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再び挑む100マイル・レース #02:深夜スタートでさらに厳しくなった2024年「Mt.FUJI100」

PARCFERME

昨年の「ULTRA-TRAIL Mt.FUJI」100マイル(≒160km)レースをみごと完走した佐々木 希 選手。今年4月、「Mt.FUJI 100」とその名を新たにした大会にふたたび挑むことになった。いくつかの変更で昨年以上に難易度が増したといわれる今年のレースに、どのようにアプローチしたのだろうか。佐々木選手自身によるリポートの後編は39時間を超えるレースの一部始終。

(上)ウエストライトに、UltrAspire「LUMEN 850 DUO」を。ウエスト専用のベルトなので安定感がある。広い照射角で路面のコンディションや凸凹の視認性が高いので、目のストレスも軽減できた。(左)トレランザックは、前回使ったSALOMON「CROSS SEASON 15」から、THE NORTH FACE「TR ROCKET」に転向。どちらもメリット、デメリットがありかなり悩んだが、よく使うフロントとサイドのポケットの容量が大きいのが決め手となった。(右)シューズはMERRELL「AGILITY PEAK 4」に決めていたが、デポバッグに入れる予備のシューズ用に購入した、ASICS「GEL-Trabuco12」が思いがけず非常にしっくりきたため、こちらに変更。

2度目の100マイル・レースにギアも新調、軽量化

1年に一度開催される憧れの100マイル・レース「ULTRA-TRAIL Mt.FUJI」に2023年初出場、完走。大会名が「Mt.FUJI 100」に変わったこの大会に、2024年も挑むことにした。

ただ、挑むのではない。昨年の自分越えと、昨年より楽しむこと、が目標だ。

スタート時間や、コースの一部が変更になったが、自身のデータや経験があるのは強みだった。目標完走タイムを1時間縮めて39時間とした(制限時間は、第2ウェーブの私は44時間50分)。

今回、ギアを新調した。シューズはASICS「ゲルトラブーコ12」。ドロップバックにいれる予備の靴として購入したが、あまりのフィッティングの良さに、当初メインで履く予定でいたMERRELL「アジリティピーク」からスイッチした。

ライトはヘッド、もしくはウエストのどちらか片方に装着するランナーが多いが、私は2つとも装着する。ウエストライトを今回UltrAspire「LUMEN 850 DUO」に。レースは午前0時から始まるので、2回夜がやってくる。暗いとペースも落ちるし、神経を使うので目も体も疲れる。ヘッドで先の方を、ウエストで足元を照らすと、真っ暗な山中もストレスなく走れる。

ザックは悩みに悩んで、昨年使ったSALOMON「ADV SKIN CROSS SEASON 15」からTHE NORTH FACE「TR ROCKET」(15リットル)に変更した。どちらも良し悪しがそれぞれあったが、外収納の大きさや使い勝手が若干後者のほうが良かったのが選んだ理由。

その他、昨年余分だったものや行動食を減らし、なるべくかさばらないよう小分けのパックに移し替える、充電器を外ポケットに入れ、走りながらクイックにライトやスマホの充電ができるように、などの改善を行った。昨年4.5kgだったザックは4kgまで軽量化できた。

(上)第二ウェーブの私は0時10分スタート。夜中スタートでもたくさんの応援が。(左)補給食は綿密に計算、一応これも持っていくか、なんてやっているとあっというまに総重量は重くなる。(右)1グラム、1ミリの攻防。無駄なものを少しでも持ちたくない。前半後半に食料も分ける。この手のパッケージはかさばるので小さな袋に詰め替える。ジッパーも指が引っかかって開きやすいように一部をハサミでカットしている。

