「クマ鈴は効かない?」専門家が回答 気を付けるべき『危険な兆候』と、地域住民だからこそできること
7月13日、札幌でヒグマ勉強会が開かれました。この地域では6月末にクマの出没があったばかりで、出没情報をどう受け止めるべきか・地域でできることは何かを考えました。
この前日には、福島町でクマによる死亡事故が起きました。
事故を受けて不安を抱える住民からの質問に、専門家が答える場面もありました。
クマの出没や被害が深刻化する今、個人や地域、行政にできることは何か。
勉強会に詰まっていた、全道・全国に共通するヒントを前後編でお伝えします。
連載「クマさん、ここまでよ」
この記事の内容
・いざ出没時に、これまでの成果が
・クマ出没は予測できる?
・クマ鈴は効かない?専門家の回答
いざ出没時に、これまでの成果が
7月13日、ヒグマ勉強会を開いたのは、札幌市中央区の円山西町の町内会です。
勉強会の開催は3度目。ほかにも夏祭りでクマブースを出し対策を呼びかけるなど、継続的にクマに強いまちづくりを考えてきました。
そんな中で、ことしは4月に「クマらしき動物」、6月末にはクマが目撃されました。
いざというとき、これまでの取り組みの成果が発揮されていました。## 地域に住む当事者だからこその気づき
6月24日、クマが目撃されたのは午後10時半ごろ。警察に通報があり、札幌市に情報が共有されました。札幌市は公式LINEで日ごろクマの情報を発信しており、このときは午後11時57分に、登録している市民のもとに出没情報が届いています。近隣の小学校・中学校にも市から連絡されました。
円山西町の町内会長・有賀誠さんは、「4月の『らしき動物』の目撃情報を経験していたからこそ、深夜の段階ですぐに『クマ目撃』という情報になっていることに、確度が高いんだと理解できた。すぐに町内会の住民に知らせる必要があると考えた」と話します。
そして町内会の執行部や児童会館、学校、まちづくりセンター、さらに「朝練をやるかもしれないから」と地域の少年野球チームにも連絡。その結果、早朝のうちに学校からは保護者に一斉メールが出され、野球の朝練は中止の判断がされました。
さらに執行部のメンバーの気づきで、早朝に散歩をする人も多い地域のシニアクラブにも情報共有がされました。
地域の事情をよく知っている町内会だからこそ、市町村だけでは気づけないニーズまで気をまわして、早朝のうちに注意喚起をすることができたのです。
さらに、町内会独自の「デジタル掲示板」も立ち上げていて、登録している約70名にも朝のうちに速報までしています。札幌市のLINEに加え、より自分の地域に特化した情報を得られる場所を、自分たちで作っているのです。
有賀さんは、「住民の間では、クマが出たときに『まさか』ではなく、『ついに出たね』という会話になった。それが今まで取り組んできたひとつの目標のようなもの。クマを身近に考えていると、冷静に対処できると思う」と話します。
実際に、この出没の調査結果に対して、有賀さんはとても冷静に分析をして、住民に報告しました。
調査するとわかること
札幌市では出没の後、市の担当者と、専門知識を持つNPO職員が現場を調査します。このときの調査では、クマの毛が1本と、クマが地面を掘った跡が見つかりました。
ただ痕跡はそれだけで、クマを引き寄せるような原因になっているものもなく、繰り返し来ている様子もありませんでした。
つまり、クマはこの地域に定着しているわけではなさそうだ、ということです。
この結果を住民に説明するために、有賀さんが例に出したのが、2023年6月に札幌に出没したクマです。
こちらは西区の西野市民の森に設置したカメラに映ったクマですが、その数日後に南区で相次いだ目撃情報も、現場に残されたDNAや足跡などから「同じクマ」と見られています。西区と南区の現場には15キロほどの距離がありました。
さらに、その前に小樽で見つかったクマのフンからも、同じDNAが見つかったのです。
このようにオスのクマは、ときには市町村の垣根も超えて、10キロ以上の非常に広い範囲を移動します。出没情報が多いなと思うときも、たくさんクマが増えたというより、実は1頭のクマだったということがよくあります。
地域に出たのが、そうした「通り過ぎた」クマなのか、それとも同じ場所に繰り返し来ているのか。ごみの不始末などクマが執着する原因になるものはあるか、クマが人に慣れた様子など危険な兆候はあるのか。
