外来魚が定着する環境で<水草>が魚に及ぼす影響 水草が多いと魚の密度も増加?
水草は陸水生態系における重要な役割を担っており、様々な生物の隠れ家や餌となっています。
これまでの研究で水草密度は魚類密度を増加させることが判明しており、これは水草が隠れ家として機能していることに起因するとされているようです。
一方で、魚たちがどのようにして水草を利用しているのか、増加影響の背後にあるメカニズムについての詳細な行動観察データは不足しているといいます。
そのような中、2025年5月22日に「Freshwater Biology」に掲載された論文『Benefits of Aquatic Vegetation for Fish in an Ecosystem Dominated by an Invasive Piscivore』では、コクチバスが定着している長野県野尻湖では水草が多い環境ほど魚類の密度が高いこと、小型魚が捕食回避のため水草利用していることが示されました。
重要な役割を持つ水草
水草は水中の生息空間の複雑性を高めるだけでなく、様々な生物の餌や隠れ場所を提供するほか、水質改善など陸水生態系において非常に重要な存在です。
先行研究により水草の豊富さは魚類の種数や密度を増加させることがわかっており、この増加効果は主に水草が捕食者からの隠れ場所を提供していることに起因していると考えられています。
しかし、さまざまな魚種が水草をどのように利用しているのか、その結果生じる一般的な増加影響の背後にあるメカニズムについての詳しい行動観察データは不足しているそうです。
水草が回復しつつある野尻湖
今回の研究では、1990年代から外来魚であるコクチバスが定着している長野県野尻湖で調査。
この湖はかつて、1970年代に放流されたソウギョの採食圧により水草が少ない状態が続いていましたが、近年は回復に向かっています。
そこで、今回の研究ではこれらの水草が魚類にどのような影響を与えているのか調べるため、水草と魚類の分布調査を実施するとともにビデオ撮影による魚類の水草利用の観察が行われました。
水草密度は魚類密度を増加させる
観察の結果、野尻湖の水草群落は5種の在来種で構成され、初夏から秋にかけて密度が増加することが判明。また、魚類群落は3種の在来種(ヨシノボリ、フナ、ウグイ)と、4種の外来種(コクチバス、オオクチバス、ブルーギル、コイ)で構成されていました。
全体として、水草密度は魚類密度を増加させる影響を与えてた一方、魚類の行動分析では水草密度はすべての魚種の総採餌回数を減少させる影響があったとのこと。
当歳魚の行動変化
また、潜在的捕食者(主にコクチバス)の存在下では、ヨシノボリとブルーギルの当歳魚(その年産まれた個体)に顕著な行動の変化が観察されました。
両種ともに、当歳魚は捕食者不在時には魚体を水草の上に浮かせ中層で頻繁に採餌をした一方、捕食者存在下では水草に近づき、水草の茎の表面を低頻度で採餌する行動に移行したのです。
これらの結果から、水草が多い環境では魚類の採餌回数は減少するものの、当歳魚などの小型魚類の捕食回避に有効であることが示唆されました。
外来種も水草を利用
今回の研究では、ヨシノボリの稚魚が水草を利用し捕食回避していることが示された一方で、外来魚であるブルーギルの稚魚も同様に水草群落を利用していることも判明しました。
また、コクチバスが獲物を待ち伏せするためにも、これらの水草群落を利用している様子も観察されたようです。
これらの結果は、水草による生息空間の複雑化は在来魚に有益であると同時に、外来魚にとっても有益である可能性を示すものとなりました。
そのため、野尻湖のようにバス類の存在を容認する管理方法が採られる環境においては、魚類の多様性を維持する上で水草が重要な役割を果たしていると考えられています。
水草からの利益は様々
野尻湖で行われたモニタリングからこの環境では、水草が多いほど、在来魚、外来魚ともに密度が高いことが明らかになりました。魚種や生活史、採餌方法や栄養段階により水草の利用方法は多様であると考えられています。
また、上位捕食者がいる湖では水草が増加すると、栄養段階の下位の魚が大きな割合で増加することが分かっており、野尻湖でのモニタリング研究はこられの潜在的な傾向を理解するのに役立つことが期待されています。
(サカナト編集部)