0.0km地点:未経験の暗闇スタート

2024年4月26日(金)0時10分、第2ウェーブから暗闇スタート。昨年は14:45スタートだったので、同じ道でも別の場所のようだ。夜間だったことと、ウェーブスタートも15分刻みから10分刻みになったことが原因だろうか、道幅が狭く例年渋滞するポイントは、昨年以上の混雑が起きていた。最後尾、第4ウェーブから出た選手は2時間渋滞したとも聞いた。

第一エイド、富士宮(25.3km)には予定の6分遅れで到着した。ここまでは下り基調でほぼ走れる楽な区間。ダッシュで自身で持ち歩くフラスク(給水ボトル)に水分を補給したり、提供されているエイド食(バナナ、パンなど)を食べたりしてすぐ出発する。エイド滞在時間を予定より縮められたため、2分の貯金ができた。

(上)大会実行委員長の鏑木毅さんも、選手全員を送り出して最後尾から出走。まだまだ序盤の42km地点、熊森山山頂であっさり追い抜かれた。(左)熊森山からの急斜面を下り始めてすぐに、左足首を思い切り捻ってしまう。少し休んでからなんとかロードまで降りてきてテーピングで応急処置。なんとかなりそう。(右)第二エイド(52.5km)。富士宮やきそばや大福などご当地グルメも用意されている。

42km地点:捻挫に悶絶す

第二エイド、麓(52.5km)までの27.2kmには前半で一番大きな山塊、天子山地を縦走する。31kmから登り始め、3kmで長者ケ岳(1336m)までで830m上昇、これはなかなかの急登だ。そこからさらに6km、9回アップダウンを繰り返しやっと、レース中2番目に高い熊森山(1574m)にたどり着く。嬉しいことに、このタイミングで大会実行委員長のレジェンド・ランナー、鏑木 毅さんに追いつかれた。

さあ、ここからは11km、楽ではないがひたすら下れば次のエイド。と気合いを入れ直したのもつかの間、左足首を音がなるほど捻ってしまう。痛くて足も着けない。選手はやっと下りだ!と息巻いて飛ばして次々と降りてくるので、脇にそれて座り込んだ。こんな序盤で……最後まで行けるのか?すぐさま鎮痛剤を飲み、何十人にも抜かされながらゆっくりかばいながらなんとかロードまで降りてきた。

思ったより動けそう、痛みも落ち着いてきた。もう一度腰をおろし、靴下を下げてみる。さほど腫れもない、大丈夫、きっと行ける。時間がもったいないと焦りもしたが、しっかりとテーピングで固定した。もう一度強く捻ったりしたらきっとおしまいだ。細心の注意を払いながら走る。第二エイドには6分遅れて到着。まだ巻き返せる範疇だ。

(上)第四エイド(97.4km)でデポバックを受取り体を拭いて全身丸ごと着替えた。これからスタートとなるKAI70kに出走する仲間からもエールをもらって送り出された。(左)第六エイド(122.5km)のテントの仮眠所で2回目の仮眠を20分。今年はマットはなく、代わりに毛布が用意されていた。ストーブになるべくくっつくが、すきま風が冷たい。面倒でも寝る前にしっかり着込まないと、起きたときには冷えて体が動かない。(右)第六エイドをあとにして、残り44km、いよいよこのレースの核心部。まずは鉄砲木ノ頭にとりつく。野焼きをしたばかりの山は、すっきりして遠くまで見渡せる。選手たちのライトは常に動いているので、キラキラと瞬き、遠くまで光の列をなして美しい。

97.4km地点:エイドでの時間浪費に苛立つ

その後、捻挫の痛みはさほどなく順調に走り続ける。昨年との大きな違いはスタート時間と、もう一つはコース変更。第二〜第三エイド間に竜ヶ岳(1485m)を登って降りる。ここはコース3番目に高い山だ。ここを過ぎて第四エイド、富士河口湖精進湖(70.7km)に、予定より16分おして到着。ここも滞在予定時間は4分縮めて出発。次のエイドはゴール会場でもある富士北麓公園。26.7km、淡々と走る。

