【駿府博物館の特別展「ひこねのりお展 富士山を見にお出かけ編」】ペンギンたちの簡潔かつ完璧なフォルム。無駄な線が一本もない
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区の駿府博物館で7月19日に開幕した特別展「ひこねのりお展 富士山を見にお出かけ編」を題材に。
来年90歳を迎えるアニメーター、キャラクターデザイナーひこねのりおさんの個展。テレビCMなどでおなじみのカールおじさんをはじめとしたキャラクターが集合し、館内はほんわかとした雰囲気に満ちている。
原画やセル画、キャラクターグッズなどが所狭しと並んでいる。1974年にお目見えした「子どもと村の動物たち」を出発点にした「カール」のCMは当初、「おじさん」は脇役扱いだったことなど、知られざるエピソードの数々にもほっこりさせられる。
会場全体を見渡して、最も印象に残るのはやはり、1983年からサントリーのビールのCMに起用されたペンギンたちだろう。1985年には映画化されている。初めて知ったが、男の子はパック、ガールフレンドはピッキーと名付けられている。
新聞広告やポスター、原画などで確認すると、極めて簡潔な形をしているに気付く。無駄な線が一本もない。輪郭線のほかにはくちばし部分の楕円、「く」の字をした口、口からおでこにかけての「M」字型、まえかけのようなおなか部分、そして目の点が二つ。これしかない。
それなのに、感情が伝わってくる不思議。それぞれのエレメントが、ひこねさん一流の計算と感受性によって配置されることで、確かな命が吹き込まれている。「へのへのもへじ」の究極の進化形か。この方法論は「カール」のキツネやカエル、「タコハイ」のタコ(1983年~)や「コスモミニベア」(1994年~)にも顕著だ。ひこねさんの「そぎ落としの美学」が感じられる。
過去のCMなどを集めた動画上映コーナーもある。ペンギンたちが出てくる1983年の「サントリーCANビール」、1974~1978年の「カール」もいいが、2016年の「アニマル天国」がミュージックビデオとして秀逸。ウマやウシ、ゴリラやクマ、カエルなどがゴリゴリのハウスミュージックに合わせて農作業する。音楽好きは必見。
(は)
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■駿府博物館「ひこねのりお展 富士山を見にお出かけ編」
住所:静岡市駿河区登呂3-1-1
開館:午前10時~午後5時
休館日:月曜(祝日の場合は開館し翌平日休館)
観覧料(当日):一般(高校生以上)800円、中学生以下・障害者手帳提示無料
会期:9月15日(月・祝)まで