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「おうち居酒屋」シリーズが大ヒット! 魔法瓶の老舗、ピーコック魔法瓶工業が次々と新しい風を吹き込む。その秘密を女性社長に聞いた

マイナビ学生の窓口

74年にわたってものづくりを続けている大阪の老舗企業、ピーコック魔法瓶工業

70年以上の歴史を持つピーコック魔法瓶工業。2015年に代表取締役社長に就任した山中千佳氏は、マーケティングやEC、女性意見を取り入れ、これまでにない商品を展開してきました。同氏にピーコック魔法瓶工業の“いま”をお聞きします。

【画像】大ヒット商品!携帯型氷のうの「アイスパック」シリーズ

魔法瓶の老舗、ピーコック魔法瓶工業

大阪府大阪市福島区鷺洲にあるピーコック魔法瓶工業は、1950年に設立された歴史ある企業です。社名の通りステンレスボトル、ポット、ジャグを主に取り扱っており、電気ポットやホットプレートなどの電化製品も製造・販売しています。

75年目を迎える現在、従業員数は約96名。大阪市住之江区にある工場で日本製のガラスポット・ジャグを生産しているほか、20年前から中国6社とともにものづくりを行っています。現在、全体の約2割が国内生産、約8割が中国での生産。主に中近東に向けて輸出も行っていますが、現在アメリカへの輸出にも挑戦中です。

2015年、そんなピーコック魔法瓶工業の4代目として代表取締役社長に就任したのが山中千佳氏です。決して大企業とは言えないながらも、確かな技術とかゆいところに手が届く豊富なラインアップ。信頼されるものづくりで着実な歩みを続ける同社の歴史と社風、現在の歩みについて、山中氏に伺いました。

ピーコック魔法瓶工業 代表取締役社長 山中千佳 氏

知っていますか? 日本の魔法瓶産業の歴史

社名に”まほうびん”が入っている会社といえば、ピーコック魔法瓶工業以外にも象印マホービンやタイガー魔法瓶などが有名です。
生水を沸かして飲む必要がある東南アジアや中国、インドなどでは魔法瓶は生活必需品として早くからニーズがあり、ほとんどの日本の魔法瓶メーカーは当初輸出をメインとして展開していました。  
そこで、現地にも馴染みやすいよう、それらの地域に生息する動物の名前(象、虎、弊社は孔雀)を社名につけたと言われています。

明治時代の終わりから始まった日本の魔法瓶産業ですが、第一次世界大戦が勃発すると、東南アジアなどではそれまで主力であったサーモスなど欧州勢の供給が途絶えたため、
日本製魔法瓶の需要が伸び、ガラス生産量が多かった大阪で多くの魔法瓶メーカーが起業しました。

その後、国内への需要にシフトし、日本の高度成長時代には専業主婦層の大量出現とともに一家に一台以上と言われた保温ポットが全盛になりました。
しかし、ライフスタイルの変遷とともに市場が縮小し、多くの企業が閉業していく中で残ったのが、現在の魔法瓶メーカーなのです。

ヒット商品が目白押し! ピーコックのイチオシ商品

まずは、現在のピーコックのイチオシ商品をご紹介していきましょう。

ピーコック魔法瓶工業の主力製品のひとつは、もちろんステンレスボトルです。しかしコロナ禍による外出自粛などの影響を受け、2020年ごろからステンレスボトルの需要は一時大きく低下しました。

これを受け、同社は調理家電の開発を増やします。デザイン性に優れ、煙が出にくく洗いやすい電気焼肉器は、コロナ禍のお家需要も相まってスマッシュヒット。同社の事業を支える大切なジャンルに成長しました。

ピーコック魔法瓶工業の調理家電シリーズ

最新のホットプレートは、スチーム用ポケットを搭載し、焼くと蒸すが同時にできる商品です。保管時にフタをバンドで止めてコンパクトに収納できるようになっています。

「焼く」と「蒸す」が同時にできる最新のホットプレート

2024年の夏にブレイクしたのは携帯型氷のうの「アイスパック」シリーズです。これは氷のうを魔法瓶構造の専用ホルダーの中に入れる仕組みとなっており、外出時でも冷たさが維持できることが特長。とくに母親世代から「コンパクトに持ち運べ、運動時や外出時、発熱時に子どもの身体を冷やせる」とSNSを中心に人気を博しました。

山中氏も開発に直接関わったという「アイスパック」シリーズ

継続的な人気でブランド化したのが「ピーコックのおうち居酒屋」シリーズです。ビアタンブラーを皮切りに各種タンブラーを展開し、さらにミニアイスベールやワインクーラー、酒器セットなども発売。最近は魔法瓶構造を活かした酒燗器も登場し、お酒好きの心をガッチリと掴みました。

お酒好きにはたまらない「ピーコックのおうち居酒屋」シリーズ

海外で高い評価を受けたのは、2023年にクラウドファンディングサービス「makuake」において、プロジェクト開始後30分で目標金額を達成し、2024年から一般に販売されたクーラーバケットです。この商品は、アメリカ・シカゴで開催された「The Inspired Home Show 2024」において、プロダクトデザイン賞・サステナブルカテゴリの「グローバルオノリー(winner)」を受賞しました。 

クーラーバケットはそのデザイン性を高く評価され、海外でも賞を獲得

このほか、ゲームファンに向けて作ったゲーミングタンブラーというチャレンジャブルな商品もあります。これも、以前のピーコック魔法瓶工業では出てこない商品と言えるでしょう。