第四エイドに到着したのは19時半、二日目の夜に突入していた。ウエストライトはスタートから二回目の夜が明けるまで装着したまま。一晩明けたら歩きながら充電、ヘッドライトの電池も交換していたのでスムーズに対応できた。

このエイドでは、自身の荷物(デポバック)を預けておくことができ、不要になったものを入れたり、必要なものを足したりできる。昨年は支度に44分かかったので今年は40分を目標にした。しかし、昨年とエイド場所が変わり体育館が迷路のような導線、勝手がわからず行ったり来たり。補給や着替えなども手間取って1時間半近くも滞在してしまった。自分への苛立ちがバネとなり、ここまですでに97.4km、19時間走っていたが、巻き返そうと足に力が入った。まだ足も気力も十分だったが、流石に少しボーっとしてきた。第五エイド、忍野(113km)で予定通り20分の仮眠をとる。昨年はここをパスして次のエイドで寝たのだが屋外ゆえ寒かった。ここは体育館なので外よりは暖かい。

次の第六エイド、山中湖きらら(122.5km)を目指す。この区間は最も短い9.5km。3時間ほどの行程だったが、後半は再び眠気が襲ってきた。これ以降はゴールまで仮眠所はないので再び20分仮眠をとる。休みすぎても体が固まってしまうし、休まなすぎても動けない。どちらも程よく満たす時間が私の場合20分だ。ここからが本当のMt.FUJI100。122.5km、26時間近く走ってから待ち受ける44kmには、あと3つも越えなければならない大きな山が。時刻は午前4時を回った。昨年は、夕刻にここを出たので辛さに加え寒さ、暗さで気持ちも下向きだったが、その点今年は日が昇ってその日にはゴールと思うとメンタル的には幾分楽だった。

(上)第七エイドにつく頃にはすっかり明るくなった。思考能力も下がったところにこのボードはありがたい。(左)様子を見れば一目瞭然、ぐったりしているのがFUJIの選手。(右)杓子山への上り途中の予期せぬ渋滞。またたく間に体は冷え、慌てて上着を着る。

141.0km地点:予期せぬ最終盤の大渋滞

第七エイド、二十曲峠(136km)までは13.5kmしかないのだが、コースは標高差約400mをアップダウンを繰り返すトレイル。普段ならなんてことないが、ここにきてこれはものすごくきつい。4時間以上かけてやっとエイドに到達した。KAI70kの選手は、Mt.FUJI100と同じコースの後半70kmを走る。北麓公園を一日遅れの、4月27日午前0時にスタートしたので大半の選手はFUJIの選手を追い越していく。昨年は時間の被りがほとんどなかったが、今年はこのエイドあたりから重なってエイドもにぎやかだった。KAIの選手はまだまだ元気、羨ましい。 昨年はつらすぎて、ここから先行くかやめるかしばらく悩んだ。今年は、ここまでの方がきつかったと思え、躊躇せず足早に出発した。

次のエイドまで、ラスボスと言われるレース内最高地点の杓子山(1597m)までの険しい上りと下りがある。上り途中で、突然前が詰まった。3箇所ほど鎖を使って登らなくてはならないポイントがあり、そこを通過するのに渋滞がおきたのだ。渋滞解消までおよそ1時間かかった。これで目標の39時間は達成できないことが確定、それでも昨年の結果39時間58分を越えられる可能性は残っている。

(上)昨年は真夜中に到着した山頂。今年は朝の早い時間。ここまで登ってきて応援してくれる人もたくさんいてにぎやかだった。(左)ゴールまで残り3kmのところに、リタイアしてしまった仲間が待っていてくれた。応援は驚くほど力になる。(右)今年のゴールは富士北麓公園のスタジアム。陸上トラックの上なのでとても華がある。

