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レストラン業界の未来を描く。女性達のリアルな声を届ける、仲山今日子さん著『私は料理で生きていく』

料理王国

レストラン業界の未来を描く。女性達のリアルな声を届ける、仲山今日子さん著『私は料理で生きていく』

“女性の活躍推進”と言われて久しい。海外では、女性首相が乳児を連れて国会に出席したり、管理職に占める女性の割合が40%を超える国もあるなど、その活躍が目覚ましい。

ところが、日本はどうだろう。世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダーギャップ指数」によると、2024年6月時点で日本の順位は146か国中118位。前年の125位から7ランクアップした順位ではあるものの、先進7カ国(G7)の中では最下位に位置したままだ。とりわけ日本の料理業界を見てみると、女性であることがハンディキャップになることが多く、“プロの一流料理人”の顔ぶれはまだ圧倒的に男性が多い。

そんな中でも、「日本でも近ごろ、自分にとって働きやすい状況で、自分の作りたい料理を追求する女性オーナーシェフや料理長が目立ってきた」と語るのは、ジャーナリストの仲山今日子さん。今年6月に出版され、注目を集めた仲山さんの書籍「私は料理で生きていく」(グラフィック社)のテーマはまさに「料理界と女性」だ。

志摩観光ホテル総料理長の樋口宏江さん、「中国料理 美虎」オーナーシェフの五十嵐美幸さん、「été」オーナーシェフの庄司夏子さんなど、日本の料理界で活躍する10人の女性シェフ達がどんな困難にぶつかりどのように乗り越えたのか、それぞれのストーリーをせきららに綴ってある。今回は仲山さんがこの本を書くことになった経緯や、込められた想い、料理界で奮闘する女性達へのメッセージをお届けする。

photo:宮本信義(グラフィック社刊『私は料理で生きていく』より)

――初めにこの本を企画されたのは、いつ、どのような経緯があったのでしょうか?

仲山:私自身は元々、仕事に穴を開けることができない専門職(テレビの局アナウンサー)の仕事をしていました。女性としてのキャリアについて、若い頃、悩んできたのが元々の背景にあります。そして、ジャーナリストとしてレストランの取材をしていく中でも、トップシェフと呼ばれる人々の女性シェフの割合が少ないことも、気になっていました。

この問題に対して、きちんと考えていくべきだと思うようになったきっかけは、2019年にタイ・バンコクで行われた女性シェフのサミット「Woman in Gastronomy」というイベントに参加したことです。

このサミットでは、「世界のベストレストラン50」で女性シェフ賞に選ばれたことがある、スロベニアのアナ・ロスシェフなど、世界中から多くの女性シェフが集まりました。そして壇上で、ミシュランガイドや50ベストなどで賞を受けている女性トップシェフの少なさについて訴えていたんです。また、女性シェフのキャリアに関しての悩みは、かつて自分が持ってきた悩みとも重なるように思えました。

また私の友人で、「アジアのベストレストラン50」で最優秀女性シェフやベストペストリーシェフに選ばれた庄司夏子シェフと共に、いくつかの海外のイベントに参加しました。数ある中でも、スペインで行われた女性シェフと女性生産者のイベント「フェミナス」に参加した際に、世界では女性同士が集まり、お互いに情報交換をしたり、高め合ったりする場が多くあり、ロールモデルを描きやすいのだと感じました。

そんな中で、かつて料理専門誌の編集者をなさっていた、グラフィック社の和久綾花さんと一緒に本を作ることになったんです。

――日本だけでなく海外でも活動を続けられる中で、料理業界と女性について、課題を見出されたのですね。取材を進める上で苦労したこと、印象に残っている出来事などを教えてください。

仲山:お話を聞くシェフを選定させていただく際には、年齢、料理のジャンル、個人店か大きな組織か、開業の場所に至るまで、なるべく多様な方を選んでいます。読者の皆さんにとって、さまざまな形のロールモデルが描けるように心がけました。

執筆開始から校了まで半年ほど。他の連載執筆を抱えながら海外出張が重なるなど、他の仕事をしながらの執筆が大変といえば大変でしたね(笑) でも、それぞれに道を拓いている女性シェフ達から、たくさんの気づきをいただき、私自身とても勉強になりました。

――日本では現在も未だ、料理の世界で長く働き続ける女性が少ない状況があります。本に登場する10人の女性料理人たちが活躍を続ける理由はどこにあると感じましたか?