出没の痕跡や目撃したときの様子などを分析すると、危険度や緊急度、取るべき対策が見えてきます。
「まさか」と思っていると、出没をどうとらえていいかわからず、必要以上に怯えて暮らすことになってしまいます。正しい対処を知らず、事故にあってしまうかもしれません。
日ごろからクマについて知り、考えておくことで、いざというときも地域で声をかけあい、冷静に対処することができます。
クマ出没を「じぶんごと」にするとはどういうことか
有賀さんに続いてマイクを持った、北海道大学大学院の伊藤泰幹(いとう・たいき)さんは、4月と6月の出没を地域住民が予測できていたと、驚きの発表をしました。
伊藤さんは1月に、円山西町でワークショップを企画。地域住民がグループに分かれ、自分たちはどこでどんなクマ対策を求めているのか、地図を広げながら話し合いました。
まず過去の出没地点を書き込み、次に「クマの目線」から、出没の原因になるものを探します。
「クルミ」「農作物」などクマの食べものになるものがある場所、「草やぶ」などクマの通り道になる場所にシールを貼ったり、マーカーで書き込んだりしました。
4月と6月の出没場所は、この1月のワークショップで「クマが出るリスクがありそう」と話していたエリアと重なっていたのです。
川沿いや背の高い草やぶを移動するクマの習性を知っていること、そこにどこに草が生い茂っていて、どこに何の実がなっているかなど、地域住民だからこそわかる視点が加わると、対策が必要な場所は考えられるということが証明されたと言えます。
ワークショップでは、最後に「人目線」で、通学路やバス停など、クマに絶対に出てほしくない場所を話し合っていました。
「クマ目線」と「人目線」をかけ合わせることで、対策が必要な場所や、地域住民がどこでどんな対策を望んでいるのかが見えてきます。
町内会のメンバーは、このワークショップの後、クマ対策になる頑丈なごみ箱の視察に行くなど、実際に対策を考える次の一歩に進んでいます。
伊藤さんは今回の勉強会で、このワークショップの成果を振り返り、「クマ出没を『じぶんごと』にする、というのは簡単に言われますが、では『じぶんごと』にするとは何なのかを考えてみました。クマが出たらしいと漠然とした不安を抱えるのではなくて、やることや課題を具体化していくことが『じぶんごと』なのではないかと思います」と話しました。
この日、集まったのは約40人。満席の会場で、全員が真剣に有賀さんや伊藤さんの話に耳を傾けていました。その頼もしい姿は、「クマに強いまちづくり」が着実に進んでいることを物語っていました。
クマ鈴は効かない?
参加者からは、「クマ鈴で、人だと思って逆にクマが寄ってくるようなことはないのか」などの質問が出ました。
勉強会に参加していたクマの専門家・間野勉さんが質問に答えました。
3月まで北海道立総合研究機構に所属していて、長くクマの研究や調査に携わった経験を持ちます。
間野さんは、「音は人間がクマに存在を知らせるしるし。多くのクマはそのしるしに反応して人を忌避する。ただ、人に近づいておいしいものを食べられたなど成功体験をしたクマにとっては、ごはんの合図のベルになってしまう。そうした状況を作らないことが大切」と話しました。
クマ鈴をつけていても事故にあったケースを見聞きしても「無意味に慌てる必要はない」ものの、危険な兆候がある場合は例外となるため、その意味でも出没の分析が必要です。
人を避けるクマなら、音を出す・草刈りをして見晴らしをよくするなど、できる対策はありますが、危険な兆候がある「問題個体」の場合、個人や地域でできる対策だけでは限界があります。
間野さんには勉強会終了後に、もう少し対策についてのお話を伺いました。また、参加者からの質問で「気を付けるべき時間帯」についても答えていました。
続きは後編の記事でお伝えします。
連載「クマさん、ここまでよ」
暮らしを守る知恵のほか、かわいいクマグッズなど番外編も。連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。
文:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は取材時(2025年7月)の情報に基づきます。