147.8km地点:突然、自分の中のスイッチが切れる

鎖場を抜けると一気に渋滞が解消された。時間を取り返すべく懸命に足を動かす。尾根上なので、山頂は見えているがなかなか近づかない。やっと鐘の音が聞こえてきた。山頂にある天空の鐘を選手が鳴らしているのだ。ここまでの辛さが思い返され涙が止まらないまま山頂に。今年も思い切り鳴らすことができた。大会スタッフや応援に来てくれた仲間に送り出され山頂をあとにする。昨年は眠くて朦朧としながら蛇行した下りの林道は、今年は昼間だったので眠くもならずに最後のエイド、富士吉田(147.8km)についた。

自分でも驚いたのだが、ここに来て突然スイッチが切れてしまう。あとたった18.8kmなのに、35時間39分も走ってきたのに……やめたい。猛烈に眠い、足裏が歩くだけで痛い。これが2回目の難しさ、というやつ?一度完走してるんだしもういいかな……行きたくないからもたもたエイド食を食べたりして葛藤と戦い、なんとか気持ちを切り替えて出発した。

(上)道中は数回べそをかいたが、今年は泣かずにゴール。この瞬間にすべてが報われる。(左)GPS頼りに私を追いかけ、5回もコース上に現れては応援してくれた妹。あの杓子山も登って山頂で待っていてくれた。(右)コースの歴史や風景が織り込まれた和風デザインの完走証。海外から来る選手も多いから喜ばれるだろう。

166.6km地点:涙なきゴール、自己ベスト更新

出発したものの、足裏は針を刺すように痛くフラットなロードも走れない。明るい町中なのに睡魔もひどい、真剣に横になれそうな場所を探しながら進んでいたら妹が現れて、少し一緒に歩いてくれた。ロードを終えて、最後のトレイルに入った。トレイルに入ったら足の痛みもマシになり、不思議と辛い登りなのに生き返る感じがした。ラッキーなことにちょうど同じペースのランナーと話をしだしたら眠気もなくなった。いよいよ、最後の上りを終え、ゴールまで6kmの表示、誘導のスタッフは大音量で音楽をかけ盛り上げてくれた。

ここで、最後のウェーブがやってきた。すごい集中力、足も不思議と全く痛くない、無我夢中で何人もランナーを抜かしながらトレイルを駆け下りた。が、それもずっとは続かず、残り3kmは再び足の痛みと闘いながらそれでも出せるマックスの走力、気力で走り続けた。

結果は39時間49分22秒。昨年から8分59秒、目標の39時間には遠く及ばなかったが、それでもわずかにタイムを縮めることができた。スタート時間変更などの影響により、全体の完走率が2023年の70.67%から67.19%に下がっていることを考えると、ベストを更新できたのは上出来だろうか。

もう一つの目標、昨年より楽しむこと、これも達成。過去一楽しいレースだった。

私にとって、100マイル・レースは命を削って挑むくらい過酷だ。でもそれを成し遂げるための努力と、成功は、そうしてでもやる価値のあるものだと思う。

またつい来年も……と気持ちは揺らぐのだが、まずは2年分のお礼がしたい。2025年はボランティアと言う形で参加させていただこうと思う。

一部画像提供:©富⼠箱根伊⾖トレイルサポート

佐々木 希
都内在住ながらほぼ毎週末、登山かランのため山に通うトレイルランナー。野菜ソムリエプロ資格を取得、エステティシャンの経験もあることから健康や身体づくりに目覚め、ヨガ、ランニング、登山、ウェイトトレーニングなどに取り組み、ボディコンテストで表彰台を獲得。2021年からトレイルランニングのレースに参加し、第2回ジャングルぐるぐるMAX G2(80km)女子優勝をはじめ入賞5回。2023年に100マイル・レースであるULTRA-TRAIL Mt. FUJIに初参戦・初完走。良質な脂質、低糖質・高タンパクの材料を中心とした食生活を心がける一方、レース前以外のディナーは好きなメニューを楽しむ。日本大学文理学部卒。

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