仲山:この10人の女性シェフ達は、何があろうと、やり通す覚悟を持っていました。

「何かあったら、どうしよう」と挑戦しないのではなく、「やりたいことをするためには、どうすれば良いか」とポジティブな未来を描き、具体的な対応手段を考えている。そうして一歩踏み出して、実際に何かがあったら、ありとあらゆる手段を使って解決するということ。常に「やらないための言い訳」ではなく「やるための努力」をして、前を向いて歩いている方ばかりだと感じました。働く環境や目標、困難や課題は、まさに十人十色。それぞれのストーリーはぜひ本を読んでいただけたら幸いです。

――ありがとうございます。様々なライフイベントを経ながらも社会と繋がり、活躍を続けているパワフルな女性の代表として、仲山さんから悩める女性料理人の皆さんへメッセージをお願いします。

仲山:私自身が、子供の頃から一生仕事をしていきたいと思っていたので、結婚や出産を経ても仕事を続けたいと思い描いていました。

当時働いていたテレビ局では、出産後に職場復帰した、初めての局アナウンサーでした。番組に穴を開けることができない仕事ながら、子供が急に発熱したり、東日本大震災後には24時間体制でのニュースの交替勤務にあたったりなど、想定していなかった事態が多くありましたが、両親の手助けと、理解ある職場に恵まれて、なんとか乗り切ることができました。復帰にあたり、実家と職場の両方からアクセスの良い場所に引っ越して、レギュラー番組を子供の保育園の迎えに間に合う夕方のニュース枠に変えてもらうなど、配慮していただきましたね。

周囲は共働きの家庭がそこまで多くなく、身内からも「子供がかわいそう」と言われることもありましたが、私はきっぱり「そういうことは言わないで」と伝えました。そんな言葉を子供が聞いてしまうと、「自分はかわいそうなんだ」と思ってしまったり、「母親が働くことは悪いことだ」という先入観を持ってしまうかもしれません。子供と過ごす時間が少ないことに罪悪感を持つのではなくて、限られた時間の中で子供と何ができるのかを考えた方が良い。一緒に料理を作ったり、登山に行ったり、遺跡を巡ったり……。短い時間をいかに充実して過ごすか、という事に気を配りました。

人生は不確定なもの。特に、若いうちは不安になることが多いと思います。私自身も、局アナウンサーをしていた時代に、結婚や出産を考えたらフリーランスになった方がいいのか、なるとしたらいつがいいのか、など悩んだ時期もありました。でも、不安になるのは、裏を返せば、多くの選択肢があるということ。例えば女性の出産には年齢的な制限がありますし、歳を重ねるにつれて、選択肢は狭まっていきます。悩めるうちに、つまり、選択肢が多いうちに、何を自分はやりたいのか、「譲れないこと」のプライオリティをつけて、そこから逆算して物事を考え、選択肢を決めていくと良いのではないかと思います。

先輩たちがどのようなことに悩み、どのように乗り越えてきたか。この本が、料理業界の女性だけではなく、キャリアに悩む若い人達に、広く読んでいただけたら嬉しいです。

「私は料理で生きていく」(仲山今日子 著/グラフィック社)
日本で活躍する女性シェフ10人を取材。彼女達がどのような人生を歩み、どんな困難を乗り越えてきたか、せきららに綴る。それぞれにつく「自分史年表」「一日のスケジュール」も必見だ。海外の女性シェフ3人のインタビューも掲載。また本書は“料理本のアカデミー賞”とも言われるグルマン世界料理本大賞でスペシャルアワードを受賞。

【本の著者】
仲山今日子さん
ジャーナリスト。テレビ山梨、テレビ神奈川の局アナウンサーとしてニュースキャスター、料理番組司会などを歴任。シンガポール在住時、国営ラジオ局でDJとしてアートと食の番組を担当。現地テレビ局に勤務し、日本の自治体等と共に食と旅を切り口にしたインバウンドイベントの開催、その他、司会やコーディネーションを行う。海外・国内の食の審査員としての活動も多数。世界約60ヶ国以上を訪ね、取材した飲食店や食文化について国内・海外の新聞・雑誌、食のガイドブックに執筆中。
Instagram @kyokonakayamatv

撮影:宮本信義(グラフィック社刊『私は料理で生きていく』より)

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