に役割分担)
11.情報の収集・伝達方法の取り決め(内部連絡網の確立。グループウェアや災害掲示板等の通信手段)
12.避難先、避難経路、避難方法等の確認準備(安全な避難経路の選定)
13.設備や装備品、備蓄品、持ち出し品等の確認(定期的な点検と更新頻度の決定)
14.備蓄食の献立一覧や調理方法や提供方法の確立
15.燃料確保方法の確認
16.行政との災害協定の確認 etc.
確認事項は多いですが、「災害が起きてからでは遅い」ということを忘れず、早めに準備しておくことが大切です。
避難訓練は最低年2回!しっかり計画を立てましょう!
ここまでは、介護施設において日常的に行う防災対策などについて解説しました。ここからは年に最低2回の実施が定められている避難訓練について具体的な進め方などを解説します。
目的を明確にして目標を立てる
訓練を行う際の目標の立て方は以下の通りです。
◆避難訓練の目的(ゴール)◆
・全員が訓練の意義を理解し、実践的なスキルを身につけること
・特定のシナリオ(火災、地震、津波、風水害など)に対する具体的な対応方法を習得
◆避難訓練の目標◆
・災害時の迅速かつ適切な避難行動の習得
・職員および利用者の防災意識の向上
・防災設備の理解等
目的を達成するにはそこまでのプロセス(目標)が大切です。たとえば、「海外旅行にいく」という目的があったとして、そこまでに、「○○円貯金をする」「パスポートを取得する」「行きたい国の言語を学ぶ」など目標があると思います。
避難訓練を行うにあたっても、この目的と目標を明確にしておくことで、実施の意義を見出すことができるでしょう。
訓練計画の作成
目的や目標が明確になったら、次にそれらを実現できるような計画を作成していく必要があります。計画を立てる際は以下のポイントをおさえながら立てていきましょう。
計画を作成する際はお住まいの地域事情に合わせて、被災シナリオの設定をしていきましょう。
また、被災シナリオ設定ができたら、地域のハザードマップをもとに計画作成を進めましょう。
◆被災シナリオのパターン◆
1.地震発生時の対応
2.津波警報発令時の対応
3.火災発生時の避難行動
4.風水害発生時の対応
5.土砂災害発生時の対応
当日までに行うこと
計画を立て終えたら、当日までに避難訓練が実施できる体制を整えましょう。そのうえで重要となるのが、役割分担と事前説明です。
1.役割分担
避難訓練では役割分担も大切です。ある程度の役割を訓練で決めておくと、実際に災害が発生した場合にも職員がスムーズに動くことができます。
主に決めておきたいことは、当日の役割分担と、利用者ごとの避難補助者の選定です。
役割分担は、訓練責任者・タイムキーパー・誘導担当者・医療担当者などを明確にしましょう。
利用者ごとの避難補助者については、介護施設ならではの役割です。施設によっては自力で避難が難しい利用者さんも多くいると思いますので、個別の支援計画を作成し、非常時に備えましょう。
2.事前説明
訓練を実施する際、職員や利用者さんなど全員に事前説明をしましょう。訓練の目的やシナリオ、役割分担を把握しておくことでスムーズに訓練が行えるでしょう。
また、注意事項や安全対策も確認しておきましょう。
訓練の実施
事前準備が整ったら当日訓練を行います。訓練実施の流れは以下の通りです。
◆実施の流れ◆
1. 訓練開始の合図(サイレン、アナウンス)
2.屋外避難訓練、屋内安全確保訓練: 実際の避難行動の練習
3.シナリオに基づいた避難行動の実施(例えば、地震の揺れが収まった後、避難を開始)
4.避難場所での点呼、状況確認、応急手当の実施
5.避難経路の確認訓練: 避難経路の確認と障害物の除去
6.情報収集・情報伝達訓練:情報の正確な収集と迅速な伝達
7.図上訓練:避難計画の確認とスタッフの役割演習
また、実施する際は以下のポイントもおさえましょう。
◆避難訓練実施時のポイント◆
1.利用者の安全確保
2.各利用者の状態に応じた対応への留意点を明確にし、必要な支援を記載
3.認知症の方や車椅子ご利用者等、特別配慮が必要な方への対応を優先する
4.避難経路や避難場所の情報を、利用者に分かりやすく伝える手段を用意
訓練中は緊張感を持ち、実際の災害に備えた訓練を行いましょう。
そのため、災害状況を模すために館内の電気を最小限にして停電を想定してみたり、私語を慎み本番同様のアナウンスを心がけるようにしてみたり、雰囲気作りを行っていきましょう。
但し、訓練時の心理的負担を軽減するため、ストレス対策は考慮するようにしましょう。
訓練終了後は振り返りを行いましょう
訓練は実施することが目的ではありません。先述した訓練の目的を再度確認してみましょう。
【再掲】◆避難訓練の目的(ゴール)◆
・全員が訓練の意義を理解し、実践的なスキルを身につけること
・特定のシナリオ(火災、地震、津波、風水害など)に対する具体的な対応方法を習得
これらの目的を達成するためには、訓練の振り返りと改善、その後の継続が必要です。
◆振り返りの手順◆
1.職員や利用者からフィードバックの収集
2.訓練の評価と改善計画
3.反復訓練を行う
4.防災意識の継続的な向上
5.日常的な設備点検
1.職員や利用者からフィードバックの収集
実施後に参加者の意見や感想を集めましょう。集める際は、問題点や改善点を明確にできるよう心がけてアンケートやヒアリングを行いましょう。
2.訓練の評価と改善計画
アンケートやヒアリングの結果をもとに、訓練の反省点と改善点を検討していきましょう。
その際のポイントとしては、良い点(成果)にも反省点(課題)にも目を向けるということです。
また、それらを文書化し次回訓練に向けた改善計画の作成に活用してください。継続的に改善を図ることで質の高い避難訓練、そして万が一のときの対応ができると思います。
3.反復訓練を行う
訓練は年に最低2回実施をしますが、定期的に訓練を繰り返し行うことで避難時の初期行動の定着を図りましょう。
また、訓練内容を開催ごとに変えることで様々な状況に対応できるようになります。
4.防災意識の継続的な向上
また、訓練時以外にも防災意識を高めていきましょう。
手段としては、消防や自治体と協力をし職員向けの防災研修や講習会の開催、利用者さんやそのご家族向けに防災啓蒙活動を実施し協力が不可欠であることや、防災意識の向上を図るなど職員だけでなく、利用者さんやそのご家族にも防災意識を身につけてもらいましょう。
5.日常的な設備点検
意識の向上ができても、日常的な設備点検ができていないと緊急時の対応が遅れてしまいます。
設備点検においては、委員会を設置し計画的な研修や設備点検ができる環境を整えておくこと、防災設備(消火器や消火栓、避難経路、非常灯など)の定期点検(業者点検含む)を行うことの2点は必ず実施するようにしましょう。
最後に:いつ発生するかわからない災害に備え、今から動き出しましょう!
訓練計画は消防署などと連携して策定することが求められています。
災害備品の準備と避難訓練の実施は、介護施設における安全管理の基本となり、日頃からの準備と訓練によって、実際の災害時に迅速かつ適切な対応が可能になります。避難訓練に緊張感を持たせ、単なる訓練ではなく、利用者さんと職員の命を守るための重要な訓練として実施してほしいです。
適切な訓練と日頃の備品の管理により、いつ発生するかわからない災害に備えていきましょう。
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