これまでのピーコック魔法瓶工業のイメージを覆したゲーミングタンブラー

急遽4代目社長になった山中氏

山中千佳氏は、創業者一族の長女として生まれました。しかし3歳上の兄、山中佳弘氏がおり、長い間家業とは無縁の人生を送っていたそうです。

「私は、短大を卒業してから総合商社で7年ほど営業事務をしておりました。その後、もともと興味があったアパレル業界に転職し、3年ほど働いている間にゴルフに興味を持ちまして、今度はゴルフ業界に行きました。そこでゴルフ場の仕事を経験した後、今度はその親会社に異動と、いろいろな経験をさせてもらいました」(山中氏)

転機が訪れたのは2006年。当時、2代目の代表取締役社長を務めていた実父の山中茂弘氏からの要請で、ピーコック魔法瓶工業に経理として入社。大原簿記学校に通って経理の勉強をし直しながら、財務の責任者となります。その後、跡を継いで3代目社長になった兄の山中佳弘氏を補佐しながら家業に邁進してきました。

しかし、3代目社長として会社を率いていた山中佳弘氏が2015年に体調を崩してしまいます。こうして山中千佳氏は2015年、急遽4代目社長に就任することになりました。

「社長として働く父をずっと見てきましたが、本当にものづくりが好きで、デザインもする人だったんですね。スケッチブックに魔法瓶のイラストを描いたりするくらい、1からものづくりに関わる人でした。でも、社長という立場はなってみないとわからないことだらけでした」と、山中氏は当時を振り返ります。

財務を担当していたもののの、ものづくりに関する知識・経験は乏しかった山中氏。前社長の体調不良で急な社長交代となったため、引き継ぎもうまくできていません。生産現場を見てもその本質を捉えることは難しく、商品化に至るメーカーの努力を改めてかみ締めることになります。

「これまでは父がものづくりの中心となり、父の提案でみなさんが動いていたということに気づかされました。みんなに助けてもらいながらやってきましたが、それでもなかなかうまく回らないというのが、社長になって一番難しかったところですね」(山中氏)

「社長という立場はなってみないとわからないことだらけだった」と山中氏

『「食」に「感動!」を』を新たな企業理念に

代表取締役に就任した山中氏は、ものづくりを大切にしながらも、新たな風を吹き込んでいきます。

一つ目は、女性の意見を取り入れるため、女性社員を積極的に採用したことです。これによって、就任当初は28%だった女性社員比率が現在40%まで増加しました。

「当社製品の多くを使うのは女性ですし、選んで買うのもたいてい女性です。ウェイトが高いぶん、製品のプラス面・マイナス面は女性の方が分かっていると思いました」(山中氏)

二つ目は、商品化決定までのレスポンスの速さ、大企業ではないからこそのスピード感です。要望やアイデアが山中氏まで上がってくることの速さを重視し、基本的に社長室はいつでも開放されています。新入社員からは「こんなに社長と距離の近い会社でよかった」という声もあるそうです。

「魔法瓶は同じような製品がたくさん流通していますから、他社が行わないような商品開発を進めなければなりません。もちろん金型投資などは掛かるのですが、リスクにチャレンジしなければならないんです」(山中氏)

三つ目はマーケティング部の発足とECサイトの立ち上げ。これまで同社はホームセンターと家電量販店を主軸として商品を販売してきました。そういった売り場の商品を置き換えるだけでなく、消費者目線を捉え、より市場の変化に柔軟に対応しなければならないという思いから作られたものです。

もともとの社是「誠実」、「感謝」から、2020年に『「食」に「感動!」を』という企業理念を定めました。これには、「お客さま視点でものづくりをしながら、お客さまに本当に感動してもらえる商品作りをしていこう」という思いがあるそうです。

「幸せのかたちはひとそれぞれですが、そのどんなシーンにも必ず『食』が存在します。我々の商品をお客さまに使っていただく中で『感動』を与えられたらなと思っています」(山中氏)

ピーコック魔法瓶工業はいま、「One Peacock」という言葉のもと、部門間の連携、社員間同士の感謝の気持ち、お客さま視点でのものづくりを進めています。山中氏は「縁あって当社に来てくれた社員は、みんな家族だと思っているんです。ひとつの商品を完成させるまでの過程をみんなで共有しながらやっていける会社にしたいというのが、一番の思いです」と話しました。

『「食」に「感動!」を』という企業理念から、山中氏の思いが伝わってくる

ブランディングの強化と認知度向上に注力

山中氏のもと新しい風を採り入れ、挑戦を続けているピーコック魔法瓶工業。ECを立ち上げてからはBtoCの生の声が拾えるようになり、ユニークな新商品の開発も進みました。またアメリカ市場への輸出の取り組みも始まり、地域ごとの特性にあった商品開発も行われています。同社のこれからの展望について伺ってみましょう。

「オリジナリティのある自社商品の開発も含め、今期に関してはブランディングを強化していきたいと思っています。これは社員もみんな思っていることですが、『認知度を上げる』ということにもっと注力しないといけないという思いがあります。そして消費者の方が本当に欲しいと思っている商品、感動できる商品を作り、会社として成長していかないといけないと思います」(山中氏)

また、ピーコック魔法瓶工業のものづくりに興味を持っている若い世代に向けてメッセージをいただいたので、ご紹介しておきましょう。

「私は、若い世代が『ピーコック魔法瓶工業で働きたい』と思う魅力のある会社にしていかないといけないなと常々思っています。そのためには『若い方がこんなものづくりをしているんだ、おもしろいな』と思ってもらう必要があります。当社は中国で生産を委託するだけではなく、住之江工場で日本ならではのものづくりも行っています。いまの若い世代のみなさんとアイデアを出し合いながら、ピーコック魔法瓶工業だからできるものづくりをしていきたいと思います」(山中氏)


取材・文:加賀章喜
編集:マイナビ学生の窓口編集部
協力:ピーコック魔法瓶工業 

https://www.the-peacock.co.jp/

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